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2-8:初ダンジョン

 翌朝、私が眠そうに目を覚ますと、アメリは横になったままタマモを撫でていた。ピーちゃんは昨日の魔法で疲れていたのかまだ寝ている。


「おはよぉ…」

「おはようございます」

「コン!」


 ハドックとパーラも私に挨拶をすると、ハドックから報告を受ける。


「アメリ、隣の部屋に誰かいるみたいだよ?」

「ナナがいると思います」

「じゃあ大丈夫だね」


 みんなが起きた気配を感じたのか、ピーちゃんも眠そうに起きる。


「ピー…」

「ピーちゃん、おはよう」

「おはようございます。昨夜はありがとうございました」


 アメリはそう言ってピーちゃんを撫でる。私たちは服を着替え、パーラに髪を梳かしてもらう。パーラは二つのブラシを器用に使い、私とアメリの髪を同時に梳かす。寝室を出るとナナが待っていた。しかし、問題はここからだった。アメリの顔を見たナナが、驚いた顔のまま一歩一歩アメリに近付く。


「アメリ様、そのお顔は…」

「ナナ、このことは内密に」

「しかし…」

「朝食の準備をお願いします。終わり次第、お父様とお母様を私の部屋まで呼んでいただけますか?」

「かしこまりました。朝食はこちらで?」

「はい、お願いします」

「では失礼いたします」


 ナナが驚いたまま退室すると、アメリは私に謝罪する。


「レイアさん、申し訳ありません…」

「覚悟はしてるつもり」


 朝食後、アメリの要望通り、王様と王妃様がアメリの部屋までやってきた。部屋に入った二人はアメリの顔を見たまま硬直していた。


「お母様、体調はよろしいのですか?」

「え、ええ。顔色もいいと言われて…」

「まさかアメリの傷跡が治るとは…。レイアさん、なにをしたのかお教え願えませんか?」

「その…」

「お父様、お母様。レイアさんはどうやって治したのかを秘密にするように私に願いました。ですから、これ以上は」

「わかりました。しかしなにかお礼をしなければ…」

「お礼もわたくしの方で済ませてありますので問題ありません」

「ふむ…。ところで、レイアさんはいつ頃ここを出発なさるのですか?」

「お昼前には出発したいと思ってます」

「アメリ、最後までしっかりと務めるのですよ」


 二人はアメリの頭を撫でると退室していった。二人が退室した後、アメリはお礼について話を始めた。


「レイアさん、お礼はどうすれば…?」

「お城から出られればいいよ?」

「それではわたくしの気が済みません!」

「そう言われても…」


 私は何も貰わなかった。アメリは不満そうにしていたが、欲しいものはなかった。そして、残り少ない時間をアメリと過ごす。


 出発する時間になり、私たちはアメリの部屋を出る。城門前までアメリとナナが付き添ってくれた。城内を歩いていると、お城で働く人々が全員立ち止まって私たちに頭を下げるが、傷跡が消えたアメリの顔に驚いているように見えた。城門前、ここで本当にアメリと別れることになる。


 城門前でアメリと向き合うと、背中に背負ったパーラがごそごそと動き始めた。パーラを降ろすと、鞄の口と蓋の間から一枚のお皿が頭を出していた。それはアメリ用のお皿。私はパーラの意図を感じ取り、お皿をアメリに渡す。


「アメリ、これ」

「これは…」

「私たちからのプレゼント、かな」

「…ありがとうございます。大切にします」

「ピー!」

「え?ピーちゃんもなにかあげるの?」


 特等席にいるピーちゃんは小さな嘴で自らの体から緋色の羽根を一枚取って落とす。緋色の羽根はゆらゆらと宙を舞い、アメリの持つお皿の上にそっと落ちた。


「ピー!」

「お守りだって」

「…大切にします」


 アメリは今にも泣き出しそうなのを必死に抑えていた。しかし、その涙はすぐに溢れることになる。私はパーラを背負い、アメリはピーちゃんの羽根を持ち、お皿はナナに預ける。そして、アメリは意を決したかのように口を開く。


「あの…、私のお友達になっていただけませんか…?」

「もう友達だと思ってたけど、違った?」


 私の言葉を聞いた途端、今まで必死に抑えていたアメリの感情が溢れ出す。昨夜、傷跡を治した時のように、私に抱きつき泣き始めた。私はそれを優しく受けとめ、泣き止むまで頭を撫で続けた。泣き止んだアメリは私に尋ねた。


「レイアさん、また会えますか…?」

「私は冒険を続けるつもりだから、どこかでまた会えると思うよ」


 私たちはお互い名残惜しそうにして別れ、アメリとナナを残して城門をくぐる。少し進んで後ろを振り返ると、アメリはこちらをずっと見つめていた。私たちは前を向いて歩き出す。次に振り向いた時にもアメリはまだ城門前にいるように見えた。正確に見えたわけではないが、小さな人影がそこに佇んでいた。


「ピーちゃん、あのね…」


 私がピーちゃんにお願いすると、特等席から空に向かって小さく炎を吐いた。心地良い温かさが、頭上からわずかに広がっていく。炎が見えたのか、小さな人影が頭を下げたように見えた。その後再び前を向き、私たちはアクアハーバーへと入っていく。


 キュラスに報告するため、冒険者ギルドに向かった。昼頃に到着し、受付にいるアネモネに挨拶をして、キュラスに会いたいと伝える。


「アネモネさん、おはようございます…、にはちょっと遅いかな」

「おはよー、ずいぶん遅いのね」

「あの、ギルドマスターはいますか?」

「いると思うけどなにか用?」

「少しお話があって」

「ちょっと待ってて」


 アネモネは奥まで行き、しばらくすると戻ってきた。キュラスも話があるということで、私たちはギルドマスターの部屋まで行く。


「レイア、心配したぞ。昨日のうちに戻ってくるものだと思っていたからな」

「そのまま泊まることになってしまったので…」

「無事ならそれでいい。話せる範囲でいいからなにがあったか話せ」


 私が出会った少女はお姫様で、少しだけ一緒に行動したこと。無事にお姫様をお城に帰したことで感謝されたこと。そしてお姫様のわがままで一泊したことを話した。話した内容が淡泊だったのか、私が何かを隠していることはキュラスも気づいているようだった。


「王族とのことだ、話せないこともあるだろう。流れは大体わかった。この後は氷作りに行くのか?」

「本当は昨日のうちにここを出る予定で、借りていた家も引き払ってしまったので、この後は氷作りをして報告に戻ったらすぐに出発しようと思います」


 私たちは冒険者ギルドを後にし、いつもの倉庫に向かう。倉庫にはいつも通りブルがいた。ブルは驚いた様子で私たちに話しかける。


「嬢ちゃんじゃねえか。どうしたんだ?」

「色々あって…。このあと出発するので、その前に氷作りに来ました」

「そうか!助かる!」


 私はピーちゃんとタマモに支援魔法をかけ、氷塊を三十個作り、うち十個を砕氷に。そしてブルから書類を受け取り、冒険者ギルドに戻った。


「アネモネさん、お願いします」

「はーい。ギルドマスターから聞いたけど、今日出発するのね」

「はい、お世話になりました」

「私はなにもしてないから。はいこれ、あとこれね」


 アネモネはいつも通りの報酬と一緒に何かが詰まった紙袋を私に渡す。袋の中には、以前キュラスからもらったパンの包みがたくさん入っていた。


「これは?」

「ギルドマスターに渡しておいてって言われたの。ちょっと量が多すぎると思うけど、大丈夫?」

「大丈夫です!ギルドマスターはいますか?」

「私にそれを渡してどっか行っちゃったわ」

「ギルドマスターにありがとうございますって伝えておいてください」

「はーい。じゃあ気をつけてね」

「はい!」


 私たちはギルドを後にし、そのままアクアハーバーに入る時に通った北門を出る。


──楽しかったなぁ。ご飯がおいしかったし、生魚なんて初めて食べたよ。大変なこともあったけど、アメリにも会えたし。とりあえずメイカルトに戻ってからどうするか決めようかなぁ。あ、あやかさんに手紙出した方がよかったかなぁ?


 私が考え事をしていると、空腹に耐えかねたピーちゃんが口を開く。


「レイア…、お腹空いたぁ…」

「あ、ごめん。街道から少し外れてご飯にしよっか。ギルドマスターからもらったパンを食べよう!」


 私たちは街道を外れて平原へ入り、遅めの昼食を取る。


 一週間後の昼過ぎ、私たちはメイカルトに戻ってきた。アクアハーバーを出るのが遅くなった分、到着も遅れてしまったが、メイカルトに入ると懐かしい賑わいが私たちを出迎える。


「ギルドに行こっか」


 私たちがギルドに入ると、あやかがいつも通り受付にいたので挨拶をする。


「あやかさん、戻ってきました!」

「レイアさん、おかえりなさい。アクアハーバーはいかがでしたか?」

「楽しかったです!」

「このあとはまた別のところへ?」

「今日はここに泊まって、明日考えます」

「ではごゆっくりお過ごしください」


 私たちはギルドを後にし、いつも使っていた宿屋に向かう。宿屋ではおかみさんが私たちを出迎えてくれた。


「おかみさん、戻ってきました!」

「レイアちゃん、おかえり!」

「今日泊まれますか?」

「泊まれるよ」

「じゃあお願いします!」


 西門に向かう。ディアンにも帰ってきたことを報告したかったのだ。ディアンは西門の平原側にいた。


「ディアンさん、こんにちは!」

「レイアじゃねえか。帰ってきたのか」

「はい!」

「元気そうだし、強くなったように見えるな」

「そうですか?えへへ。西側はどんな感じですか?」

「概ねいつも通りなんだが…、レイアならいいか」


 グレイウルフの件もあり、私は西側がどうなっているのか尋ねると、予想以上の事態が起こっていた。ディアンが未確定の情報として、森もしくは山にダンジョンが発生した可能性があると教えてくれた。ダンジョンと言えば冒険者ならば誰しもが興味を惹かれるところだが、ダンジョンとの距離が比較的近いため、メイカルトにとっては死活問題になる。


 ダンジョンは最奥にあるコアを破壊しなければ、次から次にダンジョン内からモンスターが溢れてくるという。グレイウルフ以上にダンジョン発生場所の生態系が崩れてしまうので、早急にダンジョンを攻略する必要がある。ダンジョンは発生した場所と同程度のランクを持つモンスターが出現し、森と山では脅威度が段違いなため、現在調査中とのこと。


「まあそんなところだな」

「調査ってリータさんですか?」

「おうよ、いけそうならそのまま攻略しちまうらしい」


 私たちはディアンと別れ、宿屋に戻る。ハドックは中庭で待機し、私たちは部屋へ。部屋にはおかみさんが事前に小さなベッドを二つ用意してくれていた。翌朝、私が眠そうに起きると、ピーちゃんとタマモは小さなベッドで丸くなっていた。


 朝食は焼きたてのパンとスープ。ピーちゃんとタマモにも焼きたてのパンが用意されていた。久しぶりに食べる宿屋のスープはどこか懐かしく、安心する。朝食後、私たちはギルドに向かう。ギルド内はいつも通りの喧騒だった。


「あやかさん、おはようございます!」

「レイアさん、おはようございます。少しよろしいでしょうか?」


 私たちはギルドマスターの部屋に通される。そこには難しい顔をしているボガートと、手当てだらけのリータの姿があった。


「レイアか。アクアハーバーでは活躍したそうだな」

「そんなことないですよ」

「まあいい。それより問題が起きている」

「ダンジョンですか?」

「耳が早いな」


 リータがダンジョンについて話を始めた。ダンジョンは森と山の境目あたりにあり、出現するのはD級~B級までは確認済み。しかし最奥まで行ったわけではないので、A級やS級が潜んでいる可能性も否定できないそうだ。今回のダンジョンはゴブリンやオークが出現するとのこと。


 リータはB級の赤オークに向かっていったが、後ろから赤ゴブリンの集団が出現。逃げる判断をしたが逃げるのに手間取り、傷だらけになってしまったそうだ。何故私が呼ばれたのかについて嫌な予感がしたので、ボガートに尋ねる。


「えっと…、私に行けってことですか?」

「オクトパスリーダーを倒したレイアになら頼めると思っているが…」

「反対」

「私も賛成できません」


 リータとあやかはボガートに異を唱える。私はD級。B級を倒したからといって調子に乗るわけにはいかなかった。自分の強さを勘違いしてあやかに叱られたことは記憶に刻まれている。しかしダンジョンに興味がないわけではないので私は尋ねた。


「攻略は無理だと思いますけど、溢れない程度に討伐するぐらいなら私たちでもできますか?」

「それぐらいならC級の冒険者でもやれるが、今回は素材も欲しい。ゴブリンとオークの角は薬の材料になるから、ギルドの管理下において定期的に回収したいんだが…」

「様子だけ見に行くのはダメですか?」

「いや、まあ、その…」


 ボガートはしどろもどろになりながらあやかを見る。あやかは笑顔だが、怒りのオーラをまとっているように見える。


「わかりました。レイアさんも冒険者ですからダンジョンに興味を持つのも理解できます。ですが、無茶だけはしないでください」

「はい!約束します!」

「じゃあ詳しい話をするか」


 ボガートはそう言い、リータを交えて詳しい話を始める。素材となる角の現物やダンジョンの場所、内部構造の情報をリータに教えてもらう。


「ほとんど一本道なんですね」

「ゴブリンは集団で来る」

「わかりました」

「このまま出発するか?」

「少し準備してから出発します」


 ギルドを後にし、食料の確保と宿屋のおかみさんに冒険に行くことを知らせる。準備を整えて西門に行くと、リータが待っていた。


「無理しないで」

「はい!行ってきます!」


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