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2-6:召喚状

 翌朝、いつも通り眠そうな私とピーちゃん、元気なタマモとパーラ。アメリも比較的元気に起きていたので、よく眠れたように見える。私はピーちゃんとタマモを残し、パーラを抱えてキッチンに向かう。すると、一緒についてきたハドックが私に話しかける。


「ハドック、おはよう」

「レイア様、おはようございます。少々よろしいでしょうか?」

「どうしたの?」

「昨夜、怪しい気配がございました」

「え!?」


 ハドックは続ける。私たちが寝静まり、夜が深くなってきた頃、この家の周囲にいくつかの気配があったとのこと。気になったハドックが闇魔法で索敵をかけると、その気配は人間だった。その後はハドックの索敵に気づいたのか、気配は足早に消えていったそうだ。念のため継続的に索敵を続けており、魔力が少し減っていることも伝えられた。


「ありがとう。今は大丈夫なんだよね?」

「はい。定期的に索敵をしておりますが、いつもと変わりません」

「そういえば闇魔法って索敵に使うんだね」

「レイアは知らなかったの?ハドックは結構使ってるわよ、闇魔法」

「そうなの?」


 パーラは朝食の準備をしながら説明をする。闇魔法はリータのように攻撃に使用することもできるが、索敵や隠蔽として使うのが一般的。そして、夜は闇魔法が一番映える時間帯で、夜の索敵で闇魔法に勝る魔法は無いとのこと。ハドックは私のために人が多いところでは定期的に闇魔法を使用して、狭い範囲を索敵しているのだそうだ。


「レイア様の索敵魔法には敵いません」


──うーん、よくわかんないなぁ。とりあえずハドックの魔力は珠八つ分あるから、なにも起きなければ今日一日は大丈夫そうかなぁ。


 ピーちゃんの目が覚めたのか、アメリの頭上にピーちゃんが鎮座し、タマモを抱えてアメリがやってきた。


「私っていつもこうなってるんだ」

「あの…」

「気に入られたみたいでよかったね!」


 私たちは朝食を取る。朝食は塩ベースの野菜スープ、パン、リンゴ。今日も氷作りのために水産ギルドに向かい、冒険者ギルドへ報告に行く。そしてその帰り道、私たちは市場で買い物をした。買ったものは、以前キュラスが差し入れてくれた、揚げた魚と野菜が詰まったパン。私たちとアメリの分を買い、帰路に就いた。


 問題が起きたのは家の近くまで歩いてきた時だった。ピーちゃんやタマモ、そしてアメリが昼食に買ったパンを楽しみに歩いていると、私たちが借りている家のすぐそばに、守備隊らしき人が数人立っていた。


「なんだろうあれ、なにかあったのかな?」

「あれは…」

「あ、ハドック。大丈夫だと思うけど…」


 ハドックは私たちの前に出る。すると守備隊らしき人たちは、私たちの方に駆け寄ってきた。その様子にハドックは警戒を強めるが、アメリは唐突に別れを告げる。


「レイアさん、お別れのようです…」

「え?」

「あの方たちは私を探していたのです」

「そうなの?」


 そう言うとアメリはハドックの前に出て、一人で進んでいく。私たちは立ち止まり、アメリを心配しながら視線を注いでいると、アメリと共に守備隊らしき人たちがこちらに歩いてきた。私はハドックを後ろへ下げ、アメリと守備隊らしき人たちと話をする。



「この度はアメリ様を助けてくださり、ありがとうございました」

「は、はい」

「冒険者の方でしょうか?」

「はい」

「レイアさん、短い間でしたがお世話になりました。非常に楽しい時間をありがとうございました…」

「うん、私も楽しかった」


 アメリと守備隊らしき人たちは私たちに頭を下げ、私たちが来た道を戻っていった。


「行っちゃった。アメリ様って言ってたけどどこかのお嬢様だったのかな?」

「アメリ、大丈夫?」

「悲しそうに見えました」

「家出だったのかもしれません」

「いい子だったわね」


 アメリがいなくなり、私たちは少しの間その場に立ち尽くす。アメリたちが見えなくなると、悲しい気持ちを背負って家に入った。その後みんなで昼食を取ったが、買ったパンが一つ余ってしまった。


──アメリ大丈夫かなぁ。無理して笑ってたなぁ。同じぐらいの年の女の子と話すことなんて、村にいた時以来だから楽しかったなぁ。


 そして夕食。揚げた魚とタコ料理、二種類のスープを少量ずつとパンとリンゴ。食べ合わせの悪さはわかっていたが選択肢がない。しかし、ここでパーラが食べ合わせを解決する。


「レイア、この味噌スープとお米のタコ料理が合うんだけど、どう?」

「パンよりいいね」

「お米って売ってないの?」

「売ってると思うけど土鍋がないとダメだと思うよ?」


 アメリがいなくなった寂しさを紛らわすように、私はパーラとお米について話をした。翌朝、私たちはアメリのいなくなった家でいつも通り起きる。


「おはよぉ…」

「おはよぉ…」

「おはようございます」

「おはようございます。昨夜、異常はございませんでした」

「おはよ」


 朝食を取り、私たちは氷作りに向かう。いつものようにブルに挨拶をし、氷作りを始める。


「そういえば、嬢ちゃんはそろそろどっか行っちまうのか?」

「家の契約が明日のお昼までなので、明日が最後です」

「そうか…。寂しくなっちまうな…」

「またここに来たら氷作りはするつもりです!」


 ブルから書類を受け取り、冒険者ギルドに向かう。そしていつものように受付のアネモネに書類を渡すと、ギルドマスターが呼んでいるとのことだった。


「じゃあこれが報酬ね。あとレイアが来たらギルドマスターの部屋に通すよう言われてるから、行ってきてね」

「は、はい」


──ギルドマスターに呼ばれるって、なにかしたかなぁ?うーん、氷作ってご飯買うぐらいしかしてないんだけどなぁ。オクトパスリーダーのことはみんな知ってるだろうし。


 私がギルドマスターの部屋の扉をノックすると、中からキュラスの声で入室を促された。


「ああ、レイアか。座ってくれ」

「はい」

「レイア、単刀直入に聞くがなにをした?」

「なにって言われても、なにもしてないと思いますけど…」

「私のところにこれが届いた」


 キュラスは青い封筒に入った手紙を私に見せる。そして、その手紙の内容を私に話す。ギルドマスター宛の手紙ではあるものの、私への召喚状が同封されていた。召喚状には明日の昼過ぎに城まで来るよう書かれていた。


「レイア、もう一度聞く。なにをした?」

「あの、心当たりがないんですけど…」

「毎日なにをしていた?」

「えっと、氷を作って魚を買って料理したり。料理も買いました。あ、オクトパスリーダーも倒しました」

「そうだろうな。新米の冒険者、それもビーストテイマーが問題を起こせば、私のところにも情報が入ってくる」

「お城には行かないとまずい…、ですよね?」

「そうだな。召喚状は強制力がある。これを無視したとなれば、最悪の場合、この国にはいられなくなるだろう」


 私たちは明日の昼過ぎに城へ向かうことが決定した。ギルドマスターの部屋を後にし、そのままギルドを出る。召喚状についてもやもやしながら、私たちはお米を買いに向かった。


「パーラ、お米を買うのはいいけどどうやって炊くの?」

「鍋を買えばいいのよ」

「普通の鍋で炊けるのかなぁ。土鍋でしか炊いたことないよ?」

「じゃあ土鍋を買えばいいじゃない」

「お金なくなっちゃうよ…」


 氷作りで多少お金ができたとはいえ、無駄遣いは避けたかったがパーラの執念に負け、仕方なく土鍋を買うことにした。お米の前に土鍋を探しに行くと、それほど大きなものではないが、鍋の半額以下のものが大半だった。


「値段は鍋の半分ぐらいだね」

「これなんかいいんじゃない?」


 パーラが選んだのは、ハドックのように黒い土鍋。土鍋を手に入れたので、お米を買いに行く。お米の種類はたくさんあり、パーラは色々欲しがったが安いものを買った。


「とりあえずこれで欲しいものは揃ったかな」

「揃ったけど、お金はもうあまりないわね」

「それはパーラが色々欲しがるからでしょ?」

「でもおいしい方がいいわよね?」

「それはそうだけど…」


 昼食にはまだ早かったが、パーラが色々試したいそうで、私たちは家に帰る。家に着くとパーラは土鍋とお米を取り出し、私がパーラにお米の炊き方を教えながら作業を進める。しばらくしてお米が炊けた。蓋を開けると炊きたてのいい匂いが部屋に広がり、炊きあがったご飯を私とパーラが味見をする。


「よく炊けてると思うよ」

「へえ、こうなるんだ」

「ぼくも食べる!」

「私も食べたいです」


 ピーちゃんとタマモにも少しずつ食べさせ、パーラは熱々のご飯を収納した。このご飯をどうするかをパーラは考えているようだった。そして、私たちは明日の召喚状について話をする。


「お城に呼ばれるって、なにかしたかな?」

「うーん?」

「なにも悪いことはしていないと思います」

「レイア様が呼び出されるのはなにかの間違いかと思いますが、もしや…」

「まあなにかあったら守ってあげるわよ」


 ハドックが何か言いかけたように思ったが「なにかあったらみんなが私を守る」ということで意見が一致し、話は終わった。そのままパーラは料理ついて色々考えているようなので、私はピーちゃんやタマモと戯れる。


 昼食は、味噌ベースのスープと揚げた魚、熱々のご飯、リンゴ。パーラの思った通り、味噌ベースのスープにはパンよりもご飯がよく合う。昼食後、私は紅茶を淹れ、パーラに評価してもらう。


「少しはよくなってるわね」

「うーん…、ガイアさんの紅茶はもっとおいしかったと思うんだけどなぁ」


 紅茶を淹れる練習を終え、私たちは水産ギルドに向かう。ジルザから生魚をもらった時の箱や皿、タコ料理を詰めてくれた箱を返すためだ。返すものを返し、私たちは家に戻る。明日の昼まで特にやることもなく、お金に余裕があるわけではないので、家の中で過ごした。


 翌日、私たちは朝食を終えた後に家の中を一通り見回す。今日でこの家との契約が終了するため、忘れ物が無いかを確認。


「忘れ物はないかなぁ」

「大丈夫よ、私が全部見たから」


 私たちは家を出て、鍵を閉める。そして管理小屋まで向かい、鍵を返却する。


「お世話になりました!」

「いつでもお待ちしております」


 管理小屋の男性は私たちに頭を下げ、最後の氷作りに向かう。水産ギルドの倉庫ではブルが待っていた。私たちはいつもと同じだけの氷塊と砕氷を作り、ブルから書類を受け取る。


「嬢ちゃん、アクアハーバーに来たらまた頼む!」

「はい!お世話になりました!」


 最後の氷作りを終え、水産ギルドを後にする。その足で冒険者ギルドに向かい、いつも通りアネモネから報酬を受け取った。そして気づけば、約束の時間が刻一刻と迫っていた。


 昼食を終え、私たちは東門へと向かう。東門から伸びる道は途中でそのまま外に向かう道と、お城へ向かう道にわかれており、私たちはお城へ向かう道に進む。お城に近付くにつれ、城門前に守備隊が集まり、慌ただしくなるのが遠くからでも確認できる。私たちがお城に向かって歩いていると、城門前から数人の守備隊が急いでこちらにやってきた。


「城になんの用だ?」

「あの、これを見せれば大丈夫って言われました」

「これは…。確認するから少し待て」


 私は、キュラスに届いた手紙に同封されていた召喚状と、ギルドカードを守備隊に渡す。召喚状を持った守備隊は城門前の仲間と会話後、お城の中へ入っていった。私たちが待機していた時間は短く、召喚状を渡した守備隊がすぐに戻り、ギルドカードを私に返す。


「ギルドカードは返す。このまま中に入って構わない」

「ありがとうございます」


 私たちは城門を抜け、中に入る。長い階段を上がった先には、燕尾服を身にまとった男性が扉の前に立っていた。どうやらこの男性がこの先の案内をしてくれるようだ。お城の中に入る。案内された部屋はとても広く、部屋の奥は床が数段高い。真っ赤でふかふかなとても長い絨毯が敷かれ、数段高くなった床の上には二つの大きなイスが間隔を開けて並んでいた。そして、部屋の左右には私たちを警戒するかのように、守備隊がずらりと並んでいる。


 私たちが大きなイスに近付くと、そこに座っていたのは王様らしき男性ととてもきれいな衣装を身にまとったアメリだった。


「え、アメリ?」


 私が思わず声を出すと、アメリはイスから立ち上がり、私たちに頭を下げる。すると、隣の王様らしき男性がアメリに座るよう促した。アメリがイスに座り直すと、男性は話を始めた。


「冒険者のレイアさんで間違いありませんか?」

「はい」

「ここでは話しにくいでしょうからこちらへ」


 そう言われ、私たちは男性とアメリの後についていく。通された部屋は先ほどの部屋よりも大幅に狭かったが、一般的な部屋よりは大きい部屋だった。ガイアのマジッククロスにあった長机より幾分短いテーブルに、イスが広めの間隔で並んでいる。


 私に座るよう男性が促す。私が座ると、机を隔てた対面に男性が座り、その隣にアメリが座る。この静かな部屋には私たちと男性とアメリだけ。男性は私の思った通り王様だった。その王様が私に感謝を述べる。


「さて、レイアさんにはお礼を申し上げなければなりません。娘のアメリを保護していただき、ありがとうございました」

「保護ですか?」

「保護というのは建前になります。この子が城を抜け出したのですから、レイアさんに非はありません。しかしこれでも一国の姫。なにかに利用される可能性は否定できません。そうでなくとも、アメリが無事に帰ってきたことは王としてではなく、一人の父親として嬉しい限りです」


 そして、王様はアメリを無事帰還させたお礼をすると言う。


「あまり多くのお礼はできないかもしれませんが、なにか欲しいものがあれば遠慮なく仰ってください」


──うーん、そう言われてもなぁ。パーラは宝石とか欲しがりそうだなぁ。お金があれば助かるけど、ないわけじゃないし…。あ、そうだ!


「欲しいものはありません。その代わり、『王とはなにか』を教えてほしいです」

「…レイアさんは王になりたいのですか?」

「いえ、その…。仲間のみんなに『私はみんなの王だ』と言われたことがあって。王様に直接聞いたらわかるかなと思って」

「そうでしたか。私自身、王がなんなのかを理解しているわけではありませんが、私の考えでよければお話しいたしましょう」

「お願いします」


 結論から言えば難しい話だった。なるべくわかりやすく説明してくれたように感じたが、それでも私には難しかった。ただ、私以上に話を聞いていたのがアメリだった。少なくとも私よりは理解しているように見えた。王様の話はそれほど長いものではなく、難しかったとはいえ、貴重な話を聞いた私は感謝を述べる。


「ありがとうございました」

「本当にこんなお話だけでよかったのですか?」

「はい。私が王様とお話できることなんてないと思っていたので。あの、帰ってもいいですか?今日ここを出発する予定なんです」

「ではこれ以上お引止めするわけにはいきませんね。レイアさん、この度はまことにありがとうございました」


 私が席を立つと、今まで無言だったアメリが唐突に口を開いた。


「あの!わたくしはレイアさんにたくさんお世話になりました。ですが、わたくしからのお礼はまだなにもできていません。ですから…、本日は城にお泊りになってはいただけないでしょうか?」


 唐突に口を開いたアメリの表情は、どこか必死な、そして寂しげだった。そんなアメリの声色や表情から何かを察した王様は、私に出発を一日伸ばせないか相談する。


「レイアさんのご都合がよろしければ、出発は明日に延期して、アメリのわがままをきいてやってはくださいませんか?」

「みんなはそれでいい?」

「ピー!」

「コン!」

「じゃあそうします」


 私の答えを聞くと、アメリは安堵したようで笑顔になった。


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