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2-5:アメリのお皿

 ピーちゃんとタマモは起きる気配のない少女のそばにいる様子。ハドックはいつも通り警備。私とパーラは少女が起きるまでの間、買ってきた調理器具や食材、調味料を取り出し、料理の相談をする。すると、パーラは調味料の味見を始めた。


「パーラ、それでなにかわかるの?」

「まあなんとなくね。レイアは食べたいものある?」

「うーん、なんでもいいかなぁ。お魚おいしいし」

「買ってきた料理もあるし、少しだけ作るわ。手伝ってくれる?」

「うん、なにすればいい?」

「じゃあまずは…」


 私がパーラと料理をしていると、ピーちゃんが飛んできた。料理の匂いにつられてきたのだと思ったが、そうではない。


「レイア、あの子起きた!」

「わかった。パーラ、任せていい?」

「いいわよ」


 私はパーラに料理を任せ、少女を寝かせた部屋へと向かう。ピーちゃんを頭に乗せた私が部屋に入ると、少女とタマモがベッドの上で対峙していた。少女はタマモに恐怖している様子はなかったが、私はタマモを抱き上げながら少女に声をかける。


「大丈夫?」

「あ、あの、ここは?」

「ここは私たちが借りてる家で、突然倒れたから連れてきたんだ」

「…ご迷惑をおかけいたしました」

「ところで、冒険者だったりする?」

「いえ、違います」

「そっか」


 私がそう言い終わると、お腹の鳴る音が家中に響く。その音の出所は少女のお腹だった。


「ご、ごめんなさい!」

「お腹空いてるよね。今ご飯作ってるからできたら食べよう」

「よろしいのですか?」

「うん」


 私は一度キッチンに戻る。ピーちゃんとタマモは少女のそばにいるようだった。


「レイア、ちょっとこれ食べてみて」

「おいしい!」

「ふふん」

「これで完成?」

「そうね。あとは買った料理をいくつか出せば大丈夫じゃない?」


 私は少女の部屋まで行き、夕食の用意ができたことを伝える。少女がマントを脱ぐと、美しいアイボリーの長髪がさらりと揺れ、お姫様のような真っ白な衣装を身にまとっていた。 夕食は、パーラ作の味噌をつけて焼いた魚。そして購入した揚げた魚とタコ料理が少量ずつにサラダとリンゴ。私たちが食べ始めると、少女は食べていいのかわからないようだった。


「食べていいよ?」

「は、はい。…いただきます」


 ピーちゃんとタマモは新しい味を美味しそうに食べる。しかし作った本人は改良の余地を探しているように見えた。少女は空腹だったのか、無言で食べ進めていた。


「ごちそうさまでした」

「おいしかった?」

「はい、とても」

「よかった」

「あの…」

「なに?」

「いえ」

「片付けてくるから待ってて」


 そう言って私は食器を集め、キッチンまで行く。パーラも片付けを手伝ってくれるようだった。片付けをしている間、ピーちゃんとタマモは少女への興味が尽きないのか、じっと見つめている。ハドックはいつも通り警備をしているが、万が一、少女が私に危害を加えても対処できる位置取りをしているように見える。私は片付けを終え、少女のところまで戻る。少女はお腹がいっぱいになり、うとうとしていた。


「眠そうだね。ほら、ベッドまで行こう」

「あ…、ごめんなさい…」

「疲れてるみたいだから寝た方がいいと思うよ」

「はい…」

「おやすみ」

「おやすみなさい…」


 ベッドまで付き添って少女を寝かせると、少女はすぐに眠ってしまった。眠ってしまった少女を見て、ピーちゃんが口を開く。


「寝ちゃった!」

「疲れてたのかな?」


 私たちは少女の部屋を後にする。夕食の終わったテーブルの上には、パーラが準備したものが並んでいた。


「ほら、練習するんでしょ?」

「うん!」


 私は今日の買い物で、安めのティーセットを購入していた。ガイアとの約束を果たすために紅茶を淹れる練習をする。パーラはガイアの淹れた紅茶を飲んでいたので、ガイアからもらった茶葉で私の淹れる紅茶を飲み、評価することになっている。


「…」

「…」

「ま、まあ初めてだから仕方ないわよ。これから頑張ればいいのよ」

「…うん」


 翌朝、私はいつも通り眠そうに目覚める。みんなに挨拶をして、少女の部屋にゆっくりと入っていくと、少女はまだ寝ていた。寝ている少女を起こさないように静かに扉を閉め、私たちはキッチンに移動。朝食の準備をパーラと始める。朝食は、ガイアからもらったスープ、パン、リンゴ。これでガイアからもらったスープは無くなってしまった。


「これでスープなくなっちゃったね」

「私が新しいのを作るわよ」

「うん」

「おはようございます…」

「あ、おはよう。ご飯できたから食べよう!」


 私たちと少女は朝食を取る。


「おいしい?」

「はい。特にこのスープはすごくおいしいです」


──ガイアさんのスープはおいしいよね!もうなくなっちゃったけど、パーラがスープ作ってくれるみたいだから楽しみにしておこう。


 食後、私は気になっていたことを少女に聞く。


「あの、あなたの名前って?」

「わ、私は…、その…、『アメリ』と申します」

「私はレイアで、この子がピーちゃんで、こっちがタマモ、後ろの鎧がハドックで、この鞄がパーラっていうの」

「よ、よろしくお願いいたします」

「それで、アメリは私たちを探してたの?倒れる前に『見つけた』って言ってたと思うんだけど」

「その…、オクトパスリーダーを倒した方にお会いしたかったと言いますか、ビーストテイマーの方にお会いしたかったと言いますか…」

「へえ」


 私はそう言って、アメリにピーちゃんやタマモを抱っこさせたり、撫でさせたりする。モンスターを安全に触れる機会は冒険者でもほとんどない。初めて触れるモンスターにアメリは驚いていたが、次第に笑顔で二人を撫でていた。すると、撫でられていたタマモが口を開いた。


「コン!」

「あ、行かないとね」

「どちらへ行かれるのですか?」

「水産ギルドで氷作りの依頼をやらないといけないんだよね。アメリはどうする?待ってる?」

「ご一緒させてください」


 私たちは家を出て、水産ギルドに向かう。アメリは出会った時と同様に、フード付きの青色のマントで全身を覆い、フードを深く被る。倉庫に到着すると、いつも通りブルが作業をしているようだった。


「お、嬢ちゃん。今日は来ないのかと思ったぜ」

「ブルさん、おはようございます。遅くなりました」

「そっちの青いのは?」

「えっと…、冒険者仲間で見学に…」


 私たちはハドックを残し、中に入る。相変わらず倉庫の中は寒い。アメリもこの寒さに驚いている。いつも通りピーちゃんとタマモに支援魔法をかけ、氷作りを始めた。


「アメリ、大丈夫?」

「は、はい。今の魔法は?」

「支援魔法だよ。じゃあ二人ともお願いね」

「ピー!」

「コン!」


 二人はいつも通りに氷を作り上げていく。その様子にアメリは釘付けになっていた。素早く出来上がっていく氷塊に白い息を吐きながら無音の歓声を上げ、氷に風をまとわせて氷塊が砕氷になると小さな拍手をしていた。


「じゃあこれな。また頼むぞ」

「ありがとうございます!」


 私はブルから書類を受け取り、倉庫を後にする。倉庫を出る時、アメリは無言でブルに頭を下げ、私の後を追う。


「いつもあのように氷を作られているのですか?」

「ここに来てからは毎日作ってるかな。でも私が作ってるわけじゃないから。あ、オクトパスリーダーを倒した日は作ってないや」

「さっき支援魔法を…」

「私にはこれしかできないから」


 私の言葉にアメリは驚いているようだった。私たちはそのまま冒険者ギルドに向かう。そして中に入り、受付にいるアネモネに書類を渡す。


「アネモネさん、おはようございます。これ、お願いします」

「おはよー。いつもより遅かったわね」

「色々あって…」

「ふーん。で、後ろの青い子は?」

「えっと、市場で知り合って…」

「ふーん、まあいいわ。じゃあこれ、いつものね」

「ありがとうございます!」


 ギルドを後にする。この時もアメリはアネモネに頭を下げていた。ギルドを出て向かった先は食器を売っている店。アメリ用の食器を買うためだ。昨夜はハドック用のお皿やガイアの残していった食器を使って解決した。


──みんな以外の誰かと一緒にご飯を食べることは考えてなかったなぁ。どうしよう。ガイアさんのもあるけど、もう少し揃えておいた方がいいかなぁ。


 店に着くとパーラが物色をしているように感じた。アメリは物珍しそうに色々なものを見ている。


「アメリ用にお皿を買おうと思うんだけど、欲しいのある?」

「え!?その、お気遣いなく…」

「でも、これからも誰かとご飯食べることがあるかもしれないし、予備でいくつか買っておこうと思ってるんだよね」


 私がアメリに欲しい食器を選ぶように言うと、アメリは吟味し始めた。私とパーラは予備のお皿をどれにするかを吟味する。


「レイア、お皿の種類もいくつか欲しいんだけど」

「パーラならわかってると思うけどお金ないよね?」

「そうね。調理器具と調味料、それに食材でかなり使ったわね」

「だから、アメリの食器とお皿を数枚、あとはスプーン類を少しだけ買おう」


 私とパーラが小声で話していると、アメリが一枚のお皿を持ってやって来た。それは私たちが使っているものと同じような大きさで、アメリの髪の色とよく似た色合いのお皿だった。パーラは予備のお皿として無地の深皿を選択。予備の食器類とアメリ用の食器を買い、家に帰る。


 家に着き、昼食の準備を始める。その間、アメリはイスに座って自分の食器を眺めていた。昼食は昨夜と同じく、揚げた魚とタコ料理を少量ずつにサラダとリンゴだが、魚の種類が違う。昼食の片付けを終えた私はパーラと一緒に紅茶を淹れる。パーラの提案により、私は恐る恐るアメリに紅茶を出す。


「おいしくないと思うけど…」

「いただきます」

「どう?」

「飲めないことはありません」


 美味しくないお茶の時間を終え、アメリは私に質問をする。


「レイアさんはモンスターとお話しているように見えますけど…」

「うん。でもここにいる仲間のみんなだけなんだ」

「ビーストテイマーはすごいですね」

「そう?えへへ」


 そして、私は少し気になったことをアメリに聞く。


「アメリってここの人?」

「一応…」

「どのあたりに住んでるの?」

「…東の方です」

「私たちに会ってみてどうだった?」

「驚くことばかりでした」


──アメリって色んなことに驚いていたような気がするなぁ。市場やギルドに慣れてないというか、氷作りも初めて見る感じだったし。私たちに驚くのはビーストテイマーが珍しいからしょうがないと思うけど。


 お互いに質問を終えると、パーラが私を呼ぶ。どうやら手元にある食材でスープを作るようだ。私はキッチンでパーラの手伝いをする。アメリはイスに座ったまま、タマモを抱いて撫でる。ピーちゃんも撫でてほしそうにしているが料理も気になるようで、アメリの前に鎮座し、時折こちらに視線を注ぐ。


 料理が完成間近になると、アメリも気になったようでタマモを抱いたまま様子を見に来た。ピーちゃんは途中から私の頭上でずっと様子をうかがっている。パーラは二つに増えた鍋で試行錯誤しながらスープを作っていた。


「アメリ、ちょっと味見して」

「はい。…!?、おいしいです!」

「こっちは?」

「こっちもおいしいです」

「どっちの方がおいしい?」

「最初の方が…」


 パーラは食材を犠牲にしながら試行錯誤し、たどり着いた二つのスープ。一つは魚と野菜を入れ、味噌をベースに味を調えたもの。もう一つは野菜のみで塩を使って味を調えたもの。残っていたゴールドサーモンの中骨と頭もここで消費することができた。パーラは鞄の口をぱかぱかさせながら、なぜ魚が入っている方が美味しいのか説明する。


「魚とその骨から出る味がおいしいんだってさ」

「知りませんでした」

「野菜だけのスープにも味噌を入れてもいいけど、同じような味は避けたみたい」


──パーラが作ったスープは確かにおいしい。でもガイアさんのスープの方がおいしい。あのスープはどうやって作ってるんだろうなぁ。お金かかってるのかなぁ。


 何度か失敗を繰り返して二つのスープを完成させた時には、ほとんど夜になっていた。家中はいい匂いで満たされていたので当然お腹も空いてくる。夕食は二つのスープを少しずつにパンとリンゴ。しかし問題が発生した。味噌ベースのスープとパンの食べ合わせが悪かったのだ。これにいち早く気づいたパーラは悩んでいた。


「まずいわけじゃないんだけどなぁ」

「そうですね。こっちの塩味のスープには合うと思います」


 食後、片付けをしていたパーラは無言だった。美味しいものを食べたいパーラとしては、食べ合わせの悪さは許しがたい問題なのだろう。その後、私は練習として紅茶を淹れるが、一向に上達する気配はない。


 紅茶の練習を終え、お風呂の準備をする。いつも通り私が生活魔法で水を入れ、ピーちゃんに温めてもらう。その様子を見ていたアメリは、これも珍しそうに眺めていた。


「お風呂って珍しくないよね?」

「珍しくはありませんがそのように水を温めるのは初めて見ました」

「やっぱり直接お湯を作るの?」

「それが一般的だと思います」


 ピーちゃんが十分に温めたところで、アメリに入ってもらう。そして私とタマモがお風呂から出た時には、ピーちゃんがアメリの髪を乾かし、パーラが梳かしていた。そのまま流れるようにピーちゃんが私とタマモを乾かし、パーラが私の髪を梳かしていく。


「じゃあ寝よっか。アメリは向こうの部屋使っていいよ」

「あの、レイアさんの部屋にもベッドは二つあるのでしょうか?」

「あるよ」

「同じ部屋で寝るわけにはいきませんか?」

「うーん、もう一つのベッドはみんなが寝る場所なんだけど。一緒に寝ればいっか」


 私の使っている部屋にアメリを通し、みんなが寝ていたベッドを使うように言う。ピーちゃんとタマモは私と一緒に寝れば大丈夫と考えていた。私とアメリが向き合って、それぞれのベッドに腰掛けると、アメリは意を決したように質問をする。


「あの、レイアさん。どうすればレイアさんのように強くなれますか?あと不安をなくすには…」

「私は強くないよ、強いのはみんな。それにオクトパスリーダーも倒せるか不安だったよ」


 そこから私は今までの冒険をかいつまんで説明した。タマモを追っていたグレイウルフと対峙した時やハドックと初めて戦った時。オクトパスリーダーと戦った時の話もする。私自身が強いわけではないということも話す。私が強いのではなく、みんなが私のために戦ってくれたからオクトパスリーダーのように大きなモンスターを倒すことができた。そして、何かと戦う時は常に不安だらけだということも伝えた。


「おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


 私はピーちゃんとタマモに挟まれ、ぎゅうぎゅうのベッドで眠り、パーラはベッドの空いている場所で寝る。ハドックは私とアメリが同じ部屋で寝るので、警備が楽になったらしい。


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