2-4:触手を使った料理
「レイア、明日ちゃんと話をする。その鎧が動いたら帰れ」
「はい…」
「レイアちゃん、助かったよ」
二人が防波堤から去ると、パーラが布を取り出しながら口を開く。
「レイア、これ敷いて少し寝なさい」
「でも…」
「大丈夫だから寝なさい」
「うん…。みんなごめん…」
私はみんなに謝罪し、布の上にゆっくりと横になる。魔力がほぼ枯渇していたのか、それとも初めての大型モンスターとの戦いが終わり緊張の糸が切れたのか、すぐに眠ってしまった。目が覚めると、キュラスがみんなと昼食を頬張っていた。私が起きるとみんなは食事を中断し、私のところへやってきた。
「起きたな」
「おはようございます…」
「ピー!」
「コン!」
「レイアも食べるだろ?」
キュラスから紙に包まれた食べ物を渡され、包みを開ける。包みの中は揚げた魚と野菜が詰まったパン。私はパンを一口食べる。少し酸味のあるソースがアクセントとなり、脂の乗った魚もさっぱりとしていて美味しかった。私が食べ終わるとキュラスは話を始めた。
「レイアの倒したオクトパスリーダーは水産ギルドが回収した。それが終わったから昼食を持ってここまで来たら、まだ寝てるみたいだったからこいつらに食わせてやったんだが大丈夫だったか?」
「みんなはおいしいって言ってるので大丈夫だと思います」
キュラスは重要なことを話し始める。私たちが倒したオクトパスリーダーを水産ギルドが欲しがっているとのこと。触手は美味しいのでできるだけ残してほしい、という無茶な要求を言ってきたことが蘇ってきた。ピーちゃんが触手の一本を丸焦げにしたが、その他の触手は無事なので、全てを水産ギルドに売ると大金になるらしい。
「触手を少しだけもらえればあとは全部売ります」
「ならその方向で話をつけてこよう。さっきも言ったがその鎧が動いたら今日は帰って、明日ギルドまで来い。その時に討伐報酬と売却した金を用意しておく」
「わかりました」
キュラスは私の肩を軽く叩いて帰っていった。腕のブレスレットを確認すると、三つの珠が光っている。キュラスが帰り、ピーちゃんとタマモを撫でているとハドックが目覚める。ハドックは開口一番に謝罪をした。
「レイア様、申し訳ございません。今後このようなことがないようにいたします」
「ハドックさん、私のせいでごめんなさい…」
「いえ、タマモ殿のせいではございません。お気になさらず」
私は念のためハドックの魔力量を確認する。ハドックは珠二つ分の魔力を回復していたようだった。
「ハドック、今の魔力でどのくらい持ちそう?」
「戦闘をしなければ明日の朝までは持つかと。レイア様がお休みになられている間は動きませんので、枯渇することはございません」
「わかった、じゃあ帰ろう」
ハドックが起きたので、私たちは家に帰る。家に帰ると私たちはオクトパスリーダーを倒した時の話をした。夕食はブルからもらった魚の半身を焼いて食べ、私たちは床に就く。
私が目を覚ました時には朝になっていた。ピーちゃんはいつも通り眠そうだったが、私は珍しくすっきり起きることができた。
「みんな、おはよう」
「おはよぉ…」
「おはようございます」
「レイア様、おはようございます」
「おはよ」
「ハドック、魔力は?」
「問題ありません」
私たちは朝食を取り、冒険者ギルドに向かう。ギルドに向かう道中、市場の人たちの視線が私たちに注がれていた。それはハドックを物珍しく見る目ではなく、称賛している眼差し。
「お、タコを倒した嬢ちゃんだ」
「タコ倒してくれてありがとうな!」
「嬢ちゃんなら安くしとくぜ!」
私たちを称える声が至る所から聞こえてくる。初めての経験に気恥ずかしくなり、私たちは足早にギルドへ。ギルドに入るとアネモネが声をかけてきた。
「おはよー」
「アネモネさん、おはようございます」
「ギルドマスターが待ってるからこのまま奥までよろしくね」
「はい!」
ギルドマスターの部屋に入ると、キュラスとジルザが待っていた。
「レイア、座ってくれ。具合はどうだ?」
「大丈夫です」
「ならいい。じゃあこれが討伐の報酬だ」
「こっちが買い取り分の報酬だよ」
私は今までに見たことのない大きさの袋を目の前にして、声も出なかった。そしてさらに驚いたのは、討伐報酬よりも買取分の報酬の方が袋の数が多い。
「買い取りってこんなに高いんですか?」
「触手が七本も取れたからね。大型モンスターが出現することはあっても、普段は半分も素材が取れないんだよ。それからレイアちゃんの分はブルに預けてあるから、あとで取りにおいで」
「はい!」
私は四つの袋をパーラに収納してもらい、部屋を後にする。受付まで戻るとアネモネが声をかけてきた。
「おつかれー。今日も氷作るの?」
「はい。私たちの分の触手の受け取りもあるので」
「じゃあ行ってらっしゃーい」
「行ってきます!」
私たちは冒険者ギルドを後にし、水産ギルドに向かう。市場は私たちが冒険者ギルドへ向かった時よりも活気があるように感じ、四方八方から「タコ」という単語が飛んでくる。そして、食欲をそそる匂いが私たちを誘惑する。頭上のピーちゃんは今にも飛び出しそうに、匂いの方向をじっと見つめている。
「ピーちゃん、氷作ったら行くからもう少し我慢してね」
「うん!」
誘惑に負けそうになりながらも倉庫にたどり着くと、いつも通りブルがいた。
「お、嬢ちゃんじゃねえか。タコの受け取りか?」
「それもあるんですけど、氷を作りに来ました」
「大金が入ったろ?氷なんか作んなくてもいいんじゃねえか?」
「ここにいる間はなるべく来るって約束しましたから」
「嬢ちゃんには頭が下がるな。じゃあ昨日と同じだけ頼めるか?」
「はい!」
私たちは昨日と同じだけの氷塊と砕氷を作り上げる。氷作りを終えると、ブルが大きな箱を持ってきた。箱を開けると敷き詰められた氷の中に、オクトパスリーダーの触手が入っていた。
「嬢ちゃんの獲物だから一番いいところを用意してあるぞ。これが触手の先端部分で、こっちが真ん中、こいつが根本あたりだな」
「ありがとうございます!」
「ちょっと大きいが持って帰れるか?」
「鞄に入ります」
「マジックバッグか?」
「ミミックなんです」
「やっぱビーストテイマーなんだな!」
パーラに触手の入った箱を収納してもらい、ブルから氷作りの書類を受け取って倉庫を後にする。水産ギルドを後にした私たちは、匂いに誘われるがままに彷徨う。たどり着いた先は、オクトパスリーダーの触手を使った料理を出しているお店。人が大勢群がっていたが、そのうちの一人が私たちに気づくと、次々と歓声が上がった。
「英雄が来たぞ!」
「おいお前ら道開けろ!」
「嬢ちゃんに食わせてやれ!」
私はとっさにタマモを片手で抱き上げる。そして気がつくと、お店の目の前へと通されていた。
「お、タコを倒した嬢ちゃんじゃねえか。ここにあるもん全部持ってけ!」
そう言われた瞬間、ブルから受け取った大きな箱と同じような箱が用意され、次々とタコ料理が詰め込まれた。私は箱の上にタマモを降ろし、タマモの乗った箱を抱える。
「金はもらえねえよ。あとタコを食いすぎるなよ!」
──箱いっぱいにタコ料理を渡しておいて食べ過ぎるなって言われても…。
帰宅した私は抱えていた大きな箱をテーブルに置き、一時的に収納してもらった杖をパーラに取り出してもらう。パーラは杖を取り出しながら、口を開く。
「レイア、早く料理を出しなさい」
「う、うん」
私は料理の入った箱を開ける。箱の中には、大きな紙の器の上に同じ紙の器で蓋をしたものが三つ入っていた。
一つは魚を揚げたものとは少し違う見た目で、触手を一口大に切って油で揚げたもの。もう一つは、一口大よりやや小さめに切られた触手をお米と一緒に炊いたもの。最後はパンケーキのような小さな球体の上に黒と白のソースがかかり、非常に薄い茶色い何かがゆらゆらと踊っている食べ物だった。
私たちは初めて見る食べ物に、目が釘付けになった。パーラはみんなのお皿を出し、私がそれぞれ取り分けていく。
──ご飯食べてからそんなに時間経ってないんだけどなぁ…。
私の心配は杞憂に終わった。ピーちゃんとタマモは小さな球体を一口で頬張り、口をパンパンにしながら美味しそうに食べていた。パーラはいつも通り、味わうように三種類を食べている。私はお腹が空いていないので少しずつ食べた。
「みんなよく食べるね」
「レイアはもう食べないの?」
「だってご飯食べてからそんなに経ってないからお腹空いてないよ」
「私は氷を作りましたから」
「ぼくも!」
「私はミミックだからね」
「じゃあ私のもみんなで食べていいよ」
私の分と残った料理は三人が食べ尽くす。そして、それぞれにどれが美味しかったかを語り始める。
「みんなはどれがおいしかった?」
「ぼくは全部!」
「私は丸いのと揚げてあるのがおいしかったです」
「私もピーちゃんと同じで全部おいしかったわ」
まだお昼前だったが、満腹になった私は家で少し休むことにし、ピーちゃんたちも食休みに入る。私は休みながらパーラと話をする。大金が入ったので、午後は調理器具や調味料、他にも色々と回ってみることに。
買い物をする前に、氷作りの依頼報告のため、冒険者ギルドに向かった。いつものようにアネモネに報告書を渡すと、事前に準備してあった報酬を取り出し、私に渡す。氷作りの報告を終えた私たちは買い物に向かう。残り少なくなったガイアのスープが入っている鍋と同じような鍋を一つとフライパン。そしてパーラが一番欲しがった包丁を、種類別で三本。用途を分けて使用するそうだ。
次に調味料を買いに向かう。何を買えばいいのかわからず、私はお店の人に尋ねる。
「砂糖、塩、酢、醤油、味噌があれば困ることはないと思うよ」
塩は持っていたので他の四種類を購入し、市場に戻って魚と野菜を購入する。これもパーラの要望だった。パーラの収納があれば野菜が腐る心配もない。歩き回ったことでお腹が空いてきたので、朝のお店へ向かうことにした。
「みんな、なに食べる?」
「全部!」
「そうなるよね…」
お店に行くと、朝よりも人は減っているようだったがそれでもまた歓迎してくれた。朝と同様にお金は不要と言われたが、私は申し訳なく思い、お金を支払った。ハドックにタコ料理の詰まった箱を持ってもらい、私たちは以前買った揚げたての魚を売っているお店に移動。
「お、英雄ちゃんじゃないかい!今日はどうする?」
「あの、この間と同じで色々入ってるものが欲しいんですけど」
「どれくらい必要だい?」
「えっと、三袋ぐらい」
「ちょっと待ってな」
私はお金を支払い、揚げ物の入った袋をパーラに収納してもらう。日が落ちるにはまだ時間があるが、買い物を終えたので私たちは家へと帰る。帰りの道中、突然後ろから声がかかった。
「やっと見つけました…」
その声にいち早くハドックが振り返り、続いて私たちが振り返る。私がハドックの後ろから顔を出すと、そこには青色のフード付きマントで全身を覆った小さな人物が立っていた。しかし、直後に小さな人物はその場に倒れる。倒れる瞬間、フードが外れ、綺麗なアイボリーの髪が露わになる。肌は白く、顔には大きな傷がある少女のようだった。
「え!?大丈夫!?」
「倒れたよ?」
「女の子みたいですね」
「レイア様、いかがいたしましょうか?」
「ほっとくわけにはいかないわよね」
「そうだよね。とりあえず家に連れて帰ろっか」
私はハドックの持つ大きな箱をパーラに収納してもらい、ハドックの空いた手で女の子を担ぎ上げ、家まで運んでもらう。家に着くとハドックは斧を置き、その少女を使用していない部屋のベッドに寝かせた。




