2-3.5:アメリ視点1
少し昔のお話をいたしましょう。あれは私が魔法学園に通う一年ほど前のことでした。当時の私の部屋からは、アクアハーバー全体を見渡すことができました。いくつもの漁船が出入りし、たくさんの人たちで活気溢れる市場。それを見ているだけでワクワクしたものです。
いつものようにアクアハーバーを見渡していると、たしかあの時は、オクトパスリーダーが沖合に出現したと記憶しています。大型モンスターが出現することは珍しくありません。オクトパスリーダーは大型ですが、いつも討伐されるかいなくなるのを待つので、今回はどちらになるのだろうと思いながら眺めていました。今回は討伐されましたが、討伐したのは彼女たちでした。
彼女は防波堤から指示を出していました。指示を受けた小さな鳥が飛び回り、漆黒の鎧と彼女の足元にいた小さなモンスターは、防波堤から魔法を飛ばしていました。気づけば私はその光景に釘付けになっていました。戦闘は長かったような短かったような。しかし、心惹かれるなにかがあったのは間違いありません。そのあと、私は初めてお城を抜け出したのですから。
今思えば、なぜお城を抜け出したのか思い出せません。いえ、わかっています。魔法学園に通うのが怖かったのです。私の顔には大きな傷があり、この傷を初めて見た人がどういった反応をするのかを知っています。この傷を抱えたまま魔法学園に通うことが、今から不安でした。
そんな不安の中、私と幾分も変わらない彼女が大きなモンスターを倒したのです。どうすれば強くなれるのか。どうすれば不安がなくなるのか。彼女に直接聞いてみたかったのだと思います。いえ、これも違います。大きなモンスターを倒した小さな彼女に憧れてしまったのです。
翌日、午後のお茶の時間が終わってすぐに支度を整えました。闇魔法を駆使して城を抜け出し、アクアハーバーへと侵入しました。思い返してみると、城を抜け出すのも都市に侵入するのもなぜ成功したのかわかりません。それだけ集中していたのかもしれません。
アクアハーバーでは大きなモンスターを小さな彼女が倒したことで、お祭り騒ぎになっていました。その騒ぎに紛れて私は彼女たちを探しました。どれくらい歩き回ったのかわかりませんでしたが、私はついに彼女たちを見つけたのです。しかし彼女たちを見つけると、達成感や疲労、空腹、他にも色々なことが重なったのでしょう。糸が切れたかのように、私はその場で倒れてしまいました。目を覚ました時、私は彼女たちが借りている家のベッドの上でした。
私が目を覚ますと、彼女の小さなお仲間が私のベッドに飛び乗ってきました。小さいと言えどモンスター。私は驚きつつ、身構えました。今では彼女のお仲間とは大変仲良くさせていただいています。その後、私が盛大にお腹を鳴らしたので食事をいただきました。
それから少しだけ、私は彼女たちと行動を共にしました。彼女は大きなモンスターを倒したことで、水産ギルドから英雄のような扱いを受けていました。そんな英雄は毎日氷を作り続けていました。今考えると英雄のする仕事ではありませんね。
私は彼女に尋ねました。どうすれば強くなれるのか。どうすれば不安はなくなるのか。すると、彼女は苦い思い出があったことを話してくれました。無力な自分をなんとかしたかったそうです。
「私は強くないよ、強いのはみんな。それにオクトパスリーダーも倒せるか不安だったよ」
そのようには見えませんでした。お仲間を指揮し、見事に大型モンスターを倒したのですから。でも、彼女が嘘をついているようには思えませんでした。
その後、私の小さな冒険は終わりを告げます。私のことを探していた城の者に見つかってしまったのです。私は自らのことを話さず、家に帰ると彼女に伝えました。冒険者ですから急になにかが起こることには慣れているのでしょう。叶わないであろう約束をして、私たちは別れました。
城に連れ戻された私は当然の如く叱られ、監視が強化されました。彼女の話を聞き、ここまで順風満帆に冒険をしてきたわけではないと知れたことは大きな収穫でした。
しかし、叶わないであろう約束はすぐに叶うことになります。私の父、この国の王が、彼女に対する召喚状を冒険者ギルドに送ったのです。素直に従えばどうなるかわかりませんでしたが、彼女は逃げずに城まで来たのです。ただ、彼女のお仲間たちは殺気立っていたように感じました。
父は彼女たちに、私が何事もなく帰還したことに対して感謝を伝えました。そして、お礼を渡すために召喚状を出したのだと父は言いました。
「欲しいものはありません。その代わり、『王とはなにか』を教えてほしいです」
彼女の発言に私は驚きました。しかし、この時の父の話のおかげで今の私があります。
私のわがままで、その日は城に泊まっていただきました。彼女とたくさんお話をしました。秘密の魔法具も見せていただきました。そして、彼女たちには返しきれない恩ができました。
夜が明け、彼女たちが旅立ってしまう前に私は意を決して尋ねました。
「あの…、私のお友達になっていただけませんか…?」
「もう友達だと思ってたけど、違った?」
その時の感動は忘れません。もうすぐ旅立つと言うのに、私は泣き出してしまいましたが、彼女は私が泣き止むまで頭を撫でてくれました。帰り際にプレゼントしてくれたものは私の宝物になり、今でも大切にしています。
現在の彼女は毎日忙しそうに、しかし楽しそうに冒険を続けています。彼女は私よりもはるかに忙しい身なのですが、必ず毎月会いに来てくださいます。短い時間の時もあれば、泊まっていくことも。
「レイア様をお連れいたしました」
「どうぞ」
「アメリ、久しぶり!」
「お久しぶりです。どうぞこちらへ」
「なんか硬いよ?私たちといる時は『王様』やめるんでしょ?」
「私より忙しいレイアさんに言われるとなにも言い返せません…」
「アメリもよくやってると思うよ?」
「レイアさんは私の苦労をわかっていません…」
「わかってるつもりだけどなぁ」
レイアさんは私の初めての、そしてかけがえのない親友です。




