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2-2:借家

 地図に沿って進んでいくと、西側の海岸沿いにたどり着いた。そこは地面が数段高くなっており、大小様々な一軒家がある程度の間隔をあけて並んでいる。アネモネからはここを管理している家を訪ねるように言われたので、私たちはそこに向かった。対応してくれたのは誠実そうに見える男性。


「ビーストテイマーの方ですか?」

「はい、ギルドからみんなで泊まれる宿屋はないって言われて、ここを紹介されました」

「宿屋だと難しいでしょうね。ではご案内いたします」


 案内された一軒家は、ガイアの持つマジッククロスと同じような間取りだったが全体的に小さく、全ての部屋に水回りが完備されているのではなく、部屋の一つがそれ専用になっていた。キッチンのそばには四人掛けのテーブルとイス。寝室となる二つの部屋には普通サイズのベッドが二つ置いてある。家全体がしっかりとした作りで、掃除が行き届いているのがわかる。外には見たことのない大きなコンロのようなものがあり、外でも料理ができるようにしてあるという。


「ここならご予算の範囲内になりますが、いかがでしょうか?」

「ここでお願いします!」

「かしこまりました。ではこのまま契約をいたしましょう」


 私は契約を交わし、一週間分の代金という大金を支払う。契約が済むと、男性は注意事項を話し始めた。鍵を紛失すると追加で料金が発生すること。契約期間内に家を引き払っても返金はされないこと。契約を延長するなら一週間単位になること。また、延長する場合は前日までに伝えること。


「なにかお困りの際には管理小屋までお越しください。可能な範囲で対応させていただきます」

「ありがとうございます!」


 誠実そうな男性が丁寧にお辞儀をして帰っていくのを見送り、中に戻る。私がパーラを机に置くと、待ってましたとばかりに触手を出して物色を始め、ピーちゃんとタマモもそれについていく。私も少し気になるので後ろをついていった。そんな中、ハドックは家の中をキョロキョロと見回している。


「ハドック、どうしたの?」

「どのように警備するか考えておりました」


 家の物色を終える。これといって変わったところはない。もちろん宝石のようなものは無く、パーラはつまらなさそうにしていた。


「まだ日が落ちるまで時間があるけど、どうする?」

「お魚食べる!」


 私たちは外に出て鍵を閉める。今の時間からお店がやっているか怪しかったが、そこは水産都市。市場では賑わいが続いていた。


──これならピーちゃんの要望にも答えられそうかなぁ。でもお魚ってさばいたことないんだけど、どうしよう。


 私たちが市場を歩いていると、屈強な男性が声をかけてきた。声の主はブル。


「嬢ちゃん、どうしたんだ?」

「お魚を買いに来たんですけど、なにがいいかわからなくて」

「ここのはなんでもうまいぞ。そうだな、ちょっと待ってろ」


 私たちが待っていると、ブルは箱を持ってきた。その箱を足元に置いて蓋を取ると、大きな魚が入っていた。


「これ持ってけ、鱗は取ってあるぞ」

「え、でも…」

「おいブル、それは賄賂か?」


 私とブルに女性が声をかける。耳が長く、薄いピンクの長髪で、見覚えのある服を着ていた。こちらに近づくにつれて、キリっとした顔がよく見える。


「人聞きの悪いこと言うなよ」

「うちのかわいい冒険者を製氷機にするつもりか?」

「あの…」

「レイアとは初めてだったな。私はここの冒険者ギルドのギルドマスター、『キュラス』だ。よろしく」

「D級のレイアです」


 それからブルとキュラスは話をする。お互い冗談を言い合っているような内容だった。そして、ブルの善意ということで私は大きな魚を受け取ることになった。


「ブルさん、ありがとうございました」

「おう!また頼むぞ」

「全く。レイア、水産ギルドがなにか言ってきたら私のところへ来い」

「は、はい…」

「じゃあ気をつけて帰れ」


 私たちはそれぞれ帰路に就いた。私はタマモを降ろし、魚の入った箱を持ち、タマモに謝罪をした。


「タマモ、ごめん」

「大丈夫です」


 帰る道中、頭上のピーちゃんは魚を食べることを楽しみにしているようで、体を左右に揺らす。家に着き、魚をどうするか考えた。「ゴールドサーモン」という魚だとブルは言っていた。ピーちゃんは頭上で、タマモは足元で楽しみに待つ。すると、パーラが口を開いた。


「ちょっと私に任せてくれない?」

「パーラがさばいてくれるの?」

「多分やれるわ」


 私はパーラにナイフを渡す。パーラは触手でナイフを受け取ると、他の触手で魚を抑え、丁寧にさばく。魚の身はオレンジ色で、気づけばきれいな三枚おろしとなっていた。


「パーラすごい!」

「ふふん、市場でさばいてるのを見てたからね」

「見るだけでさばけるなんてすごい。内臓は収納したの?」

「内臓は食べたわ。おいしくなかったけど」

「え、食べたの?大丈夫?」

「魚をさばいてるのを見てたけど、内臓は捨ててたわよ」

「パーラってそういうの食べても平気なの?」

「レイア、私がミミックって忘れた?ほとんどのものは食べられるわ」


──あ、そうだった。ミミックはなんでも食べられるんだった。もしかして、パーラってゴミ箱にもなる…?


「でもゴミ箱じゃないからね?」


 パーラは私の心を読んだかのようにそう付け加える。三枚におろした魚をどうするか私は考えるが、焼く以外の選択肢がなかった。せっかくなので、外にあるコンロで焼くことにした。タマモの魔力が心配だったので念のため尋ねる。


「タマモ、これ焼いてほしいんだけどできそう?」

「はい!」


 魚に興味があったのか、タマモは尻尾を振って元気よく答えた。大きな骨を取った魚の半身をコンロに乗せ、タマモが焼いていく。火が通っていくと魚から脂が滴り、良い匂いで溢れかえる。十分に焼けたところで、タマモに火を止めてもらった。このままでは食べにくいと思い、私はほぐすことにした。


──パーラは細かい骨があっても大丈夫だと思うけど、ピーちゃんとタマモには危ないからちゃんと取ろう。


 ほぐし終わった身をお皿に置くと、我慢できなかったピーちゃんがつまみ食いをする。


「あ、ピーちゃん!」

「おいしい!」

「まだダメだって!」


 全てほぐし終わり、みんなのお皿に分けていく。残った半身と中骨、そして魚の頭はパーラが収納。魚だけでは味気ないと思ったパーラは、パンとリンゴを取り出す。準備が整ったところで、みんなで魚を食べ始めた。


 一口食べるととろけるような柔らかさで、噛むほどに濃厚な脂の甘味と海の旨味が口いっぱいに広がった。ピーちゃんとタマモは言葉を発さず食べ進め、パーラも味わうように食べ進めていた。


 片付けを終え、ピーちゃんにお風呂を沸かしてもらう。タマモとお風呂に入り、パーラに髪を梳かしてもらいながら話をする。


「パーラ、調理器具は増やした方がいい?」

「そうね、鍋がいくつかあると作り置きもできるわね。あとはナイフじゃなくて包丁も欲しいかな。それから…」


 パーラは必要なものを次々と上げていくが、金銭的に難しい。氷作りの稼ぎは悪くなかったがタマモの負担が心配だった。


──私の支援魔法でどれくらい氷が作れるようになるかなぁ。今の倍ぐらい作れるようになるといいなぁ。


 私たちはすることもなくなったので床に就く。ベッドが小さくなり、ピーちゃんとタマモと寝るには窮屈になったので、隣のベッドでパーラと一緒に寝てもらった。


 翌朝、朝食も魚というわけにはいかなかったので、パンとガイアのスープとリンゴで済ませる。一晩寝てタマモは元気になったようだった。私はパーラに杖を出してもらい、準備を整える。活気に満ちた市場を歩き、冒険者ギルドに向かう。


 美味しそうな匂いに誘われながら、私たちはギルドにたどり着き、アネモネに声をかける。


「アネモネさん、おはようございます!」

「おはよー。今日も氷作るの?」

「それもあるんですけど、他に依頼はありますか?」

「うーん、ここの依頼って魚を届けるための護衛依頼が多いのよね。もちろん冒険者なりたての薬草採取みたいなのはあるわよ」

「そうなんですね」

「あとは討伐依頼もあるけど、これはこれで難しいっていうか。こっちまで依頼が来るようじゃ困るし」


 アネモネは討伐依頼について話す。海上や漁港に現れたモンスターの討伐に関しては水産ギルドが受け持つのだそうだ。海上を飛行し、魚を狙う鳥モンスターが漁師を襲うことがあるという。それらを討伐するのが水産ギルド所属の魔法使い。しかし水産ギルドでは手が回らず、冒険者ギルドに依頼が飛び込んでこない限り、討伐依頼は無いそうだ。


「飛び込みの討伐依頼は、出たモンスター次第ではレイアにも関係してくるかもね」

「わかりました。じゃあ氷作ってきます」

「あ、そうそう。レイアに手紙が来てるわよ」

「ありがとうございます!」


 私はアネモネから手紙を受け取り、感謝を伝える。手紙はあやかからだった。手紙を開け、中身を読む。そこには綺麗な文字で、手紙を送ったことに対する感謝が書かれていた。私は笑顔で手紙をしまい、パーラに渡す。


「パーラ、これも私の宝物だからね」

「はいはい」


 冒険者ギルドを後にし、昨日と同じ倉庫まで向かう。そこには昨日と同じくブルがいたので、挨拶と感謝を伝える。


「ブルさん、おはようございます!」

「お、今日も来てくれたか!」

「はい、よろしくお願いします。あとお魚ありがとうございました」


 昨日と同じ極寒の倉庫に案内され、昨日と同じだけ作るようにブルは言う。私は杖を立て、ピーちゃんとタマモに支援魔法をかける。


「スカーレットコール!」


 杖の宝石が輝き、タマモに流れていく。そのままピーちゃんにも同じようにかけていく。その光景を見ていたブルが私に尋ねる。


「なにをしたんだ?」

「えっと、二人に支援魔法をかけました。昨日より氷が作りやすくなってると思います」

「ほお」


 氷作り開始。タマモは昨日よりも早く、そして綺麗に作り上げ、完成した氷塊は見本と同じような形をしており、その早さと正確さにブルは目を見開く。その後、タマモは次々と作り上げ、あっという間に十個の透き通った氷塊を完成させた。


「いやーすげえな。もっと作ってもらってもいいか?」

「タマモ、いけそう?」

「コン!」

「まだ作れるみたいです」

「じゃあ追加で二十個頼む。ダメそうなら途中でやめても構わねえ。砕氷にするのはとりあえず十個だな」

「わかりました」


 タマモは追加の二十個もあっという間に作り上げ、ピーちゃんは最初にタマモが作った十個の氷塊を細かくした。ピーちゃんは支援魔法があっても加減が難しいのか、砕氷の大きさにばらつきがあったものの合格。


「じゃあこれが今日の分だな」

「ありがとうございます!」

「ところで、どれくらいここにいるんだ?」

「えっと、家を一週間契約したので一週間はいます」

「よし、じゃあ頼む!」

「他に依頼がなければ来るようにします」


 ブルに別れの挨拶をし、冒険者ギルドに戻る。私はタマモとピーちゃんの魔力量がどのくらい残っているのか確かめるために撫でる。タマモは珠六つ分、ピーちゃんは全ての珠が光った。冒険者ギルドに到着し、アネモネに氷作りの書類を渡す。すると、アネモネは驚いた様子だった。


「アネモネさん、戻りました」

「あら、早かったわね」

「これ、お願いします」

「はーい。って、え?これ間違ってないよね?」

「大丈夫だと思いますけど」

「まだお昼前だけどこんなにこなしたの?」

「タマモが頑張ってくれました」

「ふーん。ま、水産ギルドが証明してるし、いっか。ちょっと待ってて」


 私はタマモを降ろし、アネモネから報酬を受け取る。報酬の袋が昨日よりもさらに重くなっているのを感じる。


「このあとはどうするの?」

「今日中に終わりそうな依頼があればやりますけど、なにかありますか?」

「なーし」

「…そうですよね。じゃあ帰ります」

「また明日ねー」


 私たちはギルドを後にする。たくさんの報酬が入り、市場で買い物をすることに決めた。そして功労者であるピーちゃんとタマモの意見を聞く。


「なにか食べたいものある?」

「お魚!」

「私もお魚がいいです!」


 どちらも食べたいものは魚。市場へ向かう途中、とあるお店から流れてくる匂いにつられるようにして歩いていった。そこは魚を揚げたものを売っているお店だった。お店の中に食べる場所もあるが、持ち帰りもやっている。


「いらっしゃい!なににする?」

「あの、オススメはなんですか?」

「ここは初めてかい?」

「はい」

「なら適当に入れてあげるから気に入ったらまたおいで。仲間が多いからたくさん食べるだろ?」


 少しふくよかな女性がそう言うと、様々な種類の揚げ物が入った袋を用意してくれた。私はお金を支払い、感謝を述べる。家に入るやいなや、ピーちゃんが頭上から机の上に舞い降り、机に翼をバサバサと打ち付けながら昼食を急かす。


「レイア、はやくはやく!」

「ちょ、ちょっと待ってね」


 私はみんなのお皿を取り出し、揚げ物を取り分けていく。形で判別できそうなのは、丸いものと輪っか状になっているものだけで、あとはわからなかったので適当に取り分ける。


「じゃあ食べよう!」

「おー!」


 早めの昼食だったが、私もみんなも無言で食べ進める。初めて食べる味に夢中になっていた。昼食を終えた私たちは、夜までどうするかを話し合う。


「レイア、収納してるパンとリンゴの量が少ないから買い足した方がいいわよ」

「他にはなにか買った方がいいものある?」

「お魚!」

「ピーちゃんはお魚好きだね。じゃあいくつか買おっか」


 私たちは再び市場に繰り出した。


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