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2-1:氷作り

 私たちはメイカルトを出発して南へ向かう。目指すは水産都市アクアハーバー。人間国フォーリにあるメイカルトより大きな都市で、近くに王族の住まうお城がある。私は国境を越える前にもう一つの大きな都市に行ってみたかった。


 アクアハーバー到着まで約一週間。どこで野宿をするか考えながら私たちは進む。西門とは違い、南門から伸びる道は比較的整備されていた。交易のために整備されたのだろう。


 整備された道なので人通りが多い。冒険者らしき人は私たちのことを知っているのか、気にする様子はない。しかし、時折すれ違う商人風の人はハドックに驚きつつ、物珍しそうに私たちに視線を注いでいるのを感じ、ひそひそとした囁き声も聞こえる。


「あれってビーストテイマーか?」

「すごいの連れてるな…」

「大丈夫なのか?」


──…この感じ、懐かしいなぁ。丸焦げちゃんって呼ばれてたっけ。でももう丸焦げにはしない!ピーちゃんは強くなったし、私も少しは役に立つと思う。それにみんながいるから大丈夫!


 日が落ちてきたので、野宿の場所を探す。道の近くでは人通りがあると思い、道から大きく外れたところで野宿をする。私はパーラに魔法空間の布を取り出してもらい、ハドックに近くの枝に引っかけてもらった。


 ファスナーを開け、私たちは魔法空間に入り、ハドックは警備のため、外に残る。私たちは中で夕食の準備を始めた。パンとガイアにもらったスープが入った鍋と食器類をパーラに取り出してもらう。


「やっぱりこのスープおいしいね」

「おいしい!」

「おいしいです」

「パーラは食べなくてよかったの?」

「私が食べたらその分早くスープが無くなっちゃうでしょ。だからいいのよ」


 食事が終わり、片付けをしていると、魔法空間の中を物色していたパーラから手紙を渡された。


「前はすぐ出ちゃったから全然漁れなかったけど、それがベッドの中に入ってたわよ」

「え、あ、ありがとう」


──ベッドの中まで物色って…。宝石類は無いと思うんだけどなぁ。ミミックって少し怖いかも…。


 私は片付けを終え、パーラから渡された手紙を読む。手紙はガイアからこの魔法空間の布について書かれたものだった。




万が一、私がレイアさんに渡した布についての説明を忘れてしまった場合に備えて手紙を残します。

この布は「マジッククロス」と言います。

マジックバッグと違い、この中では外と同じように時間が流れますので、食べ物をここで保管する場合は気をつけてください。


マジッククロスの中にある家具は自由に入れ替えてもらって構いません。

レイアさんの好きなようにお使いください。

多少の備品が残っていると思いますが、それらもレイアさんの自由にしてください。

それから命あるものがこの中にいると、入り口のファスナーが閉じず、持ち運ぶには大変不便ですので気をつけてください。


マジッククロスそのものにある程度の耐久性はありますが、壊れてしまうと中に入っているものが取り出せなくなってしまいます。

それから一番重要なことですが、マジッククロスは特注品なので、持っているのは私とレイアさんだけ、ということを覚えておいてください。


最後に、みなさんの冒険に幸運があらんことを。




──ガイアさん、ありがとう!この布のことは誰にも言わない方がいいね。


 私は最後の一文で溢れそうになる気持ちを必死で抑え、手紙を元に戻す。


「パーラ、この手紙は私の宝物だからお願いね」

「私以上に安全なところはないわよ」

「うん」


 パーラは手紙を受け取り、収納。私はピーちゃんにお湯を沸かしてもらい、お風呂に入った。寝る準備が整ったところで、私は杖を持ち、一度外に出る。


「レイア様、なにかございましたか?」

「これから寝るからハドックに知らせておこうと思ったのと、一応索敵魔法使っておこうかなって」


 私は少しだけ多めに魔力を込めて索敵魔法を使う。周辺にモンスターの気配はなく、索敵範囲ギリギリのところに少し確認できただけだった。ピーちゃんとハドックにも索敵結果が共有されたところで、中に戻る。


「ハドック、おやすみ」

「おやすみ!」

「おやすみなさいませ」


 中に戻ると、タマモとパーラにも索敵結果が共有されたらしい。タマモは戻ってきた私を心配しながら口を開く。


「レイアさん、頭痛は大丈夫ですか?」

「ちょっと痛いけど、魔法を使わないと私は強くなれないからちょっとずつ使うよ」

「倒れない程度に使えば問題ないわよ」

「うん、じゃあ寝よっか」


 ピーちゃんとタマモは私と一緒に眠り、パーラはソファで眠るようだった。


 翌朝、いつも通りの時間に目が覚める。私とピーちゃんは眠そうに、タマモとパーラはすっきりと目覚めて挨拶を交わす。眠そうな私をよそに、パーラは私の髪を梳かし、三つ編みにしていく。パーラのおかげで目が覚めてきた私は、まだ眠そうなピーちゃんを抱えて外に出る。


「ハドック、おはよう」

「レイア様、おはようございます。異常はありませんでした」

「これからご飯食べるから、もう少し待ってて」

「ごゆっくりどうぞ」


 私たちは朝食を取り、片付けをして外へ。そしてマジッククロスを片付け、パーラに収納してもらい、アクアハーバーへ向けて出発。まずはここまで歩いてきた整備された道まで戻り、そこから南に向かって歩みを進める。


 メイカルトを出発して一週間。遠くの方に大きな都市、アクアハーバーが見え始めた。東側にある大きなお城が左手に確認できる。太陽の光が海に反射し、お城がキラキラと輝いて見えた。


──あれがお城かぁ。王様いるのかなぁ。なにしてるのかなぁ。


 私たちは海の匂いを感じながら北門からアクアハーバーに入る。初めてハドックを連れて戻った時に騒ぎになったことを思い出すが、今回は騒ぎが起きている様子はない。門まで行き、ギルドカードを提示すると、すんなりと入ることができた。


「ギルドまで行こう!」

「おー!」


──ここのギルドって大きいなぁ。メイカルトより大きい。それに都市自体も大きい気がするなぁ。王様が住んでるからかなぁ。


 ギルドの中に入ると、視線を感じることもあった。しかし冒険者の間で私のことは知れ渡っているようで、気になるほどの視線ではない。私はレターセットを買って、あやかに手紙を出すことにした。レターセットを買おうと受付に行くと、若い女性が対応してくれた。


「あの、レターセットが欲しいんですけど」

「あなたってビーストテイマーのレイア?」

「え、あ、はい」

「私は『アネモネ』、よろしくね」

「よろしくお願いします」

「で、レターセットね」


 レターセットを買い、ディメンジョンレターの近くにある机であやかに手紙を書いて投函。メイカルトのギルドに届いているのか不安だったが、届いていると信じることにした。


 手紙を出したので依頼掲示板を覗く。どんな依頼があるのか確認に行くと、何やら特別な掲示板が設置されていた。氷魔法が使えれば、ランクに関係なく誰でも受けられるようだった。私は気になり、アネモネに尋ねる。


「あの、氷魔法の依頼ってなんですか?」

「あれはね、氷を作る依頼よ。ここは水産都市だから氷がたくさん必要なの。あとは魚を冷凍したりね」

「魚ってマジックバッグには入らないんですか?」

「締めた魚なら入るわ。でもマジックバッグなんて高価なものを持ってる人はほとんどいないわね」

「高いですもんね」

「あなたってビーストテイマーなんでしょ?氷の依頼受けるの?」

「えっと、この子が氷魔法を使えます」


 私はタマモを抱き上げて答えた。すると、アネモネは地図を書いて私に渡す。「水産ギルド」という場所を記した地図だった。


「ここが水産ギルドの場所ね。海に面してる国ならどこにでもあるはずよ。で、氷魔法の依頼はここでやるから行ってみて。終わったら書類を発行してくれるから、それを持って戻ってきて。報酬を支払うのに必要なものだから失くさないようにしてよ?」

「わかりました、行ってみます」


 私たちは冒険者ギルドを後にし、水産ギルドへ向かう。冒険者ギルドは北門の近くにあるが、水産ギルドは漁港の近く。水産ギルドに近づくたびに、磯の匂いや魚の匂いが強くなる。メイカルトでは感じなかった匂いに、ピーちゃんとタマモはワクワクしているようで、市場もメイカルトとは違った賑わいを見せている。


 水産ギルドに到着すると冒険者用の看板があった。看板に導かれた先は裏手の倉庫。私は倉庫の前にいた屈強な男性に声をかける。


「あの、氷の依頼を受けに来ました」

「ん?嬢ちゃん、ビーストテイマーか?」

「はい、この子が氷魔法を使えます」

「ほお、じゃあちょっと試験させてくれ」

「どんな試験ですか?」

「とりあえず中に入ってくれ。そのでかい鎧は外で頼む」


 倉庫の中は体験したことのない寒さが待っていた。頭上のピーちゃんの温かさが身に染みる。しかし、みんなは寒さに慣れているのか、気にする様子はない。


「寒い…」

「寒い!」

「寒いですね」

「寒いわね」

「みんな大丈夫そうだね…」


 男性は倉庫の奥から生の魚と凍った魚を持ってきた。


「これをこんな風にしてくれるか?」

「タマモ、できそう?」

「コン!」


 タマモが尻尾を立てると、その先端に冷気が集まっていく。集めた冷気を生の魚に流すと、見本よりやや凍らせ過ぎたが合格をもらった。魚の次は氷塊。大きな箱のような氷塊を台車に一つ載せて男性が戻ってきた。


「こんなのが作れるといいんだが」


──タマモって攻撃する時につららを作ってたから大丈夫だと思うけど。


 タマモはつららを作る要領で氷塊を作り上げていく。形は少し歪だが、向こう側が見えるほど透き通った氷塊に仕上がり、合格をもらう。最後に持ってきたのは、細かく砕かれた氷がたくさん入った器。


「こういうのもいけるか?」


 これはタマモには難しかった。一つずつしか作れないので、圧倒的に効率が悪い。すると、ピーちゃんが私にアピールをする。どうやらタマモが作った氷塊を、ピーちゃんが風魔法で細かくするという。


「あの、さっきの氷塊をこういうふうに細かくする方法でも大丈夫ですか?」

「できるのか?」

「この子が風魔法でやってくれるみたいです」

「ほお」


 ピーちゃんはタマモが作った氷塊に風をまとわせていく。風で氷を切断しているのか、シュッ!という鋭い音が何度も響き渡り、風が消えると氷塊が崩れ落ちた。ピーちゃんの風魔法によって細かくなった氷は、見本より大きめだった。


「うーむ」

「ちょっと大きいね」

「ピー…」

「ちょっと待ってろ」


 男性はそう言って奥へ向かい、別の台車に氷塊を一つ乗せて戻ってきた。


「見本のそれと、今持ってきたやつ。この二つをもう一回やってみてくれ」

「でも失敗したら…」

「これはこれで使うから大丈夫だ」

「ピーちゃん、さっきより細かくなるようにお願いね」

「ピー!」


 ピーちゃんが再び氷塊に風をまとわせると、しょっぱくない塩の山が出来上がった。


「塩みたいになっちまったな」

「ごめんなさい…」


 ピーちゃんはもう一つの氷塊に風をまとわせるが、結局見本より大きめだった。


「いやーあんたたちすごいな、うちで働かないか?」

「えっと…」

「がはは!嘘だ!ここにいる間は毎日来てほしいもんだな!」

「そんなにすごいんですか?」


 私が男性に尋ねると、魚の冷凍は氷魔法が使えれば誰でもできるらしい。しかし、氷塊を作ることのできる冒険者は少なく、細かい氷となるともっと少ないのだそうだ。


「氷を作る魔法具ってないんですか?」

「あるぞ。だが作る速度が遅いのと、消費量が多いからな。魔法具だけじゃ追いつかんから冒険者ギルドに依頼を常設してるのさ」

「そうなんですね」

「じゃあとりあえず氷塊を十個と、その半分を細かくしてくれるか?」


 言われた通り、タマモは十個の氷塊を作り上げ、その半分をピーちゃんが細かくする。


「よし、じゃあこの紙を持ってギルドに戻れば報酬がもらえるぞ」

「ありがとうございます!」

「そういや、名前を聞いてなかったな」

「D級のレイアです」

「俺は『ブル』だ、よろしくな」

「よろしくお願いします」

「お前らもよろしくな」


 ブルはピーちゃんを撫で、タマモのことも撫でる。二人とも気持ちよさそうに撫でられていた。私たちは外に出てハドックと合流し、冒険者ギルドに戻る。道中、タマモが疲れているように感じたので、杖をパーラに収納してもらい、タマモを抱き上げた。


「レイアさん、どうかしましたか?」

「タマモ、魔力少ないみたいだけど」

「大丈夫ですよ?」

「でも珠三つ分ぐらいしか魔力ないよ?ガイアさんにも半分は残しておくように言われたし」

「モンスターの私は大丈夫だと思いますよ?」

「うーん、そうなのかなぁ」

「支援があればもっと簡単!」

「え?そうなの?」


──へえ、じゃあ明日は私が支援魔法をかけてから氷を作ってもらおうかなぁ。倒れたらいやだし。


 ギルドに到着し、アネモネのいる受付まで行く。私はタマモを一度降ろし、ブルからもらった書類をアネモネに渡した。


「あら、ずいぶんこなしてきたのね」

「多いんですか?」

「氷魔法を使える人はいるけど、大体が魚を冷凍するぐらいなの。氷塊を作れるのはそれほどいないし、砕氷を直接作れる人はほとんどいないんじゃないかな」

「砕氷って細かい氷ですよね?それは氷塊を風魔法で細かくしたんです」

「それって風魔法の扱いが相当上手くないとできないと思うんだけど、あなたがやったの?」

「ピーちゃんがやりました」

「ピー!」

「すごいわね、そのファーストバードっぽいの。見たことない色だけど。じゃあ報酬を用意するからちょっと待ってて」


 私は報酬を受け取った。しかし、普段より少し重い気がしたのでアネモネに尋ねる。


「氷の依頼って魚の冷凍だと安いのよ。でも氷塊や砕氷を作るとなるとちょっとだけ報酬が上がるの。それに今回は量が多いからね」


──氷を作るだけでこんなにもらえるのかぁ。外に出なくていいのは楽だなぁ。でもタマモに無理させないようにしないと。


 パーラに報酬を収納してもらい、タマモを抱き上げ、ふと気になったことをアネモネに尋ねた。


「あの、この都市にみんなで泊まれる宿ってありますか?」

「うーん、ないかも」

「そうですか…」

「でも長期滞在者用の物件ならいけるかな」

「なんですかそれ?」

「家を一軒借りて生活するのよ」

「それって高いんですか?」

「わかんないから直接行ってみて」


 そう言ってアネモネは地図を描き、私に渡す。


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