1-17:ビーストテイマーの本質
「本来、ビーストテイマーというのは主従関係にあるわけではなく、仲間や友達になるのです。ですから、どの子でも仲間になるわけではありません。レイアさんと友達になってもよい、レイアさんが友達になりたいと思った子が仲間になります。光に包まれるというのは、お互いがお互いを必要だと思っているから起きる現象なのかもしれません」
「でも、ピーちゃんとは私が十歳になった時に光に包まれたんです。私が生まれた時から一緒にいたのに」
「それはあの子がレイアさんの成長を待っていたのではありませんか?」
「…そうかもしれません」
「すべてのビーストテイマーにアザがあったり、光に包まれるといった現象が起きているのかどうかはわかりません。しかし本質は、お互いに必要とすることです。力でねじ伏せて従わせているような人はビーストテイマーとは呼べません。…実際にはそんな人いませんけど」
ガイアが最後に小さく言った言葉は私には聞き取れなかった。
──お互いがお互いを必要としている…。タマモはあのままだと危なかった。ハドックは誰かに仕えたかったのかなぁ?パーラは古城跡から抜け出すためかなぁ?ピーちゃんは、なんだろう、わかんない。でもピーちゃんがいなかったら私は冒険者にはなれなかったし、みんなとも出会えなかったから、少なくとも私にピーちゃんは必要だったと思う。
私はガイアの言ったことをみんなに当てはめて考える。私が口をとがらせて小さく唸っている間、ガイアは笑顔で私を見つめていた。
「あ、ごめんなさい。考え事しちゃって」
「構いませんよ」
「ガイアさんは私以外のビーストテイマーに会ったことありますか?」
「見かけたことはありますよ」
「どこに行けば会えますか?」
「レイアさんは冒険者なのですから、それを私に聞いてしまったら面白くないのではありませんか?」
「!?、他の人にも会えるようにいっぱい冒険します!」
「少し早いですが昼食にしましょう」
「あの、私も手伝っていいですか?」
「では一緒に作りましょう。メニューはレイアさんが倒れた日の夕食と同じものにする予定ですよ」
「…その時はご迷惑をおかけしました」
私とガイアが部屋を出ると、みんなが待っていた。これから昼食を作ることを伝えると、みんなはキッチンの近くに集まる。料理中、ピーちゃんとハッコが戯れ始めると、タマモとハドックが二人を見守り始めた。パーラは料理に興味があるのか、キッチンの手元が見えるあたりに居座る。私は料理を作りながら、食器や鍋を買ったことをガイアに話す。
「パーラの収納のおかげで冒険中も普段と同じ料理が食べられそうなので」
「ではスープを多めに作って持っていきますか?」
「いいんですか!?」
料理を作り終え、昼食を取る。私以外のみんなは食べたことのあるメニューだったが「おいしいから何度でも食べられる」と言いながら食べ進めた。そして、ここでの最後の食事が終わる。
「スープを移動しましょうか」
パーラに鍋を出してもらって軽く洗い、ガイアの作った赤いスープを鍋に移し、蓋を閉めてパーラに渡す。
「ありがとうございます!大切に食べます!」
「腐らないからと言ってずっと残しておいても仕方ありませんよ?」
「冒険する時に食べるようにします!」
「それから、レイアさんに渡しておきたいものがあります」
ガイアは鞄から大きな金属製の四角い箱を二つと、同じような箱で小さいものを一つ、そして巻かれた布を一つ取り出した。ガイアが大きな箱の一つを開けると、そこにはお茶の時間に出してくれたお菓子が詰まっていた。
「宝石箱みたい」
「ふふ、宝石箱ですか。そうかもしれませんね」
もう一つの大きな箱を開ける。そこにはティーセットが入っていた。そして小さい箱に入っていたのは茶葉と砂糖とミルク。
「今度会った時にはレイアさんに紅茶を淹れていただけると嬉しいですね」
「頑張ります!」
次に、ガイアは巻かれた布を広げていく。その布には長いファスナーがついていた。私はこれを見たことがあった。今いるこの場所に入るために通った布だった。
「これって…」
「これはこの魔法空間を作り出しているものと同じものになります」
「こんな高価そうなものはもらえませんよ!スープにお菓子にティーセットまでもらってるのに…」
「外へ出ましょうか」
「え、は、はい」
私たちは外へ出る。ガイアは別の枝に布をひっかけファスナーを開けると、中に入っていく。私たちはガイアの後に続いて中へと入る。中は狭かった。入ってすぐ右手にキッチンがあり、その手前にはテーブルとイスが四脚。奥には扉が一つあり、扉の先は私が泊まった部屋と同じ作りだった。
「これは私が以前使っていたもので、見ての通り窮屈です。今使っているものは改良してもらったもので、今もさらに大きい空間にできるよう改良してもらっています」
──あれ以上広い空間って必要?二階建てとか地下室とかが増えるのかな?それともあのまま広くなるのかな?
「もらっていただけませんか?」
「どうして私によくしてくれるんですか?」
「そうですね…。短い間でしたが、非常に楽しい時間を過ごすことができました。それに久しぶりにこの子にも会えました。そのお礼と言ったところでしょうか。それに今からレイアさんに淹れてもらう紅茶が楽しみなんですよ」
ガイアはそう言いながら、私の頭上のピーちゃんを撫でる。
「私も楽しかったです!魔法もたくさん教えてもらって。ご飯もおいしくて。倒れて迷惑かけちゃったけど…」
ガイアはピーちゃんを自分の手に乗せ、空いている方の手で私の頭を撫でる。優しく撫で続けながらガイアは言う。
「これから大変なこともあると思います。でもこの子たちがいれば大丈夫でしょう。みなさん、レイアさんをお願いしますね」
「任せて!」
「頑張ります!」
「お任せください」
「やれるだけやってあげるわ」
「…みんな、ありがとう」
私たちは外に出る。私はファスナーを閉じ、ハドックに布を枝から外してもらい、丸める。それをパーラに収納してもらい、私たちはガイアの魔法空間に戻った。戻った私はお菓子が詰まった箱とティーセット、茶葉類をパーラに渡す。私たちがここを出発する時間がすぐそこまで迫っていた。
「忘れ物はありませんか?」
──忘れ物は、大丈夫かなぁ。パーラに全部しまってもらったし。あとは杖を持って…。あ!杖とブレスレットは返さないと!
私がブレスレットを外そうとすると、ガイアがそれを制止するように言う。
「その杖とブレスレットは差し上げます」
「え…?」
「渡した時に差し上げたつもりだったのですが…」
「色々もらいすぎだと思うんですけど…」
「杖もブレスレットも今のレイアさんには必要なものでは?」
「それはそうですけど…」
「ではその二つはレイアさんにお貸しします。立派な冒険者になって返しに来てください」
「必ずお返しします!」
「楽しみに待っていますね」
出発する時間になり、私たちは外へ出る。外に出ると、ガイアが私に一つだけお願いをしてきた。
「レイアさん、私のことは秘密にしていただけませんか?居場所が知れると厄介なことを頼まれますので」
「秘密にします!」
「ありがとうございます」
「短い間でしたがお世話になりました!」
「またどこかで会えることを楽しみにしています」
「はい!みんな、行こう!」
私はガイアに感謝を述べ、頭を下げる。私が頭を下げたことで、みんなも頭を下げた。私たちはガイアに背を向け、メイカルトを目指して歩き始めた。
メイカルトに向かう途中、何度か後ろを振り返る。そのたびに小さくなっていくガイアの姿が確認できる。私が手を振ると向こうも手を振り返す。そしてガイアが見えなくなった時、私は杖を握りしめ、しっかりと前を向いて歩みを進める。
──どれくらい歩いたかなぁ。ガイアさんにはいっぱいお世話になったなぁ。でも冒険を続けてたらガイアさんにまた会えると思うし、他のビーストテイマーにも会える。だからいっぱい冒険しよう!次に顔を合わせる時には今より少しでも成長した姿を見せなきゃ。
ガイアと別れてから一日。メイカルトが見え始めるとピーちゃんが口を開く。
「帰ってきたね!」
「まずはギルドに行かなきゃね」
西門に着くとディアンがおり、私たちに気がつくと大きく手を振り始めた。
「レイア、冒険はどうだったよ?」
「ディアンさん、ただいま」
「なんかあったか?」
「え?」
「出ていく時はそんな杖持ってなかっただろ?それに、いい顔になったな。冒険者としてまた成長したみてえだな」
「はい!」
私たちはディアンと別れ、ギルドに向かう。ギルドの扉を開けると、いつも通りあやかが受付にいたのであやかの元まで向かう。私があやかに挨拶をすると、少し驚いた様子で挨拶を返す。
「あやかさん、戻りました!」
「レイアさん、お帰りなさい」
「これ、お願いします」
「確認いたします」
私はパーラからグラスクロウの羽根が入った袋を出してもらい、あやかに渡す。あやかは慣れた手つきで検分を始める。
「依頼分より多い分は買い取りということでよろしいですか?」
「はい!」
検分を終えたあやかは依頼分と買取分の報酬を計算し、報酬の用意をする。あやかは用意した報酬を私に手渡し、私は報酬の入った袋をパーラに収納してもらう。依頼のやり取りを終えるとあやかが口を開いた。
「レイアさん、その杖はどちらで?」
「これはその…」
──どうしよう…。できればあやかさんに嘘はつきたくないなぁ。でもガイアさんはきっとギルドにとっても重要な冒険者だと思うし、面倒な依頼をやらされるのは私も嫌だなぁ。それに秘密にするって約束したし…。
私が少し悩んでいると、パーラが鞄の口をぱかぱかと動かす。
「この杖はパーラが収納してたもので貸してもらってます!」
「そのブレスレットもですか?」
「そ、そうです…」
「レイアさん、無茶だけはしないでくださいね?」
「は、はい」
あやかは少し怪しんだ目でそう言った。私たちはあやかと別れ、ギルドを後にする。そしていつも使っている宿屋に向かい、おかみさんに帰ってきたことを伝えた。ハドックには中庭で待機し、私たちは部屋に向かう。
「色々あったけど楽しかったね!」
「楽しかった!」
「楽しかったです!」
「料理がすごくおいしかったわね」
「パーラ、もらったものは勝手に食べないでね?」
「食べないわよ!」
翌日、私たちは朝食を取り、中庭にいるハドックと合流し、そのまま中庭でみんなと少し話をする。
「みんな、ガイアさんと約束したから、ここを離れていろんなところを冒険しようと思ってるんだけど、いい?」
「うん!」
「はい!」
「どこまでもお供いたします」
「コレクション増やさないとね」
「みんな、ありがとう。じゃあギルドに行こう」
私たちはギルドへ向かう。ギルドに入ると、いつもと変わらずあやかが受付にいた。私たちはあやかの元まで行き、メイカルトを離れることを伝える。
「あやかさん、おはようございます!」
「レイアさん、おはようございます」
「あの、あやかさん。ここを離れて、他の都市や国に行こうと思います」
「…。ではレイアさんに教えておきたいことがあります」
私の言葉にあやかは一瞬驚いた顔をするが、すぐにいつもの笑顔に戻った。何か聞かれると私は身構えていたが、あやかは私の決意を感じ取ったのか何も聞かなかった。あやかが私に教えたのは、ギルドに設置されている魔法具の使い方だった。
「これは『ディメンジョンレター』という魔法具です。全ギルドに設置してあります。使用するにはお金がわずかに必要ですが、ここから手紙を出すと各ギルドへすぐに届きます。レイアさん、できる限りで構いませんので、私に手紙を送っていただけませんか?」
「わかりました!」
私は元気よく返事をして、あやかに使い方を教わる。
「レターセットはギルドでも販売していますので」
「わかりました」
「ご出発はいつ頃になりますか?」
「このまま出発しようと思ってます」
「わかりました、お気をつけて」
「また来ます!」
「ピー!」
あやかと別れ、ギルドを後にする。そのまま私たちは宿屋に戻り、おかみさんにメイカルトを離れると伝える。
「いつでも待ってるよ!」
「戻ってきたらまた来ます!」
私たちは宿屋を後にし、西門に向かう。門にはディアンがいたのでメイカルトを離れることを伝えた。
「他の都市にも門はあるからよ、閉まる前に帰るんだぞ」
「はい!」
私たちは西門を後にし、南門へ。南門を抜けて、整備された街道を少し進んだところで、ハドックが後ろから私を呼び止めた。
「レイア様、少々お待ちください」
「どうしたの?」
「あれを」
私が後ろを振り返ると、ハドックは南門の黒い人影を指さす。黒い人影には見覚えがある、リータだ。リータは私が気づいたことに気づくと、ポーチから二本の剣を取り出した。
「レイア様、ここはわたくしが」
「え?」
私は何が起きているかわからなかったが、ハドックに任せることにした。ハドックが少し前に出たのをリータが確認すると、リータは一瞬で加速し、ハドックに斬りかかる。キンッ!という鋭い金属音が響き、ハドックは剣を受け止め、剣ごとリータを押し返す。リータはその一撃で満足したのか、剣をポーチに戻した。ハドックもリータの意図を感じたのか斧を担ぎ、私の後ろに下がる。
「旅立つって聞いた」
「もっと色々なところを冒険しようと思って」
「今の続きは今度会ったら」
「……」
「ハドックが『楽しみにしております』って言ってます」
「うん、気をつけて」
リータはそう言い残し、満足そうな足取りで戻っていった。
「じゃあみんな、まずは南にある水産都市まで行こう!」
──冒険者になって本当に色々なことがあったなぁ。たくさん迷惑をかけたし、心配もさせちゃった。怒られたこともあったっけ…。でも信頼できる仲間が増えたし、冒険者にならなかったらみんなとも出会えなかった。これからも大変なことがあるかもしれないけど、みんながいれば大丈夫だと思う。冒険者になって本当によかった!




