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スカーレットリンク ~緋色の盟約~  作者: 霧野 勝
1章:新人ビーストテイマー
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1-16:魔法の練習

「中で休憩しますか?」

「このままここでみんなを待ちます」

「わかりました」


 そう言うとガイアはファスナーの中に消えていき、しばらくすると戻ってきた。戻ってきたガイアはイスを二脚と四人で使用できるほどの大きなテーブルを浮かせていた。ガイアがテーブルとイスを設置すると、私に座るように促し、再びファスナーの中に戻る。次に戻ってきた時にはティーセットを浮かせていた。紅茶を飲みながら休憩していると、ガイアが口を開く。


「レイアさん、そのブレスレットにはもう一つ役割があります」

「なんですか?」

「この子たちの魔力量がわかるようになります」

「え!?」


 ガイアは続ける。ブレスレットを付けた手でピーちゃんに触れると、ピーちゃんの魔力量がわかるという。当然仲間になっていないモンスターには効果がない。頭の痛みが消えた頃、平原に消えた三人は戻ってきた。五体のグラスクロウを持って。


「おかえ…、え?」

「ふふ、おかえりなさい」


 私は五体のグラスクロウを持ったハドックを見て驚くが、ガイアは笑顔でピーちゃんたちを迎えている。グラスクロウを見ると、少し焦げているものや凍りついているもの、綺麗なものと様々。ハドックの肩の上にいたピーちゃんはテーブルに舞い降り、タマモは私の足元に擦り寄ってきたので抱き上げた。ハドックは五体のグラスクロウをテーブルから少し離れた場所に置き、その場に立つ。


「みんな、おかえり。いっぱい倒したんだね」

「レイア、大丈夫?」

「さっきは頭を抱えていたので心配です」

「レイア様の頭痛が消えていればよいと、帰りがけに話していたところでした」

「もう大丈夫みたいよ」

「パーラの言う通り、頭痛はもう大丈夫」


 私の言葉を聞いたピーちゃんたちは安堵したようだった。その様子を微笑みながら見ていたガイアが口を開いた。


「ケガはしてないようですが、ちょうどいいので回復魔法を使ってみましょう。ただこれも今の魔力量だとあまり魔力を込めない方がいいですよ」

「はい!」


 私は杖を持ち、イスから立つ。そしてテーブルから少し離れたところで、私は杖を立てる。今までと同じ要領で少しだけ魔力を込めていく。


「キュアータッチ!」


 私が魔法を発動すると、杖の先端の宝石が輝き、宝石部分が温かい風をまとう。そしてその風がピーちゃんたちを撫でるように吹き抜けていった。


「うーん?」

「疲れが抜けたような感覚がします」

「これは!」


 ハドックは魔力で動いているので、その魔力が回復したようで感動していた。ブレスレットを確認すると、珠一つ半の魔力を使用したのがわかる。半分以上の魔力を消費していることに私は少し焦る。


「魔力使い過ぎちゃってるなぁ」

「それは仕方ありません。慣れない魔法を使っているのですから。少々早いですが昼食にしましょうか」

「あの、外でみんなが倒してきたグラスクロウの羽根を回収してていいですか?」

「構いませんよ」


 ガイアは昼食の準備のため、魔法空間へと消えていった。私はピーちゃんたちがどうやってグラスクロウを倒したのかを聞きながら羽根を集める。時折、ピーちゃんとタマモをブレスレットの付いた手で撫でる。すると緑色の玉が緋色に光り、二人の魔力量を私に示す。私の支援のおかげか、二人の魔力量は十分だった。


 羽根を集め終わった頃、ガイアが昼食を持って外に出てくる。昼食後、紅茶を飲みながら休憩していると、ブレスレットが珠一つ分回復しているのに気づいた。


「残っている魔力量から、午後は魔法を使用しないか、使用するにしてもあまり魔力を込めない方がいいでしょうね」

「どうすれば魔力量は増えますか?」

「魔力量を増やすには、魔法を使い続けることです。生活魔法ではほとんど増えません。支援、索敵、回復。これらを使い続けるうちに魔力量は増え、それと同時に消費する魔力も少しずつ減っていくでしょう。でも魔力量を増やしたいがために倒れるまで魔法を使うのはおすすめしませんよ」

「…気をつけます」


──今の魔力量は半分ぐらいかぁ。午後は魔法を使わない方がいいかなぁ。頭痛はもう大丈夫だけどみんなに心配かけちゃってるし、また倒れたら嫌だなぁ。


「少し仮眠をとってはいかがですか?まだお若いので仮眠でも大きく回復すると思いますよ」

「そうします」


 悩んでいるのが表情に出ていたのか、ガイアは私に仮眠を勧める。私はパーラから布を出してもらい、ファスナー付きの布がかかっている木の横に敷く。木にもたれるようにして布の上に座るとみんなもやってきた。ピーちゃんとタマモを撫でていると、魔法を使って疲れていたのかお腹が膨れたせいか、すぐに眠りにつく。どれくらい寝たのかわからないが、私が目を覚ますと机の上にいるピーちゃんはガイアに撫でられ、タマモはガイアの膝の上で丸くなっていた。私が起きたことに気づいたハドックが挨拶をすると、ピーちゃんとタマモは私のところへやってきた。


「レイア様、おはようございます」

「おはよう!」

「おはようございます」

「おはよ」

「おはようございます。もうすぐお茶の時間でしたのちょうどよかったです」

「おはよぉ…、ございますぅ…」


 私は眠そうに布を片付けてパーラに渡す。ガイアはお茶の準備をするため、ファスナーの中に入っていく。私はよろよろとイスに座り、ブレスレットを確認する。


──ちょっと寝ただけなのに珠三個分も回復してる。やっぱり睡眠が一番重要なんだなぁ。普段からいっぱい寝よう。


「どれくらい回復しましたか?」

「えっと、珠三個分回復して今は珠八個分の魔力があるみたいです」


 ガイアが戻り、紅茶を淹れながら私に尋ねた。ここまで回復すれば少しは魔法の練習ができるだろうと私が考えているとガイアが言う。


「魔力を回復したからといって、無理はしないようにしてくださいね」


 日が落ちるよりも先に、私の魔力が珠二つ分になったところでその日の練習は終わりを告げた。夕食は魚介類のスープ、パン、サラダ、リンゴだった。焼いた魚しか食べたことのなかった私には初めての味だった。


──おいしい!ガイアさんのご飯に慣れたら大変かも…。


 ピーちゃんやタマモにスープは食べにくいのを知っていたガイアは、スープをパンに浸して食べることを勧める。パンがスープを吸って柔らかく、美味しくなるのだという。私も真似をすると確かに美味しい。夕食が終わり、私は少し気になっていたことをガイアに尋ねる。


「あの、部屋にあるお風呂って使っても大丈夫ですか?」

「大丈夫ですがお湯は作れますか?」

「あ…」

「ぼくが作る!」

「え?」

「ふふ、ではあなたに任せましょう。ゆっくり温めるのですよ?それからレイアさん、疲れていると思うのでお風呂の中で寝ないように気をつけてくださいね」

「気をつけます」


 私たちは部屋へ戻り、お風呂場に行く。ピーちゃんがお湯を作ると言ったが、どうやってお湯を作るのか私は気になっていた。私だけではなく、ピーちゃん以外のみんなも疑問に思っている。


「ピーちゃん、どうやってお湯を作るの?」

「ぼくが水の中に入る!」


──確かにピーちゃんの体はあったかいけど、お湯になるほどじゃないと思うんだけどなぁ。ダメだったらガイアさんに入れてもらえばいっか。


 自信満々のピーちゃんに疑問を抱きながら、私は水でお風呂を満たしていく。十分に水が貯まったところで、ピーちゃんをお風呂の中に入れてみる。


「つめたーい」


 私たちはピーちゃんがどうするのか気になり見守るが、何かが起きる気配はない。ピーちゃんはお風呂に浮かんだまま、じっとしている。しばらくピーちゃんを見ていると、次第に水面を泳ぎ始めた。水温になれて遊んでいるのだろうと思った私はピーちゃんに声をかける。


「ダメそうならガイアさんに頼むよ?」

「あったかくなってきてるよ!」

「え?」


 ピーちゃんの言葉に驚いた私はお風呂に手を入れる。人肌より温度は低いが、確実に温まっていた。水面を泳ぐピーちゃんに触れるといつも通りの温かさが手に伝わってくる。気になったのかパーラも触手を伸ばして確認すると、驚いているようだった。


──ピーちゃんがすごいのは知ってたつもりだけど、どうやって温めてるんだろ?ピーちゃんが熱いわけじゃないし、そういう魔法?そういえばゆっくり温めるようにガイアさんが言ってたっけ。


 私は手で温度を確認しながらちょうど良い温度になったところで、ピーちゃんをお風呂から出す。お風呂から出たピーちゃんは風をまとって体を乾かしていた。


「ピーちゃんはなんでもできるね」

「ピーちゃん、すごいです」

「流石でございます」

「やるわね」

「えっへん!」


 みんなには部屋に戻ってもらい、私はお風呂に入る。すると、タマモはお風呂が気になるのか、私の足元に擦り寄ってくる。


「タマモも入る?」

「入ってみたいです」

「お風呂は初めてだよね?」

「水浴びなら」


 私はタマモを洗い、一緒にお風呂に入る。ピーちゃんが温めたからか温度が下がる気配がなく、一定に保たれていた。そして疲れが取れていくような感覚もある。タマモは初めてのお風呂に気持ちよさそうな顔をしていた。


 私たちはお風呂から出て、備え付けられていたタオルで体を拭く。タマモをタオルで拭くものの完全には乾かなかったので、ピーちゃんの風魔法で私の髪と一緒に乾かしてもらった。パーラにブラシを取り出してもらうと、パーラはそのまま私の髪を梳かし始める。


「パーラ、ありがとう」

「いいのよ」

「じゃあ、寝よっか」


 私が寝るためにベッドに入ると、ピーちゃんとタマモが一緒に寝たがったので三人で寝ることに。パーラは隣のベッドで、ハドックはいつも通り、立ったまま警備をする。


 翌日、いつも通りの時間に起きた私はみんなに挨拶をし、身支度を整え、髪を三つ編みにしようとするとパーラが三つ編みにするという。


「パーラ、ありがとう。昨日も髪を梳かしてくれて」

「私がレイアにしてあげられそうなのは身の回りの手伝いぐらいよ。だから私に任せなさい」

「じゃあよろしくね」


 支度を整えて部屋を出ると、ガイアが長机でお茶を飲んでいた。


「ガイアさん、おはようございます!」

「みなさん、おはようございます。朝食をお持ちしますのでおかけになっていてください」

「もう作ってあるんですか?」

「昨日と同じ時間にレイアさんが起きてくると思ったので」

「…すみません」

「謝ることはありませんよ」


──私たちが寝坊したみたいになってガイアさんに悪いことしちゃったなぁ…。


 朝食は、パンケーキという厚みのある円形の食べ物、ベーコン、スクランブルエッグ、サラダ、ブドウ。私は初めて見るパンケーキなる食べ物に視線を奪われていた。


「パンケーキは初めてですか?」

「はい。これはどうやって食べるんですか?」

「このはちみつをかけて食べるのですよ。かける量には注意してくださいね」


 そういって、ガイアは自分のパンケーキにはちみつをかける。私はそれを見て、同じぐらいの量をかける。私がはちみつをかけている間、ガイアはピーちゃん、タマモ、パーラの分にはちみつをかけていく。ガイアがナイフとフォークで切って食べるのを見て、私も同じようにして食べる。


──なにこれ!?甘いし柔らかい!それに少し焦げたところの苦味がちょうどいい!こんな食べ物がこの世にあるなんて…。冒険者になってよかった!


「おいしい…」

「おいしい!」

「おいしいです…」

「…」

「ふふ、お口にあったようでよかったです」


 私とタマモは絞り出すような言葉しか出なかった。パーラに関しては言葉も出ないほど。朝食が終わり、ガイアは紅茶を淹れる。私は紅茶を飲みながら、今日の予定を話し合うつもりだった。


「今日はどうしますか?」

「今日も魔法の練習がしたいです!」

「レイア様、それには賛同いたしかねます」

「え?なにか予定あったっけ?」

「そろそろギルドに戻る必要があるかと」

「あ…」

「ここからですと一日はかかりますから、お昼過ぎには出発したほうがいいかもしれませんね。短い時間で魔法の練習をしても構いませんが、疲れた状態では道中に不安が残りますので、やめておいた方がいいでしょう」

「そうします」


 私はこの短い時間で何ができるか考える。聞きたいことは聞いたか。教えてもらいたいことは他にはないか。次にいつガイアに会えるかわからない。今ここで聞けることは何でも聞いておきたかった。


「あの、また会えますか?」

「レイアさんが冒険を続けていればいずれまた会えると思いますよ」

「たまに空を飛んでいるドラゴンについてなにか知っていますか?」

「ドラゴン、ですか?存じ上げませんね」


──うーん?ドラゴンって最近よく飛んでるけど、誰も知らないのかなぁ?私たちにしか見えない特別なモンスターなのかなぁ?


 私はガイアに様々なことを打ち明ける。胸にアザがあること。みんなが仲間になる時、アザが光って、私と仲間になるモンスターが光に包まれること。そして、ピーちゃん以外はドラゴンの向かった先で出会ったこと。


「ビーストテイマーはみんなこうなんですか?」

「それはわかりません。それと、そのアザを確認させていただけませんか?」

「わかりました」

「ここではなんですから私の部屋に行きましょう」


 私たちはガイアの部屋へと移動する。「入っていいのはレイアさんだけですよ」といって、みんなとハッコは部屋の外で待機することになった。ガイアの部屋は私が泊まった部屋と同じ作りをしていた。


 私たちはソファに座り、ガイアに胸のアザを見せる。


「このようなアザは見たことありませんね」

「そうですか…」


 ガイアはどこか真剣な、しかし柔らかい雰囲気を保ったまま私のアザを見つめているような気がした。服を整え、ソファに座りなおした私に、ガイアはビーストテイマーの本質を語り始めた。


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