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スカーレットリンク ~緋色の盟約~  作者: 霧野 勝
1章:新人ビーストテイマー
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1-14:ガイア

 ギルドに到着し、依頼掲示板を眺める。D級冒険者になったことで、C級までの依頼が受けられるようになったのだ。いくつか目を通して、私はグラスクロウの羽根の回収という依頼を受けた。受付のあやかにその旨を伝えると、あやかはこの依頼について少し注意をする。


「グラスクロウは空を飛ぶモンスターなので、ファーストバードよりも高難易度となります」

「頑張ります!」

「貴重な素材ではありませんが、もし依頼分より多く入手した場合にはすべて買い取らせていただきます」

「はい!」


 あやかの言葉に、この依頼を受けることを改めて決意した。私たちはギルドを後にする。宿屋に立ち寄り、おかみさんに少しの間帰ってこないことを伝えてから、西門へと向かう。西門には門番であるディアンがいた。


「ディアンさん、冒険してきます!」

「おう!無茶すんなよ」


 私がそう伝えると、ディアンは軽く手を上げて見送ってくれた。そのまま平原を進み、依頼のグラスクロウを探しながらうろうろする。メイカルトを出発してから一日。私たちはメイカルトと森のちょうど中間あたりにきていた。引き続きグラスクロウを探しながら歩いていると、遠くに人影が見える。


 他の冒険者だろうと思ったその時、私の頭上にいるピーちゃんがその人影をじっと見つめる。そして次の瞬間、ピーちゃんは私の頭上からその人影に向かって飛んでいった。


「ピーちゃん!?」


 私たちは慌ててピーちゃんを追いかける。近付いてみると、平原の大きな石に穏やかそうな壮年の女性が座っていた。ピーちゃんはその女性の前に降り、くるりと回って左右の翼を広げてみせた。突然の出来事にピーちゃんを抱き上げて、私は慌てて女性に謝罪した。


「すみません!」

「ふふ、かわいいですね」


 女性は優しい笑みを浮かべて言う。その言葉に安堵した瞬間、女性の背後から黒い縞模様の入った白いふわふわとした体毛を持つ小さなモンスターが顔を出す。すると私の腕の中からピーちゃんが飛び出し、その白いモンスターのところへ向かっていく。二人が睨み合っていると、女性は静かに言った。


「ここから少し離れてくださいね」


 ピーちゃんと白いモンスターは私たちから距離を取って向かい合う。ピーちゃんが小さな体に炎を纏うと、白いモンスターは小さな体に風をまとった。次の瞬間、両者は飛び出す。


「ピーちゃん!」

「大丈夫ですよ」


 私は止めようとしたが女性が私を止めたので、心配になりながらその場で見守ることにした。


 炎を纏ったピーちゃんは白いモンスターに向かって一直線に突進したが、白いモンスターは軽やかに身を翻し、突進を避ける。そして避けると同時に、白い小さな体から風の刃が放たれた。ピーちゃんは風の刃を避けたが、私には刃の端がわずかに当たったように見えた。


 ピーちゃんはすぐに体勢を立て直し、低空で静止しながら白いモンスターに向かって炎を吐く。白いモンスターはその場から動かず、炎に飲み込まれていった。しかし、炎の中から白いモンスターがピーちゃんに向かって突進を仕掛ける。炎を吐き続けていたピーちゃんは驚くものの、遅かった。白いモンスターの風をまとった突進が当たり、ピーちゃんは地面に落下。地面に落下したピーちゃんは動かなくなり、白いモンスターは勝ち誇ったかのような顔で私たちの方を向いた。


「終わったみたいですね」


 私たちは動かなくなったピーちゃんに急いで駆け寄り両腕で抱き上げるが、ピーちゃんはぐったりと気絶していた。女性がこちらへ近寄ってくると、ハドックは警戒するように前に出た。


「警戒しなくても大丈夫ですよ。このポーションを振りかければ時期に目を覚ますでしょう」

「ハドック」

「かしこまりました」


 私は女性の言葉を信じ、ハドックに下がるよう促す。ピーちゃんを腕に抱いたまま、女性にポーションを振りかけてもらった。


──ピーちゃん大丈夫かなぁ。ピーちゃんが負けるなんて。それもピーちゃんと同じぐらいの大きさの小さいモンスターに。あの白いのもピーちゃんと同じなにかの特殊個体?…もしかしてこの人、ビーストテイマー?


「あの、もしかして、ビーストテイマーさんですか?」

「そのようなものですね」


 私がピーちゃんを腕に抱いたまま尋ねると、女性は穏やかな笑顔で答えた。私は腕の中のピーちゃんを心配しつつ、初めてビーストテイマーに出会えたことを嬉しく思う。


 女性は鞄から丸まった布を取り出した。その布の先端についている輪っか状の紐を近くの木の枝に引っかけ、布を広げる。布には長いファスナーがついており、女性はそのファスナーを開いた。


「その子のこともありますし、立ち話もなんですからこちらへどうぞ」

「は、はい」


 開いたファスナーに女性と小さな白いモンスターがスッと吸い込まれ、促されるままに私たちも中に入る。すると、そこには驚くほど広い空間が広がっていた。中は広い平屋の家のようで、中央に大きな長い机が置かれ、入って右手にはキッチンがある。


「広い…」

「すごいです」

「このような空間が広がっているとは」

「広いわね」

「お好きなところにどうぞ」


 私たちが驚いていると、女性は大きな長机にあるイスに座るよう勧めた。私がピーちゃんを抱いたまま座って待っていると、女性はティーセットと美味しそうなお菓子を持ってやってきた。


「紅茶はお好きですか?」

「飲んだことありません」


 女性が紅茶をカップに注ぎ終わると、お菓子とお皿を机の上に置いた。箱からお皿へお菓子を取り分けていると、腕の中のピーちゃんがもぞもぞと動き出す。


「ピーちゃん、大丈夫?」

「うん!」


 元気になったピーちゃんはテーブルの上にふわりと飛び乗ろうとしたので、慌ててピーちゃんを腕の中に戻し、女性に謝る。


「すみません!」

「構いませんよ。そちらの狐さんとミミックさんも机の上で大丈夫ですよ」


──え?パーラをミミックって見抜いた?それともビーストテイマーだからモンスターと鞄の区別がつくのかなぁ?


 女性の言うとおりに、ピーちゃんとタマモとパーラを机の上に上げる。ピーちゃんはお菓子が気になるようで、女性に促されると美味しそうにお菓子をつまみ始めた。女性はみんなにもお菓子を勧めるので、私はタマモとパーラにもお菓子をあげた。


 女性は対面のイスに座り、小さな白いモンスターを机の上に上げ、お菓子を与え始めた。全員にお菓子がいきわたったところで、私たちは紅茶を飲む。初めて飲む紅茶は私にとって不思議な味だったが、美味しいと思える味ではない。女性は私の表情から美味しくないと読み取ったのか何かを持ってきた。


「お口に合いませんでしたか?」

「初めて飲んだので、その…、不思議な味だなと」

「これは砂糖とミルクです。少しずつ入れて、好みの味を探してください」


 言われた通り、砂糖とミルクを少し入れて飲む。さっきよりも飲みやすく美味しく感じられた。それが表情に出たのか、女性は笑顔でこちらに微笑んでいた。紅茶とお菓子で一息ついたところで、私は聞きたいことがあったが、まずは名前を聞くことにした。


「私はレイアと言います。この子はピーちゃんでこっちがタマモ。後ろがハドック、この鞄がミミックのパーラです。それでその、あなたは?」

「『ガイア』と申します」

「ガイアさん、ピーちゃんとはどこかで会ったことがあるんですか?」

「以前、少しだけ一緒にいましたが、ある日どこかへ飛び立ってしまって」


 ガイアはピーちゃんを笑顔で見つめながら、そう答える。ガイアの答えを聞き、私はさらに質問を続けた。


「さっきピーちゃんに振りかけたポーションはなんですか?」

「あれは…、私の家族が作ったポーションです」

「そのポーションは私でも作れますか?」

「非常に難しいでしょう。でもビーストテイマーであれば支援魔法や治癒魔法が使えるのではありませんか?」


 私は戦闘では一切役に立たないため、せめて何かで役に立てるようにとポーションの作り方を教えてもらおうとすると、予想外の答えが飛び出してきた。しかし、生活魔法しか使えないことを私はガイアに伝える。


「あの、生活魔法しか使えないんです。攻撃魔法はなにも覚えられなくて。だから支援魔法も…」

「その子たちを仲間にしているならその子たち専用の支援魔法が使えると思いますよ」

「私でも使えるようになりますか?」

「生活魔法といってもそもそも魔法の素質がなければ生活魔法すら使えません」

「今まで支援魔法を教えてくれる人はいなくて。使えるようになるかわからないけど、教えてもらえませんか?」

「構いませんよ」


 私の願いをガイアは笑顔で承諾。魔法の種類も曖昧だが、支援魔法は戦闘で役に立たない私にはうってつけだった。私たちはファスナーから平原へと戻る。少しばかり日が傾いていた以外は入った時と変わらぬ平原のままだった。平原に出るとガイアは鞄から杖を取り出し、私に渡す。


「生活魔法だけ、ということは魔法の使い方は大丈夫でしょう。しかし生活魔法は簡単な部類なので、魔法の発動を助けるために杖をお貸しします」

「ありがとうございます!」


──ギルドで魔法使いの人が持ってるような杖だ!結構大きいなぁ。肩ぐらいまであるかな?きれいな宝石が先端についてるなぁ。…これって高い?壊さないようにしないと…。


 外が暗くなり始めた頃、魔法の練習をしていた私は力が抜けたように倒れたが、地面に倒れる寸前でガイアが魔法で受け止める。私が倒れたことでみんなが驚き、浮かんでいる私に駆け寄る。ガイアはそのまま私を魔法で浮かせ、ファスナーの先にある広い空間に運ぶ。


 ガイアは、魔法空間の空き部屋に私を運び入れてベッドに寝かせた。そのまま私の額に手を当てると、ガイアの手のひらが一瞬輝いた。


「倒れるまで魔力を使ったことがなかったのでしょうね。これだと明日の朝までは目覚めないでしょう」

「レイア、起きる?」

「ええ、起きますよ。さて夕食の準備をしましょう。みなさんも食べますよね?」


 ガイアは心配するピーちゃんの頭を一撫でして、夕食の準備のため退室。ガイアが部屋から出ても、みんなの視線はずっと私に注がれたままだった。しばらくして、ガイアが夕食のため、部屋を訪れる。


「わたくしは食事の必要がありませんのでここに残ります」

「わかった!」

「レイアさんをよろしくお願いします」

「なにかあったらすぐ呼んでよ」


 ピーちゃんとタマモとパーラは部屋を出て、大きな長机まで向かう。机の上には、パン、焼いた肉、サラダ、桃が少量ずつ用意されていた。


「おいしそう!」

「豪華ですね」

「これは期待できそうね」

「どうぞ」


 ガイアに促され、三人は食べ始める。ピーちゃんとタマモはお腹が空いていたのか美味しいのか一心不乱に食べ進め、パーラは味わうように料理を食べる。


「レイアのところに戻る!」


 三人が夕食を食べ終えると部屋に戻り、ハドックが出迎える。


「レイア様が目覚める気配はございませんでした」

「うん」

「早く目が覚めるといいのですね」

「ご飯も食べずに寝て大丈夫かしら」


 みんなはそれぞれに私を心配するものの、どうすればいいのかわからず、浮かない顔をしながら私に視線を注ぐ。しばらくそのまま時間が過ぎた時、パーラが口を開いた。


「明日には目が覚めるんだから寝ましょう。起きた時に私たちが元気じゃないとレイアが心配するでしょ」

「寝ている間の警備はわたくしが」

「よろしくお願いします」

「寝よう!」

「ちょっと!そこで寝たらかえってレイアの邪魔になるでしょ。隣のベッドが空いてるんだからそっちで寝なさい」

「うん…」

「はい…」


 ピーちゃんとタマモは心配のあまり、私と同じベッドで寝るつもりだったがそれをパーラが止め、空いていたもう一つのベッドに移動した。ピーちゃん、タマモ、パーラの三人は隣のベッドで私の方を向いて眠りにつく。ハドックは私の眠るベッドの足元に立ち、私に視線を注ぎつつ、いつも通り警備にあたった。


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