1-13:昇級
模擬戦が終わり、私たちとリータは平原に残っていた。リータが落ち着くまでそばにいるよう、ボガートに言われている。私はパーラに布を取り出してもらい、地面に敷く。
「リータさん、ここに座りませんか?」
「このまま少し寝る…」
リータはふらふらと近付き、そのまま布の上で横になると、すぐに規則正しい寝息を立て始めた。平原とはいえモンスターのいる場所だが、ハドックとの模擬戦はそれだけ疲れたのだろう。
「ピーちゃん、周りを見てきて」
「わかった!」
私はピーちゃんに周囲を警戒するように言うと、頭上から舞い上がる。近くにモンスターはいなかったのか、ピーちゃんはすぐに頭上へと舞い戻り、眠っているリータを起こさないよう、小声で模擬戦について話を始める。
「ハドックってすごく強いんだね」
「強かった!」
「森で戦った時よりすごかったです」
「恐縮でございます」
「ちょっと強すぎじゃない?」
ハドックは静かに私たちの称賛を受け止め、照れた様子で感謝を述べる。模擬戦とは思えないほどの激戦だったことから、私はハドックに尋ねた。
「そういえば、ハドックの魔力は大丈夫なの?」
「レイア様のご心配、痛み入ります。わたくしはまだ余裕がございます」
その言葉に安堵し、ハドックへの質問を続ける。
「ハドックって雷属性以外にもなにか使える?」
「雷と闇が使用できます」
「闇属性も使えるんだ」
「アンデッドなんだから当たり前よ」
パーラ曰く、アンデッドはそのほとんどの個体が闇属性を使用できるらしい。ハドックの場合、雷を使用したことにパーラは驚いたのだそうだ。
「パーラは?なにか使えるの?」
「私は、地、光、闇ね。でもね、三属性とも攻撃じゃなくて防御に特化してるわ。攻撃できないわけじゃないけど、コレクションを守らないとね」
「防御に特化したミミックとは珍しい」
──パーラって防御特化なんだぁ。ついでに私のことも守ってくれないかなぁ?
「一応言っておくけど、レイアが私を背負ってる間、なにかあってもレイアだけはすぐに守れるようにしてるから安心しなさい」
「知らなかった。パーラ、ありがとう」
「ふふん」
雑談をしていると昼食の時間になる。私はピーちゃんに狩りをお願いした。ピーちゃんは私の頭上から元気よく飛び出し、すぐにファーストバードを狩ってくる。そして私がさばき、タマモが焼き上げる。香ばしい匂いが漂い始めると、その匂いにつられたのかリータがもぞもぞと動き出した。
「ん…、いい匂い…」
「リータさん、おはようございます。ファーストバードを焼いたものですけど食べますか?」
「食べる」
目を覚ましたリータにファーストバードを分け与え、みんなで昼食を取る。昼食後、私は気になっていたことをリータに尋ねた。
「あの、リータさん。腰のポーチってミミックですか?」
「これはマジックバッグ、ミミックじゃない」
「マジックバッグ?」
リータはマジックバッグについて説明する。マジックバッグとは、パーラの収納空間と同じように無限の容量を有し、時間経過の無い鞄らしい。鞄自体が特別製ではなく「マジックバッグの原石」というものがあり、それを鞄に入れることでどんな鞄でもマジックバッグになるのだとか。
「鞄は痛むから壊れる前に次の鞄にしないとダメ」
「私の鞄はミミックなんですけど、たくさん入って時間経過もないんです」
「ミミックを鞄代わりにしてるのは多分レイアだけ」
「そうですよね…」
「うん。レイア、寝てる間の警戒とご飯ありがと」
リータはそういうと、無表情な顔が少しだけ笑って見えた。ボガートに言われた通り、リータが落ち着いたところでギルドに向かう。ギルドに到着するとあやかが私たちを出迎えてくれた。
「リータさん、レイアさん、おかえりなさい。ギルドマスターがお待ちですのでこのままどうぞ」
あやかに促されるままギルドマスターの部屋へ向かうと、ボガートが待っていた。
「来たか、二人とも座れ」
「うん」
「はい」
「さて、レイア。今日の模擬戦を見て、お前をギルドマスター権限でD級に上げる」
「え!?」
「B級かA級でもいいと思う」
「B級以上は条件があるからな。俺の権限じゃどうにもならん」
突然の昇級に目を丸くしている私の前で、勝手に話が進んでいった。私は二人の話を遮るように口を開く。
「あの、なんでD級に上がったんですか?E級飛ばしてますよね?」
「レイアの使役してるモンスターの実力を確認したからだ。本当なら俺の権限で上げられる上限のC級まで上げてやりたかったが、まずはD級までにして新しい依頼で経験を積ませてやった方がいい、ってあやかさんが言ってな」
「なら仕方ない」
「D級からはさらに依頼の幅が広がる。あとは依頼なしで素材の買取も可能になるぞ。国境を越えるのもD級であればなにも言われずに通れるだろう。まあ希少なビーストテイマーってことで止められる可能性はあるかもな!」
──なんか色々言われてちゃんと理解できなかったなぁ。あやかさんが私の昇級に関わってるならD級になったことを報告して色々説明してもらおう。
「話は以上だ。レイアは帰りにあやかさんのところへ行って新しいギルドカードを受け取れ」
ボガートの言葉に私たちとリータは部屋を後にし、掲示板のところまで歩き、リータと別れる。
「今日は疲れたから帰る」
「はい」
「また模擬戦して欲しい」
「え!?」
私たちはリータと別れ、あやかのところへ向かう。新しいギルドカードとD級についての説明をしてもらうためだ。受付で冒険者の相手を終えたあやかに、私は声をかける。
「あやかさん、昇級したみたいなんですけど…」
「はい。ギルドマスター権限でD級に昇級させると聞いています。おめでとうございます。こちらが新しいギルドカードです。今までのギルドカードをいただけますか?」
私はパーラにギルドカードを取り出してもらう。今までのギルドカードと新しいギルドカードを交換すると、改めてあやかは私を称賛する。
「レイアさん、おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「ピー!」
「ところであやかさん、D級になるとなにができるようになるんですか?さっきざっくりと説明してもらったんですけど」
「では、改めて説明いたします」
あやかはボガートの言った内容よりを詳細に説明をする。D級からは中級冒険者として周囲から見られること。ボガートの言った通り依頼の幅が広がる。例えば薬草採取であっても、今までよりも危険な場所にあるものを採取する依頼を受けることができるようになるという。そして、護衛依頼の受注も可能になる。しかしビーストテイマーである私が護衛依頼を受けても依頼主が首を縦に振る可能性は低いので、護衛依頼については無視していいらしい。
「モンスターから回収した素材は基本的にどんなものでも買い取りますが、需要と供給によって値段は毎日変わります。ただし、モンスターの肉だけは買取対象外となります」
「え?肉はダメなんですか?」
「はい、痛みやすいというのが一番の理由です。ただ、肉が買取対象のモンスターも存在します。ですがこの辺りには存在いたしません」
──お肉が買取対象のモンスター?おいしいのかなぁ?それともなにかに使えるのかなぁ?おいしいなら食べてみたいなぁ。
「D級の説明でわからないことはありましたか?」
「大丈夫です!…。あの、あやかさん。D級なら森に入っても大丈夫ですか?」
「ギルドマスターの権限とはいえ、D級に昇級するだけの実力を証明されたのでしょう?でしたら私からはなにも言うことはございません。ただ、山へ立ち入ることは許可できません。平原と森は境界がわかりやすいのですが、森と山は境界がわかりにくいので、十分に注意してください」
「はい!」
「この後は依頼を?」
「今日は帰ります!」
そう言って私はあやかと別れ、ギルドを後にする。ギルドを出て向かったのはフルーツを売っているお店とパン屋。パーラの収納で道中の食事を保存食にする必要がなくなったためだ。
「これからパーラに収納してもらう食料を買いに行きます!」
「おー!」
私の宣言に、ピーちゃんだけが元気よく片翼を上げて返事をした。フルーツを売っているお店でリンゴを複数買い、パーラに収納してもらう。そして、パン屋では焼きたてのパンをいくつか買う。時間経過無しならば、いつでも焼きたてのパンを食すことが可能だ。
──ほんとならスープを鍋ごと収納できたらなぁ。でも鍋ごとスープって買えるのかな?自分で作る?あ、でもパーラがいいっていうかなぁ。
買い物を終え、宿屋へと帰る。宿に戻った私は気になったことをパーラに聞く。
「パーラ」
「なによ?」
「スープを鍋ごと収納できる?」
「…」
「できないならいいんだけど」
「できるわよ!リンゴやパンならわかるけど、スープを鍋ごとっていうからびっくりしただけよ。それより、鞄から料理の入った鍋なんて出して大丈夫なの?」
「周りに人がいなければ大丈夫じゃないかな?」
「それならまあ大丈夫かもね」
「じゃあ明日は鍋とか食器を買いに行こうかなぁ」
「ぼくも食器欲しい!」
「私も欲しいです!」
「私の分も買いなさいよ」
翌日、ギルドに行く前に鍋や食器を買いに向かう。どのような物を買おうか悩みながら、お店へと向かった。
「うーん、どんなのがいいかなぁ」
「レイアが選んで!」
「私もレイアさんに選んでほしいです」
「わたくしに食事は不要ですので、食器も不要でございます」
「どんなのがあるのか楽しみね」
食器屋に到着し、様々な食器を見る。陶器製、金属製、木製。金属製にはさらに金属の種類によって違いがあるらしい。私にわかる違いは値段だけ。陶器製と一部の金属製が安く、次いで木製とその他の金属製の順に値段が上がる。デザインや色の種類が多いのは陶器製だったので陶器製から選ぶ。
──うーん、ピーちゃんとタマモは決まってるんだよね。緋色のお皿と紫のお皿にするとして、ハドックはやっぱり黒かなぁ。パーラって何色なんだろ、茶色?でもきれいなものを集めてるし、きれいなお皿?あ、これいい!
私が見つけたのは深めの中皿。白地で中心に色の付いた円があり、淵も同じ色で塗られている。このお皿には様々な色があり、赤、紫、黒は見つかった。私の色は何色にするか、そしてパーラの色をどうするか迷っているとパーラから声がかかる。
「レイア、そのお皿がいいわ」
「これ?」
パーラが選んだのは橙色のお皿。五枚のお皿とスプーン等をいくつか購入。私のお皿の色は緑色にした。その足で鍋を買いに向かう。
「鍋はどうしようかなぁ」
「あんまり大きくてもしょうがないんじゃない?」
「収納しにくいってこと?」
「使い勝手の話よ!私に収納できないものはないわ!」
──パーラって食器とか鍋とかに詳しいというかうるさい感じ?料理に興味あるのかなぁ?とりあえず、鍋は半寸胴でも大きいけどこれでいいかなぁ。あとは鍋以外の調理器具かなぁ。
必要なものを買い、パーラに収納してもらう。これで料理に必要なものは大体揃った。次に必要なものは食材と調味料だったが、私たちはギルドに向かうことにした。




