1-12.5:ボガート視点
「まったく、冒険者ってのは本当に問題児ばかりだな」
人間国フォーリの交易都市メイカルトにある冒険者ギルドでギルドマスターをしているボガートだ。俺も元冒険者だからわかるが、ギルドマスターになってそれをさらに実感してる。だが全員が問題児だからこそ、もはやなにも気にならない。冒険者だった頃の俺もギルドの連中にはずいぶん迷惑をかけたものだと、今更ながらに思う。
そんな問題児だらけの冒険者の中には、ごく稀にとんでもないバカが現れる。まさかそれが少女だとは思いもしなかったがな。
事の発端は大したことじゃなかった。ビーストテイマーという希少な職業で登録したと聞いた時は正直驚いた。いや、驚きよりもどう扱えばいいのかわからなかった。とりあえずギルドのマニュアル通りに対応して、あとは最古参のあやかさんに丸投げだ。俺も新人の頃はあの人に散々怒られたもんだ。
ある日、ビーストテイマーのレイアがF級に上がったと報告を受けた。コツコツ頑張っているようで、俺も純粋に頑張ってほしいと願っていた。
ところが問題は起きた。討伐した証拠品が丸焦げだったらしい。あやかさんが念のため俺のところへ持ってきたが、あれには絶句したな。かろうじて判別できるから依頼は達成扱いになったが、素人目にはなんのモンスターか判別できないレベルだ。
またある日、俺が仕事をしていると、いつもより笑顔に磨きがかかったあやかさんが袋を抱えてやってきた。話を聞くと、あの丸焦げレイアがファーストバードの羽根をきれいな状態で回収してきたらしい。袋を開けていくつかの羽根を確認したが、すごいもんだった。初級冒険者にしてはなかなか見どころがある。
ファーストバードの一件以来、丸焦げも減り、順調に依頼をこなしているらしい。そんな時、また問題が発生した。レイアが使役モンスターを増やしたのだ。ビーストテイマーだからそれ自体に問題はない。だが、まさか藤狐を仲間にするとはな。俺も知識としては知っていたが、実物を見たことなんてない。あやかさんの報告で気になることもあるので、レイアを呼び出すことにした。
藤狐は実に素晴らしい毛並みだった。希少種なだけある。正直、狼の話はどうでもよかった。いや、ギルドとしてできることはなにもない。念のため調査はしておいた方がいいと思い、うちのエースのリータに行ってもらった。
リータが調査から戻り、レイアを呼び出して調査結果を伝えた。今思えばこれがまずかったのかもしれない。
調査結果を伝えた翌日から、レイアはギルドに顔を見せなくなったらしい。冒険者だから数日帰ってこないのは問題ないと俺は思ったが、あやかさん曰く、レイアの場合は違うらしい。冒険者登録をして以来、毎日ギルドに顔を出していたそうだ。唯一顔を見せなかった日があったようだが、それはあやかさんが把握していた。
つまり、今回は誰も行方を知らない。「冒険者はすべて自己責任だ」と新人だった頃によく言われたもんだ。強いモンスターと戦って野垂れ死んでも、冒険者なら仕方ない。だが、レイアは戻ってきた。とんでもないやつを連れてな。
翌朝、いつものように仕事をしていると冒険者がギルドに駆け込んできて「黒い鎧がここに向かってる」と叫んだらしい。俺はリータから報告を受けた古城跡の黒い鎧を思い出した。まずい予感が頭をよぎった俺はギルドをあやかさんに任せ、西門に向かった。
西門に到着すると、すでに野次馬や門番、それに守備隊まで集まっていた。当然のようにリータがいたので話を聞いたが、なにも知らない様子だった。しばらくして遠くの方に、黒く大きな人影と小さな人影が見えた。なんとなく、見覚えがあるようなないような気がしていたらリータが口を開いた。
「あれはレイア」
「おいおい…」
リータは遠くの人影へと走っていき、なにやら話をしてこちらへ戻ってきた。どうやらレイアが例の黒い鎧を仲間にしたらしいと聞き、俺はリータと一緒にレイアの元へ向かった。
レイアにこれまでの経緯を説明させるが、情報が多すぎた。言いたいことや話したいことは山のようにあったが、まずはこの騒動をなんとかするのが先決だった。俺はレイアからギルドカードを預かり、使役モンスターの登録をするため、ギルドへ戻ることにした。
西門に集まった人垣は俺とリータでなんとかしたが、それでもまだ残っている連中はいる。ひとまず俺はギルドに戻り、あやかさんにレイアのギルドカードを渡した。
「ギルドマスター、これはレイアさんのカードですがどちらで?」
「レイアは西門まで戻ってきてます。使役モンスターが増えたので登録のため、一時的に預かってきたというわけです」
「では、私がレイアさんまで届けます。よろしいですね?」
「…」
俺は無言で頷くしかなかった。あやかさんの肩がわずかに震えていた。いつも冷静なあやかさんが、だ。レイアがあやかさんのお気に入りなのはなんとなくわかっていた。そして俺がレイアを叱らないようにしようと心に決めたのはこの時だ。
翌日、レイアが部屋までやってきて、リータと一緒に話を聞く。結果的にモンスター同士の縄張り争いが過熱しただけだと判断した。よくあることが近場で起きただけだ。
「よし、とりあえず今日のところはこれでいい。あとは依頼をこなすなり、今まで通りに活動して構わんが、問題を起こすなよ。リータも行っていいぞ」
「ギルドマスター、話がある」
レイアの退室を確認した俺はリータに尋ねたが、ここでまた問題発生だ。
「どうした?」
「レイアとの模擬戦を許可してほしい」
「あの鎧か?」
「戦ってみたい」
「俺も立ち会っていいか?」
「うん」
ハドックと呼ばれる黒い鎧の実力は確かめておいた方がいいと思い、俺は模擬戦に立ち会うことにした。
いやー、凄まじい模擬戦だった。普段の戦い方とは違う全力のリータを潰すとはな。ハドックも最後だけは力を込めたように見えたが、それ抜きでもA級はあるな。そこから全力を出せばS級に匹敵するかもしれん。まったく、レイアはとんでもないやつを仲間にしたもんだ。これからどんなやつを仲間にするのか楽しみだが、問題だけは起こさないでほしいもんだな。
「さて、レイアの昇級手続きでもするか」




