1-9:パーラ
私は黒い鎧に尋ねる。周囲には先ほど倒した鎧のアンデッドが転がっていた。「アンデッドは倒してもそのうち復活する」とボガートは言っていたが、どれくらいの時間で復活するのかは不明。
「それでしたら城内は安全でございます。今まで何人たりとも侵入を許しておりません」
「でもアンデッド…、あなたみたいな鎧や火の玉がいるって聞いたけど、大丈夫なの?」
「この古城跡に存在するアンデッドは、すべてわたくしの管轄下にありますのでご心配には及びません」
「じゃあ中に入ってみようかな」
私たちは歩き出す。ピーちゃんを頭上に乗せ、タマモを腕の中に抱えて、先頭を行く黒い鎧についていく。黒い鎧は城の大きな入り口を開けると私たちを中へと誘う。
「どうぞ、ご主人様」
「え、あ、ありがとう…」
私たちが中に入ると黒い鎧は扉を閉める。そして私たちの前へ進み出ると、誰かに話しかけるように言った。
「この御方が我らの新たな主となった!皆、一切の危害を加えないよう頼む!」
黒い鎧の言葉が終わると、ガシャン、ガシャンと足音が聞こえるのと同時に、火の玉がゆらゆらと集まってくる。
「これが火の玉…。モンスターなのかな?」
「火の玉がいっぱい!」
「敵意はないように感じます」
私たちが珍しいものを見るように火の玉を見ていると、多くの錆びた鎧が集まり、その場に跪いた。
「ご主人様、現在ここにいるアンデッドでこの城を守っております」
「は、はい。えーっと、新しい主?になったレイアと言います。私の頭の上にいるのがピーちゃんで、この子がタマモです。みなさんよろしくお願いします」
「よろしく!」
「よろしくお願いします」
──とりあえず挨拶してみたけどこれでいいのかなぁ?いきなり主になったと言われても実感ないんだけどなぁ。
「それではお部屋へご案内いたします。城自体が崩れていますので、きれいな部屋というわけにはいきませんが」
黒い鎧がそう言うと、跪いていた鎧たちが一斉に立ち上がり、道を作るように左右に避け、また跪く。火の玉も同じように空中に浮いたまま左右に別れる。黒い鎧はその道を進み、食堂であったと思われる大きめの部屋に案内された。
「二階以上は危険なため、一階のこのようなお部屋で申し訳ございません」
「全然大丈夫だよ。広いし、想像してたよりずっときれい」
──きれいと言っても草や苔が生えてないだけでボロボロではあるんだけど…。とりあえず布を敷いてそこに座ろうかなぁ。
私はタマモを一度降ろし、鞄から布を取り出して床に敷く。タマモと一緒に布の上に腰を下ろすと、黒い鎧は私たちの前に跪いた。休むための場所を整えた私は休憩しつつ、黒い鎧から話を聞くことにした。
「じゃあ質問していい?」
「なんなりと」
「とりあえず、あなたの名前は?名前がないと不便と言うか…」
「わたくしに名はありません」
「そうだよね…」
「レイアが名前を付ける!」
「レイアさんは私にも名前をくれました!」
「では、ご主人様。わたくしに名をお与えください」
「うーん…。じゃあ『ハドック』で」
「それでは皆様、以後、わたくしのことはハドックとお呼びください」
「よろしく!」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします」
名前が決まったところで、聞きたいことを聞いていく。ここに鎧のアンデッドはいたが、ハドックのように黒い鎧は今まで見たことがなかったこと。そして、なぜ狼と戦ったのか。それにハドックは答える。
「わたくしは城の地下で眠っていました。いえ、正確に申せば我々アンデッドは眠りません。他のアンデッドはわかりませんが、我々のような鎧をまとったアンデッドは魔力で動きます。その魔力を消費しないために動かない、というのが正確でしょう」
「魔力がなくなるとどうなるの?」
「その場で動きを停止し、一定の魔力が回復するまで動かなくなります」
ハドックは続ける。今この時も魔力を消費するが、戦闘のような大きな動きや魔法を使わない限り、魔力の回復量が消費を上回るので簡単には枯渇しないのだそうだ。仮に完全に動きが停止するようなことになっても、少し時間が経てば動く程度に魔力は回復するという。
「狼が襲撃してきたという報告を受け、わたくしは外へ参りました。狼が襲撃をしてくるのは日常でしたが、今回は数が多く、手が足りないということでした。わたくしが狼を数体倒すと群れは怯み、去っていきました。しかし、またあの数が来ることを考え、わたくしも城の警備にあたりました」
──リータさんがハドックを見たのは警備途中だったのかなぁ。
「向こうから手を出してこない限り、こちらからなにかすることはありません。基本的には睨み合いになり、睨み合いと戦闘を繰り返すことになります。狼はこちらを倒しきるだけの戦力を整え、襲撃を仕掛けてきたところで、今回わたくしが表に出ることに」
「狼はそこでハドックを初めて見て、戦ったけど歯が立たないから川を渡った、ってところかなぁ」
「川を渡ったかどうかはわかりませんが、あれ以来、狼をこの辺りで見かけなくなったのは確かです」
森の中とはいえ暗くなり、日が落ちてきたのがわかる。森の中の古城跡ではあるものの、襲ってくるモンスターはおらず、城の中は一夜を過ごすにはうってつけの場所だった。
「日が落ちるけど、ここで一泊しても大丈夫?」
「どうぞおくつろぎください」
「じゃあここで夜を過ごそっか」
「うん!」
「はい」
私たちは保存食で夕食を済ませ、床に就く。見張りを立てるか話し合ったが、ハドックが自らを含めた鎧たちで警備をするということになったので、少し不安ではあったが三人で寝ることに。翌朝、私が目覚めたことに気づいたハドックはその場に跪く。
「ご主人様、おはようございます」
「おはよぉ…、ございますぅ…」
「おはよぉ…」
「おはようございます」
簡単に朝食を済ませ、今日の予定を決める。
「今日はどうする?戻る?」
「もっとお城見たい!」
「少し興味があります」
「じゃあお城の探索をしよう!」
「ご案内できる場所はそれほどありませんが、よろしいですか?」
「二階は行けないみたいだし、一階と地下?」
「そうでございます」
私たちは部屋を出て、ハドックの案内に従って歩く。城内にはところどころに鎧が立っており、火の玉も城内の警備をするかのように至る所で浮いていた。
ハドックに一階を案内してもらったものの、半分程度はどこかしら崩れており、私たちが一晩過ごした部屋がどれだけ綺麗な状態で残っていたのかがよくわかる。そしてそのまま地下への階段を下りていく。途中、ハドックに言われ、複数の火の玉が地下へとついてきた。どうやら明かり代わりのようだった。
「火の玉を明かり代わりにするんだね」
「我々は明かりがなくとも問題ありませんが、ご主人様方には必要でございましょう」
「光魔法で辺りを照らすぐらいであればできます」
「ぼくも炎で明るくできる!」
「ピーちゃんのはダメ。タマモは光の玉みたいなのを作るの?」
「はい。火の玉と同じような光の玉を作って照らします」
「できれば光魔法はご遠慮いただければと。我々アンデッドの弱点は光魔法なのです。攻撃魔法ではありませんが、普段より魔力を消耗するかと」
「わかりました」
──アンデッドの弱点って光魔法なんだぁ。ということは、タマモの光線だったらハドックを倒せてたのかなぁ?
地下へ到着すると、地下を警備していた鎧たちが跪く。地下は地上と違って崩れているところはなく、形を保っているように見える。地下にあるほとんどの部屋は倉庫として使用されていたようだった。
「当たり前だけどなにもないね」
「でも面白い!」
「ピーちゃんが面白いって言うならいいけど。って、あ、あれ?」
ピーちゃんと会話をしていたその時、胸のアザが淡く光を発する。
「ご主人様、その光は一体…?」
「えっと、この辺りにモンスターがいるみたいなんだけど」
「あり得ません。地下への道は我々が入ってきた階段のみ。そして地下を警備する者もおります」
「うーん、まだ地下で行ってない部屋ってある?」
「宝物庫がございます。しかし宝物庫も今までと同じようになにもございませんが…」
「とりあえず行ってみよっか」
ハドックとの会話を終え、宝物庫へと進む。宝物庫も今までの倉庫と同じように、何もない空間が広がっていた。
「ここも一緒だね」
「レイア、あれは?」
「あれって、ただのタンスじゃない?他の部屋にもあったけど。でもこのタンス、今までのよりきれい?」
「私も違和感を感じます」
「皆様、お下がりください。あれはもしや…」
ハドックと火の玉たちが私たちとタンスを遮るように間に入った時、私は光に包まれる。光の中には先ほどのタンスと一緒だった。
「え、やっぱりこのタンスってモンスターなの?」
「なんなのこれ!?」
「喋った…。そうやって喋るんだ…」
「ちょっとあなた、どうなってるのか説明しなさい!」
光が収まると、タンスの扉がぱかぱかと開閉を繰り返していた。
「ちょっと、今のはなんなの?」
「えっと、あなたが私の仲間になったんだけど…」
「そんなの聞いてないんだけど」
「いつも突然だからね」
「私はここを動かないわよ。外は危険がいっぱいなんだから」
「そういうわけにはいかない。ミミックであると確定した今、ご主人様のために働くか、ここで倒されるかのどちらかだ」
「なんでそうなるのよ!」
「ミミック?」
私の疑問にハドックはミミックについて説明する。ミミックとは、壺やタンス、宝箱といったものに擬態し、近付いてきた人間が油断したところを襲うモンスターだそうだ。鋭い牙で獲物に襲い掛かり、そのまま丸呑みする個体が多いという。しかし、このミミックには牙らしきものは見当たらない。
「私をそんな野蛮なのと一緒にしないでもらえる?私は誰でも襲うわけじゃないのよ。高価なものを持ってたら襲うけど」
タンスの姿をしたミミックはぱかぱかと扉を開閉させながら続けた。このミミックが言うには、基本的に人は襲わないそうだ。お金や宝石を集めるのが趣味でこの城に忍び込んだ。ところが城には宝がなく、脱出の機会をうかがっていたという。
「侵入したけどここにはなにもなかったわ。それなのにここのアンデッドは誰も気がつかないし。まあ居心地がよかったからここに留まってただけよ」
「それで答えは出たのか?ご主人様の仲間となり仕えるか、ここで倒されるか」
ハドックはタンスに問いかける。ミミックは少し黙り込むと、今度は私に尋ねてきた。
「あなたは何者?」
「私は冒険者をしてるの」
「冒険者ね。だったら旅のどこかで私のコレクションになりそうなものに出会えるかもしれないわね。倒されるのは嫌だからあなたについていくわ」
「え、そんなにあっさりでいいの?」
「あなたについていけばコレクションが増えるかもしれないし。それにあなたが言ったのよ?『仲間になった』って」
「あ、そうだったね。それで名前って…、ないよね?」
「ないわね。あなたがつけてくれるの?」
「そうなるよね…。じゃあ『パーラ』で!」
「悪くないわね」
「よろしくね。私はレイア、頭の上にいるのがピーちゃんで、この子がタマモ、それでこの黒い鎧がハドックね」
「よろしく!」
「よろしくお願いします」
「よろしく頼む。しかしご主人様に不利益をもたらせば、わかっているな」
「わかってるわよ!みんな私より強そうだし…」
こうしてタンス…、ではなく、ミミックのパーラが仲間になった。地下の探索を終え、私たちは地上へ戻ることにした。
「ところでパーラって動けるの?」
「動けるわよ」
そう言うと、パーラはタンスから黒い触手のようなものを四本出し、器用に動く。その姿を見た私たちは驚いたが、一番驚いていたのはハドックだった。
「なんと!ミミックはそのように動くとは!」
「動くところを誰かに見られるなんて初めてかもね」
一階へ戻り、私たちの冒険についてくるのかハドックに尋ねる。
「ところでハドック、ちゃんと聞いてなかったけど、私たちの冒険についてくるってことでいいんだよね?」
「もちろんでございます。わたくしはご主人様の臣下ですので」
「でも城の守りは大丈夫?狼がまた来るかもしれないし」
「ご心配には及びません。仮にまた狼の襲撃があったとしても、皆が力を合わせれば乗り越えられるでしょう」
ハドックは部下のアンデッドを信頼しているようだった。その言葉を聞いて少し安心した私は、ピーちゃんとタマモ、そして新たに仲間となったパーラを伴い、ハドックに先導されながら城の入り口に向かう。
城の入り口を出ると、庭の通路に錆びた鎧たちが道の左右に跪いていた。火の玉も鎧たちと同じように左右に浮いている。私たちが門まで進むとハドックが振り返り、城を守る者全員に向けて言葉を放つ。
「皆、この城を頼む!」
その言葉に呼応するかのように鎧たちは一斉に立ち上がり、ハドックの方を向く。そこには様々な感情が入り混じった、特別な空気が漂っていた。
「ご主人様、出発いたしましょう」
「うん、じゃあみんなまたね!」
「またね!」
「失礼します」
「もう忍び込まないわよー」
鎧たちと火の玉に見送られ、私たちは古城跡を去る。新しい仲間が二人も増え、古城での不思議な体験を胸に、私たちはメイカルトへと歩み始めた。




