あやかとたいちの結婚式
青いフェニックス事件の直後、私は直接見たわけではありませんが、大ごとだったとあちこちで耳にします。事件のあった魔法国は大変なようで、アルカディアではギルドマスターが二人体制という異例の事態も起きました。
アクアハーバーのギルドマスターだったキュラスさんがアルカディアへ。メイカルトのギルドマスターだったボガートさんはアクアハーバーへ。私はボガートさんから頼まれて、メイカルトのギルドマスターを引き受けました。
私はボガートさんよりも長くメイカルトのギルドで働いていました。そしていきなりギルドをやめ、鬼人国に帰ってしまいました。自分勝手な行為だったと思っています。ですが、たいちの生存よりも嬉しいことはありませんでした。
私はボガートさんから手紙を受け取り、悩みました。そして現在、鬼福の里のギルドマスターの部屋で、私、たいち、かえで、ふうかの四人で会議を行っています。
「あやか、どうするんだ?」
「いきなりギルドマスターと言われても…」
「あやかならできるでしょ?私より優秀なんだから」
「ふうかが思うほど優秀では…」
「エースが欲しいところだが、リータって冒険者はアクアハーバーに貸し出し中なんだろ?」
「エースに最適な人材ならいるにはいますが…」
族長は悩みながら私たち三人に言いましたが、彼女にだけは頼むことはできません。エースは国に縛られるのです。それは冒険者の自由を奪うことになります。それに、彼女にはまだ使命が残っています。この大陸以外の祭壇にも炎を灯す必要があるため、将来的にはこの大陸を離れる可能性があります。
私とたいちはメイカルトに向かいました。そしてボガートさんから引き継ぎとエースについての話し合いを行いますが、なぜかその場にレイアさんたちがいました。
「引き継ぎは以上です。エースについてはレイアに聞いてください」
「ボガートさん、それはどういうことですか?」
「ギルドマスターから言われたんです。新しいギルドマスターが来るからここのエースになってほしいって」
ボガートさんが勝手にレイアさんに話をしていたようでした。しかし、話には続きがありました。あとから聞いた話ですが、レイアさんはエースになるのを拒みました。ですがボガートさんから「新しいギルドマスターに会ってから考えてほしい」と言われたそうです。
今日ここにいるのは新しいギルドマスターに会うため。そしてエースになるかどうかを決めるため。私がギルドマスターを務めるギルドのエースがレイアさんであれば、どれだけ心強いことか。どのギルドも喉から手が出るほどの人材に違いありません。ですが、「エースにはなるな」と言った過去があります。私はレイアさんにエースを頼める立場ではありません。
「レイアちゃん、エースになってもいいのか?色々と制約があるが…」
「でもギルドマスター次第で外に出れるって聞きました。それに、あやかさんなら大丈夫かなって思ってます」
「あやかさんならよくて、俺じゃ不満ってことか?」
「そ、そうじゃなくて…」
私は覚悟を決めなければなりません。いずれは里に戻り、族長を継ぐ必要がありますが、今は関係ありません。本来であれば族長になる前にはギルドマスターを務める必要があったため、私にはちょうどよい機会でもありました。私は頭を下げ、レイアさんにエースを頼み込みました。
「レイアさん、メイカルトのエースになって私に力を貸してください」
「はい!」
それからの二年間はあっという間でした。勝手知ったるギルドでしたが、青いフェニックスや青いモンスターのあとでは様々な問題が山積みでした。しかし、アルカディアやアクアハーバーはメイカルト以上に忙しいとレイアさんが言っていました。
そして今日から一週間ほど、私とたいちは里に帰ります。魔法国も落ち着き、キュラスさんはアクアハーバーに戻り、ボガートさんもメイカルトに戻りましたがギルドマスターには戻りませんでした。年齢も年齢なので、今は後進の育成ということで初級冒険者の相手をしています。ただ、この一週間だけはボガートさんに復帰してもらいました。
私とたいちはレイアさんに鬼福の里まで運んでもらいました。私たちを運び終えると、レイアさんたちはすぐさま飛び去って行きます。
「あやかさんがいる間はここに帰ってきます!」
「お待ちしています」
レイアさんたちが去ったあとは福々堂に向かいます。福々堂に入るなり、ホムラさんは不満げに言いました。
「レイアはどうしたんだい?」
「依頼があるそうです」
「はぁ…。まあいいか、主役はあんたたちだからね」
日が落ち始めると、レイアさんたちは戻ってきました。翌日、私たちは北にある族長の家までレイアさんに運んでもらいます。その後、レイアさんたちはまた飛び去って行きました。携帯型のディメンジョンレターは考えものです。
今回、福々堂のみなさんはお店を放り出して私たちの準備を手伝います。とても大がかりになってしまいましたが、これは族長からの頼みであり、レイアさんも絡んでいるそうです。
レイアさんたちは日が落ちる頃に戻りましたが、そこからはレイアさんの準備が始まりました。魔法で身ぐるみをはがされ、新しくあつらえた着物を着させられていました。
「あの…、私はどうでもいいんですけど…」
レイアさんは不満そうにしていましたが、みなさんは楽しそうにしていました。翌日、多くの鬼人族が族長の家に集まり、私とたいちの結婚式に参加しました。漁港に住む鬼人族のほとんどが参加し、里からはふうかを始めとした鬼人族が数十名。族長の家が大きいのはこのためでもあり、前日のうちに全員が族長の家、もしくは漁港で働く知り合いの家に泊まっていました。
結婚式は滞りなく終わりましたが、とても疲れました。私は真っ白な衣装を身にまとい、たいちは黒と灰色の衣装でした。式が始まる直前にお互いの衣装を確認しましたが、私もたいちもお互いの変わりように笑ってしまいました。族長とふうか、そしてレイアさんは涙を流しながら喜んでいましたね。
式はレイアさんたちが寝泊まりしていたとても広い部屋で行われ、そこは宴会場に変わりました。レイアさんはお酒が飲めないのでジュースや料理を食べていましたが、そこにはタコ料理がずらりと並んでいました。あとで聞いた話によると、パーラさんが大事にしていたオクトパスリーダーの触手を、レイアさんが頭を下げて私たちの結婚式に出してくれたそうです。どれも非常においしかったです。ピーちゃんは頬がぱんぱんになっていましたね。
宴会が進むにつれて、族長がレイアさんたちを別の場所で眠るように誘導しました。屋敷の裏手にある木に不思議な魔法具をかけ、その中で眠るそうです。
翌日は鬼人族が帰っていきます。その中にはふうかの姿もありました。人数が多いので帰りの道中は心配していません。レイアさんは一足先に福々堂のみなさんを里に運び、そのまま日が落ちるまで帰ってきませんでした。
帰ってきたレイアさんから、私とたいちは大きな箱を受け取りました。箱の中に入っていたのは食器類でした。
「レイアさん、これは?」
「結婚のお祝いです!」
「レイアちゃん、これはドワーフ製か?」
「そうです。お世話になってるドワーフのおばあさんがいて、普段は調理器具を作ってもらうんですけど、お願いして作ってもらいました」
ドワーフ製は通常のものより数倍の値段がします。食器類はわかりませんが、武器の性能はその冒険者の強さに直結するため、多くの冒険者はドワーフ製を使用します。そんな高価な食器類を私たちに渡してきたのです。
私たちは感謝を述べ、食器類を受け取りました。ここで断っては失礼にあたります。結婚式後は族長の家でゆっくりし、レイアさんに里まで運んでもらい、式に参加できなかった鬼人族からもお祝いをいただきました。
一週間の結婚式休暇はあっという間に終わり、私たちはレイアさんにメイカルトまで運んでもらいました。そしてギルドに戻り、ボガートさんから報告を受け、またいつも通りの生活が始まります。
私とたいちは、私が以前住んでいた部屋に二人で住んでいます。やや狭いですが、一日の半分ほどはギルドで過ごすので、寝泊まりできれば問題ありません。今は可能な限り、この部屋で朝食を取るようにしています。レイアさんからいただいた食器を使って。
「この食器はいつ見てもいいな」
「使うのはもったいないけど、使わないとレイアさんが怒るから」
「そういえば、今日のレイアちゃんはお姫様の迎えだったか?」
「え?それは明日じゃない?」
「…」
「…」
私たちは朝食を手早く済ませ、急いでギルドに向かうのでした。
「アメリの迎えは来週ですよ?」




