アメリと鬼人国
今日は待ちに待ったレイアさんたちとのお出かけの日です。約一年間ほど魔法学園が休校となり、暇を持て余していたところにレイアさんが提案してくれたのです。
「あ、そうだ。私も時間が取れそうだから一緒に鬼人国に行かない?」
その言葉がどれだけ嬉しかったことか。その日のうちにお父様とお母様に話をつけ、一週間ほど時間をいただきました。そして出発の日。レイアさんはいつものように空から現れ、城の近くに降り立ちました。そこへ、アクアハーバーのギルドマスターとメイカルトから応援に来ているエースの方が、レイアさんのところへ向かいます。
「レイア、頼むぞ。問題は起こすなよ」
「お姫様に罰金はダメ」
「は、はい…」
話が終わると、レイアさんは私を含めて空に上がりました。私は久しぶりの空の旅に恐怖を拭うことができず、レイアさんの腕にしがみついてしまいます。
「やっぱり怖い?」
「はい…」
しかし怖がっているのも束の間。あっという間にいくつかの関所を越えて、鬼人国に到着してしまいました。食彩国、魔法国に続いて初めての国でしたが、外の景色はどこも同じようなものでした。
鬼福の里はアクアハーバーとは大違いの静けさでしたが、温かみを感じます。そして噂の福々堂。思ったより古い造りに見えましたが、鬼福の里にある建物すべてがそのような造りで統一されているようです。福々堂の中に入ると、六人の方に出迎えていただきました。
「あの、かえでさんはわかるんですけど、ミーティアさんはどうしてここに?」
「面白そうだから?」
「そ、そうですか…。アメリ、この二人はね…」
六人のうち、鬼人族の族長とエルフ族の族長がいることに私は気がつきませんでした。二人の族長に謝罪をし、お店の奥にある三つ並んだ扉のうち、真ん中の扉に入っていきます。そこにはとても広い部屋が広がっており、レイアさんたちはここで寝泊まりしているそうです。
「アメリもここでいいよね?」
「はい!」
その後、採寸のために寝室で服を脱ぐように言われました。私が服を脱いでいる間、レイアさんはホムラさんを部屋の端の方に呼んで、なにやら話をしていました。
「レイア、どうしたんだい?」
「私みたいに魔法で脱がさないんですか?」
「なに言ってんだい?あの子は王族だろ?そんな失礼なことできるわけないだろ」
「私はいいんですか?」
「レイアはいいんだよ」
私の採寸は、タマモさん、サクヤさん、ルルさんが行いました。採寸の後は昼食です。レイアさんから新しくできたお店に誘われましたが、レイアさんのお仲間には行かない方もいらっしゃいました。
「われはここで待つ」
「リオンもー」
「ハドックとアカマサは?」
「行きたいところですが、ここでお待ちいたします」
「同じく」
レイアさん、ピーちゃん、パーラさん、人の姿になっているタマモさんとノココさん。そしてホムラさんと二人の族長を加えてお店に向かいました。タマモさんとホムラさんはそわそわしているようなわくわくしているような雰囲気で、二人でなにかを話し合いながら先頭を歩いています。
お店は「きつね庵」という名前で、多くの人で賑わっていました。木製のテーブルとイスが並び、太いパスタのようなものを召し上がっています。私たちはお店の二階に案内されました。二階は個室になっており、基本的には族長専用だそうですが、すでにホムラさん専用になりつつあるそうです。個室にも同じようにテーブルとイスがあり、私はレイアさんとタマモさんに挟まれる形で席につきました。
「アメリは嫌いなものある?」
「特にありませんが、パスタのような料理なのですか?」
「パスタよりおいしいものです!」
タマモさんは金色の瞳をさらに輝かせて、私に訴えかけました。私はレイアさんやタマモさん、ホムラさんと同じものを。他のみなさまは各々好きなものにしたようです。
「これは、油揚げですか?」
「はい!」
料理を見て私が尋ねると、タマモさんは元気に返事をしました。黄金色のスープに浸かった白く太い麺。その上には大きな油揚げが一枚乗っています。湯気が立ち、海の香りが私を襲いました。そして別の大きなお皿には、甘揚げ握りが数多く並んでいます。
油揚げはタマモさんの好物だったと思いますが、まさかこのような進化を遂げているとは思いませんでした。他の方は油揚げではなく、お肉やお野菜など、別のものが乗っているものにしたようです。
昼食後、私は冒険者ギルドへ行き、城に手紙を出し、福々堂に戻るとみなさんはお仕事へ。私はタマモさんとパーラさんから着物の着用の仕方を教えていただきます。その間、レイアさんたちは寝室の手前の部屋にある大きなテーブルで、手紙に頭を悩ませていました。
私が鬼福の里に来てから五日が経ちました。今日は着物が完成する日です。前日までで微調整も終わり、色の確認を終わっています。
「じゃあ着替えようかね」
「お願いいたします!」
着物の色は水色、帯は私の髪色に近いアイボリー、そして瞳と同じ青の帯紐。草履も用意していただきました。着替えた私たちは鬼福の里に繰り出しました。私、レイアさん、タマモさん、ノココさんの四人で着物を着て、その後ろからレイアさんのお仲間がついてきます。
私たちは里の人たちに見せびらかすように練り歩き、最後は緋炎の祭壇の前までやってきました。城の祭壇にはまだ炎が灯っていません。すべての修復が終わり、祭壇も元通りになりましたが、レイアさんが忙しいので炎を灯す時間がないのです。私たちは炎と別れ、福々堂に戻りました。
私が鬼福の里に来てから一週間が経ってしまいました。非常に楽しい日々だったことに違いありません。私は最後の朝食をいただき、レイアさんたちとギルドで手紙を出しました。そして福々堂に戻り、ホムラさんから着物を受け取りました。
「お値段は?」
「金はいいよ」
「そういうわけにはいきません!素晴らしい着物を二着、それもこんなにも早く完成させてもらいました!ですから…」
「もう一つあるんだけど?」
ルルさんはそう言いながら、青いケープを取り出しました。私がフード付きの青いマントを羽織っていたので、それを参考に作ったそうです。
「レイアは無茶を言う」
「ほんとですねぇ」
「それはどういうことでしょうか?」
フォルスさんとサクヤさんが言うには、私がここに来てから、レイアさんがケープを作るようにおっしゃったそうです。それも私が帰る一週間の間に。私でも無茶なお願いだと思いますが、レイアさんはできると信じていたそうです。
「アメリは魔法学園に行くんでしょ?だから着物はあんまり着れないかなと思って。ケープだったらなんとかなるかなって思ったんだけど…」
「毎日着ます!」
私は涙ぐみながら、レイアさんに宣言しました。二着の着物とフード付きの青いマントをマジックバッグに入れ、新しい青いケープを羽織って空に上がりました。不思議と帰りは怖くありませんでした。空の旅は短く、あっという間にアクアハーバーに到着してしまいます。城の前には守備隊が待っており、そこから少し離れた場所にノココさんは降り立ちました。
「レイアさん、この度はわがままを聞いていただき、ありがとうございました」
「私も楽しかったよ」
「ぼくも!」
私は守備隊が来るまでのわずかな時間にレイアさんたちと言葉を交わし、頭を下げて感謝を述べました。
「あ、アメリって明日はなにか用事ある?」
「ないと思いますが…」
「じゃあ…」
レイアさんが不思議なことを私に伝え終わると、守備隊がやってきました。これで私の冒険は終わりになるはずでしたが、冒険の続きはその日の深夜でした。私は青いケープを羽織って眠気を我慢しつつ、バルコニーから祭壇を眺めていました。漁港の活気が完全になくなった時、輝く緋色の光が暗闇に突然現れたのです。その光りはゆっくりと城の上に降りてきました。
「あれは!」
それはフェニックス、ピーちゃんでした。緋色と金色の輝きを放つ、とても大きなフェニックスでした。ピーちゃんは祭壇の真上、城よりも少し高い位置で停止すると背中からレイアさんが顔を出しました。下にいる守備隊もフェニックスに驚いていますが、下からではレイアさんの姿は見えないようです。
レイアさんは私を見つけると、小さく手を振ってくれました。その後、ピーちゃんは自分の羽根を祭壇へと落としました。羽根が祭壇に触れるとそこから炎が燃え盛り、ついに城の緋炎の祭壇にも炎が灯ったのです。その後、レイアさんはもう一度私に手を振ると、空高く飛び去ってしまいました。
去り際に言った言葉の意味がやっとわかりました。レイアさんは炎を灯すところを私に見せたかったのです。冒険の終わりに最高の贈り物をいただき、私は胸がいっぱいなまま眠りにつきました。
翌朝、私は祭壇の前に立っていました。鬼福の里にもありましたが、城に灯る炎を見たかったのです。炎は優しい温かさで、大きく燃え盛っていました。この炎はアクアハーバーから漁に出る船の目印でもあるそうです。いつか海側からこの炎を見たいところです。
「レイアさんにお礼の手紙を書かなくてはいけませんね」




