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7-5 慰問、疑問、訪問 その5

 2日間の東西2つのシュワーツ孤児院への慰問が終わり、その打ち上げをカンパニー・ミゥの本社で開催し、今回の事件は、一旦の終わりを見せたのだった。

 まあ、事件と言ったらいいのか、それともお金儲けと言った方がよいのかは、最後の最後で微妙になってしまったのではあったが。


 それでも、コロニー・シュワーツを立ち、エデンで悪漢?に襲われ、海で大騒ぎしながらBBQを楽しんだ。

 準備万端、コロニー・シュワーツへの帰路につくと、ギガスペースラインを通った先の亜空間で、戦闘機と戦闘艦の襲撃を受けた。

 命からがら撃退して、コロニーに帰還してみれば、宇宙公社交通局からの呼び出し。心身ともにボロボロのところ、翌日事情聴取。


 事情聴取では、相手の技師が非常に嫌味な対応をしてきて不快な思いもした。

 まあ、100%相手の非を認めさせることができたので、これはよしとしよう。


 そして、さらにその翌日から2日間、チャイによる怒涛の孤児院訪問を決行した。


 チャイの新曲は、あっという間にヒットチャートにランクインして、あれ以降、チャイは各テレビ局から、ひっきりなしに出演のオファーが来ていた。

 1か月後には、ミリオンヒットとなったのである。


 一方、問題だったSWAN号の武装問題に関しても、徹の開発した擬似表情筋システムと着せ替えプログラムで軽くその出費は回収することができた。

 今回も、徹の借金は減りはしなかったが、なんとか現状維持にはすることができたのだ。


 これだけみれば、まあある意味で大団円なのだろう。


 しかし、大きな問題が残っていた。


 それは、ミゥの感情の獲得に関する、周囲の対応である。


 確かに、ミゥは現時点で、『寂しい』『嬉しい』の2つの感情を取得していた。

 また、おぼろげながらではあるが、それ以外の感情の発露も感じられる状態である。


 しかしながら、人としての感情に向き合うための訓練は一切されていない状態でもあるのだ。

 もちろん、データとして持っている情報リソースから、ある程度は常識に沿った行動はするだろう。


 ただ、感情と理性のせめぎ合いといったものは起きない。0か1、そう、YesかNoかの2択しかしないだろう。

 場合によっては、おかしな判断をすることも考えられるのだ。


 チャイと伴って宇宙に飛び出したとき、ミゥは社の規定、公社の規定に自身の行動が反していることを情報として理解していた。

 しかしながら、


『チャイヲ助ケルコトハ正シイノダ』


 ミゥ自身が『嬉しい』と感じる感情を優先して、宇宙に飛び出すという答えを選んだのだ。

 今後も、こんな判断をしないとも限らない。


 前回はどうにかなったが、今回どうなるかわからない。


 例えば、徹が何か困っていたら、業務を放りだして、自身の主人である徹を手助けする方を優先しかねないのだ。

 人であれば、宅配の仕事を誰かに頼んだり、緊急の配達だけを終わらせてから手助けをするなどの行動をとるのかもしれないが、ミゥは『助ケル』と判断をしたら、まず迷わないだろう。


 良く言えば『純粋』であり、悪く言えば『独善的』なのだ。


 まあ、感情を得たと言っても、まだまだ先進的には子供なのである。


 これは、これからも業務にあたってもらうとすると、速やかに学んでもらわなければならない。


 そういう教育には徹は向いていない。

 玲華も論外だろう。


 舞にはそんな時間はないし、そもそも恋のライバルを鍛えるなんて、ぞっとしない考えだ。

 カレンに教えさせたら、絶対に乱暴な子に育ってしまう・・・。


 ここで、カンパニー・ミゥの人的資源の欠点が露見してしまったのだ。

 常識枠が舞しかいないということだ。


 いや、これは舞自身がそう思っているだけであって、周りから言わせれば、舞も常識枠からは激しくずれているということだろう。

 つまり、結果としては、この本社には常識枠がいないのだ・・・。


 とにかく、今はだましだまし業務を継続していくしかない。


 自分たちで出来ることは自分たちでやるしかないのだ。

 結局は、1日の業務時間内のミゥの教育に充てる時間を少し長くするところから対応することになったのだった。


 こうして、また1つの冒険が終わったのだった。


 ミゥは最近は、宅配業務が終わると、テラスの椅子の上に座って、写真を見るのを日課としていた。


 この時代に、どうやってこんな写真を印刷したのか不思議だったが、機械懐古主義の徹がいれば、簡単なことなのだろう。

 そんな機器を買っていいという許可を与えたつもりはないが、目の前に非常に古い写真の規格の2L版のプリントが広げられているところをみると、機械はあるのだろう。

 この前無料で配った、チャイのブロマイドですら立体ホログラムのプリントであったのに、まさにフィルムから焼いたようなレトロなプリント。


 ほとんどが、エデンの海のものだった。


 舞が、


「こんな写真いつとったのかしら?」


 そうミゥに尋ねると、


「私ノ左目ハ映像記憶ヲ保存スル機能ヲ有シテイマス」


 と丁寧に教えてくれた。

 そして、舞が机の上の写真を何気なく眺めていると・・・。


 その覗き込んだ写真は、画面いっぱいに相手の耳と側頭部が広がっていた。髪は黒く、眼鏡を掛けているのが見て取れた。

 髪がレンズのすぐ前でもさりと揺れ、下のほうには肩口の布が大きく写り込んでいる。

 背景はほとんど見えず、ただ柔らかな色の塊がぼやけているものだった。


 おかしな写真だった。あたかも、抱き合っている本人が、目の前の光景をそのまま写真にしたようであった。


 舞が、1枚の写真を注視しているのに気付いたミゥが、急いでその写真を手に取る。


「ちょっと・・・・。ミゥのその写真は・・・?」


 舞が慌てた感じでミゥに尋ねる。

 ミゥは、笑顔を浮かべながら小首を傾げると、


「内緒デス」


 と返事を返すのだった。


「えっ?ちょっとまって、それってとお・・・。」


 ミゥは、人差し指を立てて唇の前にあてて、


「ダカラ、秘密デス」


 そう言って、机の上の写真をささっと集めて、メンテナンスルームに戻っていくのだった。


 その背中には、ほんのわずかだが歩幅の乱れがあった。

 照れとも、誇らしさともつかない、小さな揺らぎが、そこにあった。


 舞は、呆けたようにミゥの後ろ姿を眺めながら、胸の奥で何かが小さく波立つのを感じていた。

 それが嫉妬なのか、驚きなのか、舞自身にも判断がつかなかった。


 ちょうど時間が夕方の帰宅時間に差し掛かり、赤い色に染まり始めた人工の夕焼けが、舞の背中を照らし、ウッドデッキには少し震える長い影が伸びていた。


 その影の先には、まだ誰も知らない次の物語が、そっと息を潜めていた。


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