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7-5 慰問、疑問、訪問 その4

 前回の、


『宇宙を越えて両親を探す、アンドロイドと孤児』


 というニュースから、それほど時間が経っているわけではなかった。

 また、チャイはエデンでアイドルとしても成功しており、アイドル業界でもかなり注目度が高かった。

 もちろん、天下の伊那笠財閥が全面的にバックアップしているのも、注目を浴びている原因の1つではあった。


 そして今日、また財閥は、その資金力とコネを使って、盛大にパレードを盛り上げようとしていた。


 ぶっちゃけていってしまえば、単なる1アイドルが、自分が卒院した孤児院に慰問で訪れるだけである。

 美談といえば美談ではあるが、沿道に観客が並んで、そのパレードを応援するほどのことではない。


 また、有名になったとはいえ、全宇宙を見れば、チャイよりも人気のあるアイドルたちはいくらでもいるだろう。


 全てはお膳立てなのである。


 舞は、まずお金をばら撒いた。

 各マスコミの一面記事の枠を買い取り、放送局のコマーシャル枠では、昨日の夜からしつこいまでに、このパレードの事が流れていた。

 また、朝のニュースでも、


『また、ミゥとチャイのコンビが美談をつくった!』


 といったような出来レースのような話でもちきりである。

 人は、派手な宣伝に弱い。


 テレビなどで、『美味しい』と紹介された店は、食べてもいないのに人たちからもいつのまにか支持されているものである。

 二番煎じも次々と出てくるのだ。その二番煎じが最初の店をより盛り上げるスパイスになるのである。


 ミゥとチャイの時も同じだった。

 実際に、人型アンドロイドと新人歌手のユニットまで登場しているぐらいである。


 ただし、所詮は二番煎じ。

 無許可で宇宙に飛び出し、両親を探すアンドロイドなんかいるわけないのだ。加えて、伊那笠財閥以上のスポンサーなんてそうそういるわけではない。

 結果は見ての通りだ。


 カンパニー・ミゥの本社の前には、奇跡の生還を遂げたミゥとチャイを一目見ようと、応援する観客と取材のカメラが押しかけている状態である。

 それを、財団が雇用した誘導班が、チャイのサイン入りブロマイドを配りながら、沿道をくまなく埋め尽くすように移動を促しているのだ。


 チャイたちの準備が終わったころには、その花道は完全に完成していた。


 満を持しての、ミゥとチャイが乗ったラッピングカーの登場である。

 大音量で新曲を流しながら、チャイが左の窓から右の窓へと行ったり来たりして手を振り、声援にこたえる。


 その瞬間、舞は遠くからその光景を見つめ、ほんの一瞬だけ目を細めた。

 沿道を埋め尽くす観客、跳ね上がるアクセス数、SNSのトレンド。

 すべてが自分の描いた『絵』の通りに動いている。

 胸の奥で、冷静な確信が静かに灯る。

 

『勝ちましたわね』


 舞の口元がわずかに上がった。


 ネットでは、ミゥの運転席の様子がリアルタイム映像で配信されている。

 アクセスカウンターは止まることを知らず、同時に新曲が入った本日リリースの音源の販売数もバンバン伸びていった。


 舞の高笑いが聞こえるようである。


 パレードの空気は、秋風に乗って熱を帯びていた。

 紙吹雪が舞い、子どもたちの歓声が波のように押し寄せる。

 ラッピングカーのスピーカーから流れる新曲が、街路樹の間を抜けて空へと広がっていく。

 チャイが手を振るたび、沿道の声援が一段と大きくなる。

 その光景は、まるで街全体がひとつのステージになったかのようだった。


 ミゥは運転席で淡々とハンドルを操作していたが、車体を揺らす歓声の振動に合わせて、胸部ユニットがわずかに温度を上げた。

 それが『嬉しい』という新しい感情に近いものだと、ミゥ自身はまだ理解していない。

 ただ、徹が褒めてくれたときに似た微かな反応が、内部で静かに灯っていた。


 孤児院までの道のりは、各所に一定時間止まってライブで歌う場所が設けられており、そこではマスコミがカメラを抱えて生放送をしているのだ。

 もし、運転席にいるのがミゥでなければ、緊張して運転どころではなかったかもしれない。

 しかし、ミゥはアンドロイドである。緊張という感情は持っていないし、もし仮にその感情を得たとしても、必要なときには無視するのも容易いだろう。


 すべてが追い風であった。


 ミゥとチャイは、無事に東シュワーツ孤児院に辿りつき、その庭に設けられた特設ステージで、新曲を含めて3曲ほど歌を歌った。


 ステージに立つ直前、チャイは深呼吸をした。

 目の前に広がる懐かしい庭、見知った友達たち、お世話になった、また迷惑を掛けっぱなしだった先生たちの笑顔。

 胸の奥がじんわりと熱くなる。

 

『帰ってきたんだ』


 その想いが、歌声に自然と力を与えていた。


 ついこの間まで一緒に生活していた少女が、成功して凱旋しているのだ。

 孤児院の先生たちも、子供たちも大興奮である。

 チャイは、夜また個人的に訪れることを約束していたのだった。


 次の日、チャイは、昨日とはルートが重ならないようにカレンが手配したルートで、西シュワーツ孤児院に向かうのだった。


 もちろん、それまでの道は、やはり多くの応援する住民であふれており、到着した西シュワーツ孤児院でも大歓迎を受けた。

 東シュワーツ孤児院にはミゥに会ったことがある子たちもいたが、西シュワーツ孤児院の子供たちは、間近でミゥを見るのは初めてである。

 翌日の西シュワーツ孤児院の慰問は、チャイだけではなく、ミゥも大歓迎を受けたのだった。


 こうして、ミゥはさらに一段高い認知度を得た。もちろん、チャイもアイドルの階段を、さらに3段ぐらい一気に駆けあがったのだった。

 実際に、この日を境に1か月も経たないうちに、音源はミリオンヒットを達成し、チャイは史上最速のミリオンアーティストとなったのである。

 地球だけに人が住んでいた時と比べると、宇宙に広がることによって、人類の数は既に120億人を超えていた。


 100万という数字は、以前よりも増えた人口が大きな母体となったわけではあったが、それでも100万ダウンロードは簡単に達成できるものではない。

 それだけ、今回のパレードは大成功だったと言えるだろう。


 この裏で、舞も積極的に動いていた。

 何を動いていたかって?


 それは、もちろんお金儲けだ。


 ミゥの擬似表情筋の技術は、ノクフェラリオン財閥に極めて高い金額で技術提供することになった。

 さらに、徹が開発した、洋服やアクセサリーのバーチャルモデルを利用した着せ替えプログラムは、大手シッピングサイトで一番の人気となっており、その提供元である伊那笠財閥は、そのモジュールの販売と更新だけで大きな利益をあげていた。


 音源の販売益、グッズの販売益、宇宙宅配便カンパニー・ミゥ支社の売り上げの5倍増、さらに擬似表情筋の医療技術のパテントと着せ替えプログラム。

 忘れているかもしれないが、宇宙宅配便カンパニー・ミゥの本社は、ミゥを入れて5人の零細企業だが、支社は渡辺がCEOを務め、社員数13000人を超える大企業である。その企業規模で、手が回らないほどに注文が集中していたのだ。

 徹がSWAN号に不正に搭載した武器類の費用など霞むような利益を、あっというまに回収したのだった。


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