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7-5 慰問、疑問、訪問 その3

 朝のカンパニー・ミゥのオフィスでは、さながらコントのようなやり取りが展開されていたのだが、それでも舞の的確な指示によって、今日の慰問セレモニーの準備は着々と進んでいった。


 カレンが、沿道の整備のための人員や、パブリシティへの事前情報の共有、インタビュー、実際の孤児院での取材などの段取りの確認を手際よく終わらせていく。なんやかんや言って、カレンもかなり優秀である。


 そして徹も、言われた通りにチャイのマネージャーである茜に連絡をとり、到着時間の確認をし、また、チャイが到着した後の着替えやヘアメイクの段取りを進めていた。


 今回は徹ではなく、ちゃんとスタイリストが呼んであり、チャイたちと同じ時間ぐらいに到着することとなっていた。


 まあ、舞が言うように、なぜか徹が茜の電話番号を知っていた件に関しては、後でしっかり舞から事情聴取を受けるはめになるのだが、それは後の話。


 ミゥも、今日の慰問で着る、例の『ミゥの秋コーデコンテスト』で決定したポンチョのような服を羽織っていた。


 ミゥが着ている秋ユニフォームは、季節の変わり目に合わせて調整された、どこか柔らかい色合いのポンチョ型の装いだった。膝上までをすっぽりと覆うデザインで、身体のラインを拾いすぎず、それでいて動きを妨げない絶妙な丈になっている。


 胸元には、ポンチョの裾から少し覗くメタル外装の色に合わせて、ワインレッドで社名が入っており、宣伝効果も期待できた。何より、この秋コーデは配達中にも着てもらっていたのだが、かなり人気が高かった。


 腰から下、太もも部分は従来どおりメタルユニットの外装が露出している。人の肌色とは程遠いワインレッドの金属色だが、造形は腰部よりも人に近いフォルムをしており、機械的な印象を和らげていた。秋ユニフォームは、その人に近いシルエットを活かすために、太ももが少しだけ見えるデザインになっていたのだ。この辺りは舞からの指示で決めていた。まあ、ミゥも女性型のアンドロイドである。いや、既に女性のアンドロイドと言った方が良いだろう。舞のビジネスセンスは、こんなところにまで発揮されるのだ。


 全体として、ミゥの機械的な外装と、柔らかな布地のポンチョが不思議な調和を見せており、秋の空気にふわりと馴染むような、そんなユニフォームなのだ。


 ミゥは着替えが終わると、頭の中で今回のチャイの新曲を流していた。徹がデータとしてインストールしてくれたのだ。

 音声データが頭の中に静かに響くたび、ミゥの記憶領域の奥で、あのコロニー・シュワーツを飛び去ったあの日、エデンでの海、そしてSWAN号でのピンチの日々の映像記憶がふっと蘇る。特に、亜空間での戦闘、チャイの震える声、徹の必死の指示。それらが、歌の旋律に合わせて淡く重なり、胸の奥に温かい波紋を広げていった。

 これは誰にも語られることのない、ミゥの感情だが、既にアンドロイドの領域を大きく超えていた。


 もちろん、流れている歌は、亜空間での戦闘中にミゥとチャイで作曲し、それに徹が歌詞を付けたことになっている例のアレだ。ミゥは、今回のパレード用に短く編集された特別バージョンを自然と口ずさみ始める。


 タイトル:星の航路を越えて


 暗い宇宙の風が 船体を揺らしても

 あなた(ミゥ)の瞳の光が 未来を示すよ

 わたし(チャイ)の声が響けば 胸が強くなる

 帰る場所があるから 進めるんだ


 小さな不安さえも 手のひらで包んで

 仲間の笑顔だけを 信じて飛び立つよ


 進もう 星の航路を越えて

 恐れは勇気に変わる

 手を伸ばせば きっと届くよ

 笑顔が待つ明日へ

 私たちは飛べる


 命の火が揺れても

 希望は消えない

 あなた(ミゥ)の手と わたし(チャイ)の声

 重なれば奇跡になる


 進もう 星の航路を越えて

 願いはひとつだけ

 この歌が あなたを守るよ

 明日へ続く道しるべ



           作曲:ミゥ&チャイ

           作詞:江藤 徹


 ちょうどミゥが新曲を口ずさみ終わると、そこにチャイと茜が到着するのだった。同時に、今回のスタイリストも到着する。


 朝から慌ただしかったオフィスが、一段と慌ただしい雰囲気に包まれる。スタッフたちの足音、資料の紙が擦れる音、誰かの短い指示。そのすべてが、イベント前特有の熱を帯びて空気を震わせていた。まるで、見えないエネルギーが部屋の中心に集まっていくようだった。


 チャイは、慰問パレード用の衣装に着替えていた。今日のために用意された特別コーデで、派手すぎず、でもちゃんとアイドルらしく可愛い。子どもたちの前に立つことを考えて、全体的にやわらかい雰囲気でまとめられている。


 上は淡いクリーム色のショートジャケット。肩のラインが丸くて、ふんわりした印象だ。胸元には小さな星の刺繍がひとつ。主張しすぎないけれど、チャイらしいワンポイントになっている。中には白いハイネックのニットを合わせていて、秋らしい温かさがあった。


 スカートは落ち着いたワインレッドのプリーツスカート。ミゥの外装の色と自然に合うように選ばれたらしい。ひざ丈で、動くとふわっと揺れる。裾には、よく見ないと気づかないくらいの小さな星の刺繍が散らされていた。


 足元はキャメル色のショートブーツ。ヒールはなくて歩きやすいタイプだ。くるぶしのところに星のチャームがちょこんと付いていて、歩くたびに小さく揺れる。


 髪はハーフアップにまとめられ、左側に金色の星のヘアピン。ジャケットの胸元には小さなマイク型のブローチが留められている。どちらも『アイドルです』と主張しすぎない、ちょうどいい可愛さだった。


 そして、ミゥの姿を見つけた瞬間、チャイの表情がぱっと明るくなった。

 ミゥのポンチョの柔らかな色合いと、機械的な外装の光。その組み合わせが、チャイにはなぜか安心を与える。思わず口元がゆるみ、胸の奥がじんわり温かくなる。今日も一緒に頑張れる・・・そんな気持ちが自然と湧き上がっていた。


 全体として、チャイは『秋の灯り』みたいな、あたたかくて優しい雰囲気をまとっていた。ミゥのポンチョと並ぶと、機械の光と人の光が寄り添っているようで、慰問パレードにはぴったりの組み合わせだった。


 チャイの準備が終わり、いよいよ慰問とそのパレードが始まるのだった。


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