7-5 慰問、疑問、訪問 その2
全員がオフィスに集まると、カレンの声掛けで朝礼が始まる。
朝礼の最後には、いつものように、カレンが真っ赤な顔で、目を瞑って大きく深呼吸をした。
「ミゥ、お仕事に向けて、はっし~~~~~~ん!!!!」
そう号令を発する。
今まではこれで終わりだったが、玲華が朝礼に加わるようになってから、この号令の後に、
「頑張るにゃん♪」
と、玲華が猫のポーズをとるようになっていた。
カレンは、一体なんの拷問なのだと、朝礼の度に思うのだが、当の玲華はノリノリである。
それこそ、昨日の徹とミゥの情事?などなかったかのように・・・。
しかし、やはり玲華は玲華だった。
ミゥに向き直ると、
「同士にゃん!」
といって、ミゥに抱きつくのだった。
それを見て、舞が怪訝そうな顔で尋ねる。
「何の同士ですか?」
玲華が、びくっとして、振り向きざまに言う。
「女の秘密にゃん!」
舞が呆れたようにため息をつく。
「相変わらず、意味がわからないわ・・・」
そう愚痴をこぼした。
徹が胸をなでおろした瞬間だった。
心の中で、
『玲華が、玲華で良かった』
と汗をぬぐった瞬間でもあった。
徹は気付いていないが、玲華は決して冗談で『遺伝子提供してくれ』と言っているわけではない。
それを好意と呼ぶかは微妙だが、獣人として『優秀な遺伝子が欲しい』というのは本能に近い。
だからこそ、それを許さないであろう舞には、絶対に秘密にする構えだったのだ。
そんな朝の一幕があったが、今日は1日延期されていたチャイの東シュワーツ孤児院の慰問の日である。
本来は東シュワーツ孤児院のみの訪問であったが、チャイのスポンサーである伊那笠財閥の特別の計らいによって、今日が東シュワーツ孤児院、明日が西シュワーツ孤児院の慰問となった。
あくまでも善意である。おそらくは善意である。決して、チャイの新曲の広告宣伝効果を狙ってのことではないはずである。
朝礼が終わると、舞がテキパキと慰問の段取りを確認していく。
「カレンさん、沿道の整理の人員や、パレードのための交通規制などはすべて手配済みですか?」
カレンが嫌そうな顔で返答する。
「終わってるよ。急に決めやがって、全然休みにならないだろぉ・・・」
舞が、カレンの愚痴に容赦なく重ねる。
「ちょっ・・・まっ・・・」
カレンが愚痴に言葉を被せられて、苦情を口にするが、舞はお構いなしにさらに重ねる。
「徹さん、パレードの車の手配はこちらで終わっていますが、運転をするミゥの経路に関する情報はリンク済みですか?」
急に振られた徹が焦ったように返答する。
「おぃっ、ちょっ・・・」
「え、はいはい。リンク終わっています。また、預かっていた今日のパレードで流す音源も車に転送済みです。」
カレンが諦めずに口を開くが、今度は徹に被せられて、その言葉は誰にも届かない。
そして、とうとうカレンが諦めて肩を落とした。
そこに、玲華がすかさず近づいて、
「ああなったお嬢様は、もう手が付けられないにゃん。諦めるにゃん・・・」
玲華の優しさが、カレンの心に届いた瞬間だった。
そんな小さな街角ドラマをよそに、舞の確認作業は続いていく。
「カレンさん。何か言いましたか? パブリシティへの情報共有はできていますか?」
「ああ、ちゃんと終わってるよ」
かなり投げやりな返事。
「カレンさん。低血圧ですか? 昨日、お休みあげたでしょう?」
昨日カレンは、舞に言われた仕事が山積みで、出勤はしていないが、一日中ほぼ電話機に張り付いていた。
それを言おうとしているのに聞いてもらえない。
そして、あたかもお休みをもらったかのような発言。
カレンがノックアウトされる瞬間だった。
カレンが、その場に崩れ落ちた。
「そんなことしている暇はありませんのよ。カレンさん、今日のパブリシティの対応はお任せします」
カレンの顔に、暗雲が立ちこめる。
「いや、ちょっ・・・」
チーン。
まあ、ご想像にお任せします。
カレンは肩を落としたまま、とぼとぼと自分のデスクに向かうのだった。
「徹さん、チャイはまだ到着しないのですか?」
今度は徹だ。
「え? 私は、それは管理していませんよ」
舞の顔が一気に厳しいものに変わる。
「あら、不思議ね。エデンでは、随分とあの茜さんでしたっけ? あのマネージャーさんに気に入られていたみたいでしたけど?」
「は?」
今度は徹があっけに取られる。
「それに、チャイはミゥに懐いてるでしょ? あなたの管轄よ?
私は財閥内の調整とか、慰問に合わせて発売する新曲の音源のパテントの登録とか、忙しいのよ。
あーそれに、サイン会の色紙などの用意も必要でしたわ。
それに、同時にCM入れたりと、そんな体たらくでは、この音源ミリオンヒット狙えないわよ?」
「え? 何、もう慰問と目的が・・・」
「お黙りになって。あなたの使ったSWAN号の装備の回収どうするつもりなのかしら?
あ、あれのパテントを売りつけ・・・いえ、販売もあったわね。
あー忙しいわ!」
完全に取り付く島がない。
徹も、ミゥに頷くと、メンテナンスルームに戻っていくのだった。
「あっ、徹さん。チャイたちの到着の時間が分かったら、報告お願いします」
徹が舞を振り返って返事を返そうとすると、
「舞サン。了解シマシタ」
ミゥがすかさず割り込んで答える。
「あら、ミゥの方が優秀ね」
止めである。
徹もカレンに続いて撃沈した瞬間であった。




