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7-4  嫉妬、愛情、鎮火 その4

 玲華は、徹とミゥが抱き合っている姿を見て、2人の恋愛が成就したのだと勝手に誤解したのだが、もちろん違う。

 将来的には分からないが、現時点では恋愛の成就ではない。


 ミゥは、現時点では、『寂しい』『嬉しい』の2つの感情をおぼろげながら獲得しているだけである。

 そのため、『愛』というものに関しては、概念は知っていても、残念ながら感情としては得ていない。


 実際にミゥの行動を見ていると、『嫉妬』という感情もあるように見えるが、これは状況の分析から、自分が是とする方向性に合わせて行動している部分が多く、『感情』というよりは、まだ『条件付けによる反応』という側面が強い。もちろん、その条件が徹に対する『絶対的な正しさ』や『評価』に基づいているため、感情と呼べなくもないのだが。

 ただ、これはミゥが、舞たちが徹に対してとる行動について、


 『徹は魅力的な男性の理想像』

 であり、

 『周囲の人間が好意を持つのは当然』


 と捉えているため、絶対評価が高いことによって起きる行動でもあった。

 そのためミゥの中では、


 『これだけ皆に好かれている徹は称賛に値する』

 『その徹が最大の興味をもっている対象が自分である』


 という2つの認識がぶつかって起きる、一貫性のない行動の発露でもあった。

 あくまでも、ミゥの中に存在している価値観に反応しているのだ。


 これは、『心』の反応とは異なる。


 そう分析する限り、この2人が抱き合っているのは、まだ愛情の確認行為とはいえないのだ。


 もちろん、一般的?な感覚の持ち主である玲華には、そんな違いは分からないし、当然、誤解しても当たり前ではあるのだが。


 そして、抱き合っている当人たちにも、残念ながらそんな感情はなかった。

 徹がミゥを抱きしめた理由は、ぶっちゃけミゥが徹の期待に応えて、感情らしいものを獲得してくれたことに対しての、


 『嬉しい』

 『感謝』


 というものだった。

 一方、ミゥが抱きしめ返した理由は、徹が教育用にと何度も繰り返し見せた


 『涙を誘う感動物のラブストーリーの映画』


 の1シーンを記憶していて、それを実行しているに過ぎない。

そして、この時ミゥが感じていたのは、獲得したばかりの、


 『嬉しい』


 だった。

 人間として生活をしていないミゥには、まだ『嬉しい』が、『愛おしい』や『離れたくない』という感情には育っていないのである。


 ただ、熱烈な抱擁をしたまま動かない2人は、どこから見ても愛し合っている2人には見えるのも事実だった。


 しかし、完全に誤解している玲華は、ここで突拍子もない行動に出る。

 2人が抱き合っているそばまでこっそりと近づくと、


「あの、お二人さん。仲睦まじいところ提案があるにゃ!」


 その言葉に、徹がミゥを抱きしめている手を解いて、玲華の方に向きなおる。

 ミゥも、嬉しそうな顔のまま、玲華のほうに視線を向けた。


「ああ、玲華か。いや、すごいんだよ。ミゥがね!」


 徹が興奮したように玲華に告げる。


「見てたにゃん。(愛が成就して)おめでとうにゃん」


 徹が玲華の言葉に、


「(ミゥが感情を獲得したこと)わかってくれたかい。ありがとう」


 そう返す。

 ミゥは、何が『おめでとう』なのかわからず、視線を徹に戻した。

 さすがに、お互いの話がズレているのはミゥにも分かる。

 表面上の会話は、何かを讃え合っているようにしか聞こえなかったからだ。


「安心して欲しいにゃん。舞様には、(二人の愛の成就は)秘密にしておくにゃん」


 徹が一瞬だけ怪訝そうな顔をする。しかし、ふと思い出したように、


「確かに、まだ状況証拠だけだからね。(感情の獲得については、しっかりと根拠を科学的に確認した上で)確定してから舞には僕から報告するよ」


 ちなみに、()の中の言葉は、お互いに言葉にしない。

 徹と玲華は、2人で見つめ合うと、


「ははははは」

「ふふふふふ」


 と、お互い変な笑い声をあげたのだった。

 ここまでくると、ミゥのAIでは状況の理解は完全に無理だった。


 2人で笑い続け、それがしばらく続く。

 急に、玲華が正気に戻る。


「で、2人に提案にゃん!」


 徹が、


「ミゥと2人にかい?」


 そう尋ねると、


「そうにゃん!」


 玲華が勢いよく首を縦に振った。


「2人は、子供を作ることができないにゃん。だから、うちが2人産むにゃん。1人を2人の養子に出すにゃん!」


「はっ?」


 徹が素っ頓狂な声をあげる。


「はっ?じゃないにゃん!だから、遺伝子2人分欲しいにゃん!」


 決定的に話が食い違っているのだが、ここまで話が飛んでしまうと、そのズレすら見えなくなってくる。


「遺伝子の話は前にも聞いたけど・・・。なんで急に養子って?それもミゥと僕の養子?なんでそんな話に・・・?」


 徹の頭が疑問符でいっぱいになる。


「わかってるにゃん。全部言わなくていいにゃん。うちに任せるにゃん!」


「え?だから何を?」


 まったく話がかみ合っていない。


「じゃあ、ミゥ。2人の子供は、うちが用意するにゃん。遺伝子だけ借りるにゃん!いいよね?」


 急に玲華がミゥに話をする。

 ミゥが、玲華の方に身体ごと向きを変えた。

 そして、満面の笑顔を浮かべて玲華を見つめ返す。


「え?ミゥ、話わかったの?」


 ミゥは一瞬だけ徹に視線を泳がせたが、すぐに玲華に視線を戻すと、


「了解シマシタ」


 そう返答するのだった。

 話を理解していないはずのミゥが、徹より先に、まるで玲華の提案を受け入れるかのようにうなづいた。


 本社のメンテナンスルームに、徹の声にならない悲鳴が響き渡ったのだった。


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