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【とある魔王の追憶】

 


 魔王。


 そんなものが、彼が生まれた年に誕生した。最古にして、最初の魔王。

 鋼鉄の魔王デュラン。


 長命種同士であるエルフ族とアイ族によって生まれた国、共和皇国は、当時から最大規模の国家であった。他種族を労働力、または、資源として掻き集め。

 旧文明の建造物を再現した、地上800メートル以上、160階を超える鉄塔を建てたのだ。超高層ビルディングというものだが、認識としては鉄塔である。

 四方を高さ600メートル以上の鉄塔を構え、物見櫓を兼ねた共和皇国全域の電力を送る装置でもある。鉄塔に見下ろされ、300メートル級の壁で囲まれた国。

 それが、共和皇国。


 共和皇国の属国、ボイド。バールベリト=ドグラ・マグラは、メイフェム族の王子として生まれ落ちた。

 生まれながらにして、その魔力は闇の精霊に愛され。そして、幼少期から共和皇国の鉄塔を見上げて過ごした。

 正確には、人生のベクトルを、そこで定めたのだ。


 魔王になろう、と。


 彼にとって魔王とは。淘汰である。

 そもそも、その称号だって、共和皇国がつけたものではない。軍に当てはめるなら、将軍といった立ち位置になるわけだが。

 だが、侵略された被害者達が、口々に「あんなものは魔王だ」と云うものだから。だから、外からは魔王という呼称が定着してしまったわけで。


 そんなものに。なりたかったのだ。

 彼は。魔王に。


 始まりは、メイフェム族の国ボイド内で、地下シェルターが発見された時だ。設備の幾つかはまだ生きており、コンソールを何気なく触ったバールベリトは、そこで、旧文明の歴史を知る事になる。

 進化するテクノロジーと、時折、牙を剥く疫病。

 災害。

 戦争。

 侵略。

 略奪。

 虐殺。


 平和。


 愛。


 死。



 死。



 死。

 死。

 死。





 死。


 なんと。なんと、流血と灰にまみれた歴史であろうか。

 淘汰。淘汰だ。

 戦争とは。災害とは。

 疫病とは。人間とは。

 淘汰なのだ。他を食い。

 滅ぼす。そして。

 そうして。残るものが。

 流血の中で。灰の中で。

 人間を。人類を。

 推し進める。


 何故なら。


 選別され剪定され洗練された人間は、デザインされた人間だ。より、世界を。

 素晴らしくしてくれるだろう。何故なら。

 新人類だって、そうして生まれてきたのだから。


 旧文明に、異世界トンネルであるダンジョンが発生して。

 世界各地、此処彼処(そこかしこ)溢れるモンスターに対し、遅々として進まぬ制圧。そうして。


 そうして。


 大都市に溢れたモンスターを滅ぼす為に、旧人類は、核の劫火をバラ撒いた。


 焼いて。

 焼いて。


 そうして。

 文明は。旧文明は、灰になった。

 ダンジョンという現象に対して。人類は、地上を明け渡すしかなかったのだろう。

 放射能という置き土産を残して。地下では、文明は緩やかに鈍り。

 そして、停滞して濁る。何せ、資源は限られているわけで。

 情報量もまた、絞られた社会だ。


 新たな発見。

 新たな挑戦。

 新たな発明。

 そんなものが、どんどん目減りしていき。そして。

 新人類が生まれた。新人類が生まれ。

 旧人類は、その数を減らしていく。バールベリトが成人する前には、もう既に、旧人類は絶滅していた。


 切り落とされたのだ。要らぬ枝葉として。

 なるほど。バールベリトは、理解した。

 というより、解釈したのである。歴史の歩みとは、淘汰と剪定であるのだと。

 今は、旧人類に代わり、新人類が地上をほぼ支配している。しかし、新人類の文明は、果たして。

 旧文明の科学に比肩する程、発展したのか。否であろう。

 魔法は、科学に及ばない。今は。

 今は、まだ。旧文明に追い付いていないのである。

 駄目だ。今のままでは。

 進まなくては。進めなくては。

 そうでなくては、人類は今度こそ。今度こそ、人類は死に絶えるだろう。


 人類を育てよう。教育だ。

 バールベリトは、自分の人生の目標を定めた。つまり、人材育成。

 その為に必要なもの土地────領地である。教育機関を設ける為の。

 故に、彼は、まずは魔王になろうとした。手段として、エルフの国を滅ぼした。

 彼が、王位に着いてやった事だ。


 まあ、魔王の椅子の空きがなかったせいで、望みのものは手に入らなかったのだが。


 魔法大国エンシェンティア。


 天下布武を唱える共和皇国にとって、大きな障害であった。それを、属国の王が独断で滅ぼした。

 首輪が必要だろう。

 徒に、魔王の椅子を増やす事は憚れるが。それでも。


 共和皇国は、エンシェンティア王族の血筋が絶えていない事を指摘した。

 これでは、復興は時間の問題だと。故に、生き延び、逃げ延び、落ち延びた王族とエンシェンティアの民を殺せ、と。

 命じた。


 バールベリトは、少し迷う。魔法大国を滅ぼしはしたが、エンシェンティアは、優れた魔法体系を確立していた。

 つまり、勤勉な人類ではあったのだ。滅ぼしたのは、それでは駄目だと判断したから。

 それでは、人類は前進しない。何せ、魔法大国エンシェンティアは、開かれていない。

 どんなに魔法の技術が進んでいても、閉ざされている。魔法大国エンシェンティアの民だけが、進んだ魔法技術を有している。

 それでは、駄目だろう。

 だから、滅ぼしたのだ。

 もっと、大きな受け皿でなければ。そうでなければ、人類が育たない。

 暫定魔王として、北の大地ススキノを与えられ、教育機関を設立。自身の子供達を鍛え上げ、エルフの里をも踏み潰した。

 蹂躙だ。

 鏖殺だ。


 全て。

 全て、片付いたと。

 バールベリトは、漸く魔王に成れた。ススキノを手に入れた彼にとって、その立場に、大きな意味はなかったが。

 何にせよ、彼はまた、見逃した。魔法大国エンシェンティアの、超高域殲滅魔法と、王族最後の生き残り。そして、旧人類の存在を。


 エルフの里を滅ぼした際、エルフ族の裏切り者から、情報があった。王族の血統、姫の姿が無い事。

 そして、その姫には、許嫁がいるといるのだという。

 それも、滅んだ筈の旧人類。


 魔王バールベリトは、人狼計画に着手していた。人類をデザインする為の計画だ。

 蔓延する疫病、目に見えないウィルスさえも克服してきた人類。それも、旧文明の力で。

 今、新人類に、その力が、果たしてあるのだろうか。その問いへの、応えとなる筈の計画であった。

 答えを求めたわけではない。

 魔王バールベリトには、応えこそが、必要だったのだ。


 魔法大国エンシェンティアの超高域殲滅魔法は、何とか保存しておきたかった魔王バールベリトは、だからこそ、最後の血族たるグリゼルダを見逃してきた。誤算は、そこに、旧人類まで絡んでしまった事。

 まさか、その旧人類に。

 魔王バールベリトの研究成果である人狼計画を潰され、ましてや、魔王バールベリトの生命まで潰(つい)える事になろうとは。


 こんな筈ではなかった。


 出し尽くした。策も、駒も。

 やりたい事は、まだ他にあったのだ。これがやりたかった事ではない。

 魔法大国エンシェンティアを滅ぼしたかったわけではない。まだまだ、やりたい事が残っていたのに。


 魔王バールベリトは敗北した。


 それが意味するものは、死。


 魔王バールベリトは、大の字に倒れ、今や、倒壊した瓦礫に潰されるのを待つ身。



「侭(まま)ならぬものよ」



 旧人類に殴り負け。

 殴り倒された魔王バールベリトは、笑みを浮かべ。



「全く」



 思い通りにいかないものだ。

 人生とは。



「因果応報、自業自得……で、あるな」



 過去の火種が。

 自分を殺す事になった。手段として、やってきた事で。

 グリゼルダが。

 ルーシャが。

 ヨルシカが。

 魔王バールベリトに牙を剥ける原因を作った。

 それぞれが噛みついてきたとて、掠り傷で済む。問題はそれぞれが個々ではなく、手を組み。

 策を練ってきた。最大級の戦果を叩き出す為に。



「やってくれたものだ」



 完敗である。


 よもや。

 魔王にこれを云わしめた。旧人類さえいなければ。


 ────こうはならなかっただろうに。


 そんな言い訳。

 負け惜しみ。


 その言葉を口にしなかったのは、魔王としての矜持か。



「────ふ」



 しかし。

 まあ。


 存外に。



「面白いものを最後に学習出来た、な……これは、学びである」



 あんな風に。

 一心不乱に殴り合うのも。

 そう、悪いものではない。

 火の粉と共に。

 驟雨が如く。

 降り頻る瓦礫を浴びながら。


 魔王が笑う。



「まあ、悪くない人生であったよ」


 

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