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不条識な狼の理72

♗72


 急いで、扉を開けて舞台に踊り出ると、もうそこに敵の姿は無かった。



 代わりに……



「おい。どっちが仕留めたんだ?」

「私に決まってるじゃない。」


 ぐったりとしたキアラを抱いてハクスイが立っていた。

 最初その様子を見て、もしかてハクスイがキアラを殺めてしまったのでは錯覚したが、どうやら仕留めてしまった、いや殺してしまったのは舞台上に頭から血を流しながら転がっているこの男の事らしい。きっとヒカミがさっき報告してくれたハクスイをボコっていた男だと思う。


「君は自分が何をしたか分かってんのか?」

「ええ。解っているわよ。記憶を失う前の私もどうせこんな人だったんでしょ。」


 冷たく言い放ったハクスイの顔は殴られて腫れてるせいで目が細く見えるからそう見えるってのもあるかもしれないけど、あたしの背中がぞっと寒くなる程度には冷たい目付きで、男の遺体を見下ろしていた。


「一人殺そうが二人殺そうが人殺しには変わりないわよ。」


 そんな事言うハクスイはあたしの知ってるハクスイじゃなかった。


「とにかく、早く病院行きましょう。亜美さん頑張ってくれたお陰で命には別条無いだろうけど、後遺症の可能性はゼロじゃないからね。」


 そのまま、キアラを抱いたまま、よたよたと歩き出したので、あたしは直ぐにキアラを受け取った。体格的にはハクスイの方が良いんだろうけど、そんな怪我の中人一人抱えて歩くなんて危なくてしょうがない。

 見ると、キアラの顔には片目を隠すように布が巻いてあって血が滲んでいた。布越しに血が伝って来るので、額だろうか。とにかくぱっと見でもこの出血量はまずそうだ。


「サクだけでも、先に行けるなら行ってほしい。おれはハクスイと行くわ。ハクスイも多分普通に歩けねえだろ。」


 確かに、ハクスイは歩き方がおかしい、どこを庇ってるのか分からないけど、変な歩き方だ。


「あらバレてたの。ならお言葉に甘えて、一番近い病院に集合にしましょう。」

『分かった。とにかくキアラだけでも先に急いで連れて行くわ。』



 見たところ頭部にしか出血はないようなので、頭だけ気を使ってあたしは先を急いだ。

 キアラの症状からして急がなきゃってのは確かにあったけど、今ハクスイと一緒に居たくないと思ってしまったのも確かにある。

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