不条識な狼の理71
♗71
あたしは、キアラに肩を貸して、キアラを通気口へと上らせた。
キアラの気配が完全に消え去ってから、あたしはヒカミに聞いた。
『どうなの?あの二人。ヒカミも考えあって行かせたんでしょ。』
「まあ。一応ね。おれもおれの視点だけで、判断するのも良くないなあって思ったんだよ。
いつものおれだったら、これで、キアラさんが負傷した場合、それは決を出したおれの責任だとか言い出すんだけど、なんかそれも違うんだ。軍隊でもないし。
誰かを助けたい感情論を吐き捨ててしまうのも、ここではきっと不正解だ。
だから、おれは本人たちに任せたんだよ。怪我したら自己責任だ。それはさっきキアラさんに確認したように、本人の助けたいという意思だ。尊重しよう。」
いやそれはわかってんだけどさ。
『あたしが聞きたいのは、それじゃなくて二人の関係性をさ。』
「鈍いな君は。さっきキアラさんから、ハクスイの匂いがするって自分で言ってたろ。」
『それが何?泊まってたからとか言ってたけど。』
「あのさ。おれの匂いってどこからする?手じゃないだろ。足でもないだろ。足はまた別で足の匂いするし。本人の匂いってやつ。」
『それは、首から胸にかけてとかだよね。それが何か?』
「ったく。鈍いなぁ。」
突然、ヒカミがあたし抱きついてきた。ヒカミの顔があたしの胸に埋もれる。
「こういうことだよ。」
ああ、そうか鈍いな。あたし。そういう事か。
『でも、あの二人、まともに愛しあったら、いけないんじゃないの?呪いだとか、なんだとかで。よく分からないけど。』
現状ヒカミの予想では、キアラがハクスイを愛してしまったら、ハクスイがキアラを殺すことになるであろうという話だ。まあこの話も確定ではなくて、あくまで状況証拠だけを並べたヒカミの分析の結果なんだけど。この辺に至っては、キアラ本人からちゃんと説明がないと見えないところ。
「さあ。まだその話も確定じゃないし、愛だとか恋だとかは人を強くもするし、脆くもする。
呪いと対価の全容はまだ見えないが、本人たちがそれに抗おうとしているなら、おれは口出しできねえよ。」
ヒカミはそうは言ってくれたけど、あたしと同じ位手探りで判断してるんだと今更になって分かった気がした。
それは今回のこの世界に来て条理だのナンチャラだけの話じゃなくて、ずっと前から、何があっても、分かったフリをして、全部自分が責任を負う覚悟で全てを引率してきたんじゃないかなって。
だってこんな判断を下した今、ヒカミがすごく近くにいる気がしたから。
「さてと。」
ヒカミは楽屋入り口の扉を開けた。
ノックも無くまるで関係者のように普通に開けて普通に入ったので、あたしもそれに続いて普通に入室すると、五人の男たちの視線が集まった。
まあ無理もないよね。突然呼ばれてない人が突然入って来るんだもん。間違いじゃないの?って空気。
歩系のマズイお仕事系の人の事務所ってこんな感じの空気なのかな。どう見ても強面で体格の大きい人が二人と、残り三人は最初の情報通りムハ教の民族衣装を纏っている。
全員が全員武器を持ってるし、ってもあたしとヒカミもなんだけどさ。そして揃いも揃って目付きが悪いからもう、ああ始まるって緊張感が流れる。
「お嬢ちゃん。来る場所間違ってないか?」
「あーおれってこんなにも男顔なのにやっぱり背が低いから女って直ぐわかるよね。」
とまあ冗談を交わしながら、一番近い奴の一手。鉄パイプのような武器が飛ぶ。リーチが長い武器なもんだからあたしもトバッチリで急いで屈む。危ない危ない。
ガッシャンと盛大な音で鉄パイプの落ちる音が開戦の合図だった。こういう人たちって本当に映画みたいな戦い方するんだね。
五対二。一見不利に見えるけど、ここの楽屋多分十畳も無い。そんなところで比較的デカい男五人が武器を振り回すって結構危ないのだ。仲間に当たる可能性があるので。
その点あたしとヒカミは二人だし。なんならヒカミはとんでもなく小柄なので、一度二人が離れてしまえば、あとはストレスフリーに武器を振るえる。
離れて、ヒカミを見ると、ヒカミは短剣の納刀したまま、鈍器代わりに振るっていた。なるほど。あたしも真似をしよう。
背中から斧を取り出して、刃の部分に覆われた革の鞘を外す事無く、振り始めた。勿論念の為に刃とは逆の方を使ってだ。所詮革製なので本気で振るったら刃が飛び出そうだし。
最初の一撃は素振りで脅しのつもりだったのに、タイミング悪く向こうの奴が一人あたしに攻撃しようと飛び出したタイミングだったので運悪く頭に当たってしまった。やばっ、死んでない?って焦ったけど、呻きながらそのまま壁まで避難していったので多分問題ない。良し。まず一人。
今度はちゃんと斧を持って構える。一年前あの迷路の中でハクスイに教わった各々の武器が持つ間合いというものだ。
ハクスイ曰く、刀や剣が一番間合いが難しいらしい。間合いを詰められると、即座に振るえなくなるからだそうだ。刃の部分が長く大きい武器というの必然的に重量があるので、片手で咄嗟に振るうにも相当の手練れじゃないと手首を痛めるしそんな事している間に殺されるし。あんな不利な武器は相当修行を積んでからじゃないと使うもんじゃない。とまあ全国制覇の侍は言うわけですよ。
じゃあ素人はどうするの?
武器の基礎として、刃の部分が小さい物ほど扱いやすい。片手でも振るえるし、間合いを詰められても反撃出来る、寧ろ相手が間合いを取らないといけない大きい武器大きい人が相手でも懐から攻撃に転じる事が可能だから、武器の扱いが慣れていない人程、ナイフや短剣。長くても五十センチ以内に収まる武器にすべきと。
さて、あたしのこの斧は五十センチといったところか、刃の部分が大きいので重いかもしれない。素人は扱い辛いかもしれない。しかしまあありがたい事に人間じゃないんだよなああたしは。無駄に発達したこの異形の筋力のお陰でまあ突っ込んで振れば良いという脳筋プレイでイケる。
なので一番近くにいた男に真横から御見舞いすると見事にみぞおちに入って、苦しそうに屈んだ。二人目。
さて、三人目。アンタだよとあたしはまた斧を持ち直したその瞬間。三人目の男は、痛ててててと騒ぎだした。
何事だろうとよく見ると、男の背中にヒカミが猿みたいに引っ付いて、肩に関節技をかけてるのだ。うわあれ絶対痛いやつだ。
男の肩が変な方を向いて、そのままドスンと倒れた。まあその肩じゃ受け身もロクに取れないだろうって事で。
「可哀そうだけど、ただの脱臼だから命には別条ねえよ。めちゃくちゃ痛いだろうけどな。」
『マジで味方だ良かったよ。どこで覚えてきたのそれ?』
「二人目ぶっ飛ばす時に試しにやったら出来たんだ。体力温存したまま、確実に殺さないで動きを止めれるから対人戦法としてはかなり便利だな。」
実践で突然技の開発をするって、ほんとあれだよね。RPGでレベルアップして新しい魔法覚えるぐらいのノリだ。まあこの人の場合本当にその位の経験値をすぐ吸収する程の能力があるからねえ。
見渡すと片付いたみたいだ。五人ともみんなぶっ倒れてる。流石に女とはいえ人間じゃないというズルはこんなにも状況は有利に働く。とはいえ人間じゃないのはあたしとヒカミだけであって、ハクスイもキアラも普通の人間なのだ。早く助けに行かないととあたしもヒカミも同時に舞台側の扉に向かった時だった。
銃声。が聞こえた。
状況は最悪な気がする。




