エピソード2-5
部屋が、しん、となった。
金の髪。紅の瞳。
大人たちの視線がレギウスの顔の一点に集まり――それから、弾けた。
「あ……紅い目だ。ほんとだ、紅眼……王家の色だ」
「金髪紅眼……ゆ、勇者さま!? 勇者さまじゃねえのか!?」
「ど、道理で! 道理で、あんな御業ができるはずだ……!」
親方が、その場に膝をつこうとした。職人たちが続き、狭い部屋が平伏する大人で埋まりかける。
「わっ……やめてください、立って! 僕はそんな、拝まれるようなものじゃ……!」
寝台から身を乗り出して止めるレギウスの、その騒ぎの隅で。
窓辺の魔族が、実に愉快そうに、笑いをかみ殺していた。
ようやく騒ぎが収まったころには、女房や娘たちの視線が、今度はその窓辺へ集まっていた。
「……ねえ。勇者さまのお連れの、あの方……」
「絵から抜け出してきたみたいな……」
ブレイジールがにっこりと会釈を返すと、花束を抱えていた娘が、花束ごと隣の母親へ倒れかかった。
(人の姿だと、ああなるのか……)
客がみんな引きあげた後の部屋には、菓子と花の山が残った。
レギウスはさっそく、蜂蜜菓子の包みを開けた。あの屋台のだ。ひと口かじって、目を閉じる。
「ん~」
「お嬢は、ほんとうに甘いもんがお好きで」
「うん、大好き。……ん? いま、お嬢って」
「へえ。『お嬢さん』じゃあ、ちいと長ったらしいもんで、縮めさせていただきやした」
「……まあ、呼びやすいなら、いいけど」
菓子を、もうひとつ。
(うん、やっぱりおいしい)
「で。おまえは、これからどうするの」
聞いてから、レギウスは妙な質問だと思った。行き倒れの猫に、今後の予定を聞いている。
「へえ。お嬢についていこうかと思いやして」
「……は?」
「この三日で、よぉくわかりやした。お嬢ときたら、銭は数えられねえ、財布の口は開けっぱなし、挙げ句の果てに往来の真ん中で行き倒れる。放っておいたら、寝覚めが悪いんでさ」
「い、行き倒れは不可抗力……! っていうか、見てたの、市場のあれ!?」
「特等席で」
「~~っ」
顔が熱い。この魔族、猫の姿をして、ぜんぶ見ていたのか。
(……菓子を、歩きながら食べてたところも?)
(いや、待て。流されるところだった)
「……あのね。僕がなんの旅をしてるか、わかってる? 勇者の従者を探してるんだよ。魔王と戦うための。おまえ、魔族でしょ」
「魔王は、あんまり好きじゃありやせんので」
こともなげに言う。
「それにご心配なく。あっしはごらんのとおり、争いごとの嫌いな、へなちょこな魔族でやしてね。腕っぷしのほうは、からっきし。……でやすから、魔王をぶちのめせるような威勢のいいのを、道々いっしょに探しやしょう。あっしはそれまで、お嬢の世話係ってことで」
「世話係って……」
言い返しかけて、レギウスは、ふと口をつぐんだ。
三日前の記憶の、いちばん最後。倒れてくる丸太の影。……あれから自分は、どうやって助かったんだろう。
目の前の男は、にこにこと笑っている。
「……嘘だ」
「おや、なにがでやす」
「おまえ、本当は強いでしょ」
金色の目が、ほんの一瞬、まるくなった。
それから、ゆっくりと三日月の形に細められる。
「……さあ。どうでやすかねえ」
(はぐらかされた)
でも、なぜだろう。悪い気はしなかった。
◇
馬車が、ひときわ大きく揺れた。
まどろみかけていたレギウスが顔を上げると、向かいの席の従者は、いつのまにか目を覚まして、街で買った丸パンをかじっていた。
「ん……美味いでやすねえ、この街道筋のパンは」
しみじみと言う横顔を、相席の娘たちがうっとりと眺めている。
(パンひとつで絵になる男というのも、どうかと思う)
「……さっき、寝言で『小金貨』って言ってた」
「へえ。いい夢でやしたよ」
「……魚とミルクはだめなのに、パンはいいんだ?」
「へえ。焼きたてにゃあ、目がねえもんで」
「猫なのに」
「魔族でやすので」
(わかったような、わからないような)
「お嬢。じきに、次の街でやすよ」
言われて、窓の外を見た。麦畑の向こうに、鐘楼の頭が覗きはじめている。
「次の街にはいるかな。魔王を倒せるくらい、強い人」
「きっといやすよ」
「その根拠は?」
「お嬢の拾いものは、当たりが出ると相場が決まっておりやすんで」
「……それ、自分のこと?」
「さあ、どうでやしょうねえ」
澄ました顔で、従者はパンの最後のひと口を放り込んだ。
(まったく。調子のいい魔族を拾ったものだ)
(でも……)
不思議と悪い気は、しないのだった。
のちに勇者レギウスは、七人の従者とともに、爆炎の魔王アノンを討ち滅ぼすことになる。
だがそれは、まだ、ずっと先の話である――。
「勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~」2-5を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
もし、この小説を読んで、すこしでも面白いと思っていただけたら
【☆☆☆☆☆】をタップして、★をいただけると嬉しいです!
ブックマークで応援していただけると、とてもとても嬉しいです!!
あなた様の応援が、何よりの原動力です。よろしくお願いいたします!!
※『記憶喪失勇者』のスピンオフです。本編未読でもお読みいただけます。
※ 本編の800年前の物語です。
※本編へのリンクはあとがきの下にあります!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




