↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~(連載版)  作者: さいらす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/21

エピソード2-4

 丸太の束は、下まで届かなかった。


 倒れかけた木材は、宙のなかばで、見えないなにかに乗り上げて止まった。金色の光がその縁をひとすじ走り、束はゆっくりと横へ滑って、誰もいない砂の上へ、大きな音を立てて落ちた。


 男たちが呆然と空を見上げている間に、砂煙のなかを、二色の毛並みが駆け抜けた。


 倒れた娘のそばで、猫は人の形に戻った。誰の目にも映らぬよう、自分と娘ごと、乳白色の結界で包んでから。


 ブレイジールは、小さな身体を抱き上げた。


 軽い。恐ろしく軽い。この身体で、あの大男の傷を、丸ごと引き受けたのか。


(買い物もまともにできねえくせに)


 市場でのことを思い出す。小魚ひと束に金貨を差し出して、屋台の親父にお金の使い方を教わっていた娘。菓子屋の前では、真剣な顔で蜂蜜菓子を選んでいた娘。


 その同じ娘が、赤の他人の傷の前では、一瞬も迷わなかった。自分がどうなるか、承知の上で。


 千二百年、人間を眺めて生きてきた。賢いものも、勇ましいものも、欲深いものも、たいていの奴を見た。飽きるほど見てきた。


 人界は美しいものばかりではなかった。汚いものも、醜いものも、たくさん見た。


(こういうのは、初めてでさ)


 腕のなかの娘の魂は、見たことのない色で澄んでいた。不思議とそれが、魔族であるブレイジールの心を引きつけた。美しいと思った。


 騒ぎの街路を、誰にも見られないまま歩く。ふ、と笑いが漏れた。生きることに疲れ果て、死に場所を探すような気分でいたはずの足が、宿への道を、弾むような軽さで踏みしめていた。


◆


 まぶたの裏が、明るい。


 目を開けると、見覚えのある宿の天井があった。……身体が、妙に重い。正確には、腹の上だけが重い。


 視線を下げると、腹の上で、二色の金の毛玉が丸くなって寝ていた。


「……どいて」


「にゃ」


 猫は迷惑そうに顔を上げ、ぴょんと床へ降りた。


 降りた、はずだった。


 着地の音は、しなかった。代わりに、窓辺の椅子に、長い足を組んだ青年が座っていた。絹糸のような金の髪。こちらを見つめる、金色の目。


「お目覚めで。丸三日、よくお眠りなすった」


「…………は?」


 レギウスは寝台の上で三度まばたきをして、青年と、床と、閉まったままの窓を順番に見た。


「え、待って。猫は? いまの猫、どこ行ったの」


「あっしでやすよ」


 青年は胸に手を当て、芝居がかったお辞儀をしてみせた。


「ブレイジールと申しやす。ごらんのとおりの、魔族でございやして。……路地で行き倒れていたところを、お嬢さんに拾っていただきやした。生命の恩人に、ご挨拶が遅れて申し訳ありやせん」


(さっきの猫が魔族……?)


 起きたばかりの頭で、理解が追いつかなかった。


「……魔族って猫にもなれるの? 犬にもなれる?」


「へえ、あっしは猫だけでさ」


「神聖術が効かなかったから、魔獣かなとは思ってたけど、魔族だったなんて……」


 レギウスは、子供のころに聞かされた話を思い出し、整った顔立ちの魔族の青年をにらみつけた。


「おまえ、僕のことを食べない? 魔族は人を食べるんでしょ?」


「お嬢さんが生命の恩人じゃなかったとしても、人間は食べやせん。ついでに言うとミルクも生の魚も、どうにも苦手でやして」


(変な魔族……食べる気だったら、寝てる間に食べてるか)


「そうだ、親方は!? 現場の、胸に板が刺さってた……」


「けろりとしてまさあ。なんでも今朝はもう、若い衆を怒鳴りながら、足場を組み直してるそうで」


「……そっか」


 力が抜けて、上体がそのまま寝台へ落ちた。


(よかった。間に合ったんだ)


 ブレイジールは窓の外へ目をやったまま、落ち着いた声で言った。


「……ひとつ、伺っても」


「なに?」


「あの連中は、お嬢さんの名前も知りやせんぜ。行きずりの、赤の他人だ。自分が三日も転がると承知のうえで、どうしてあそこまでなさるんで」


 レギウスは、天井を見たまま、すこし考えた。


 考えて、それしか出てこないので、そのまま答えた。


「助けられる生命が、目の前にあったから」


「それだけで?」


「それだけって、一番大事なことでしょ」


 返事は、すぐには来なかった。


 ややあって、「……そうですかい」と、それだけが聞こえた。


 そのとき、階段の下が、にわかに騒がしくなった。


 どやどやと足音が上がってきて、遠慮がちに扉が叩かれる。宿の女将の声がした。


「坊ちゃん、起きなすったかね。その……お客ですよ。それもえらく、おおぜいの」


 扉が開くと、廊下いっぱいに人が詰まっていた。先頭は、見覚えのある大柄な男。あの親方だ。包帯のひとつも巻いていない。


「いた! この人だ!」


「親方……よかった、元気になって」


「おうよ、生きてるとも! あんたのおかげでな!」


 親方の後ろから、職人たちと、その女房や子供らが、われ先にと顔を出す。菓子の包み、花束、酒瓶までが、次々と枕元へ積まれていく。


「宿の女将さんに聞いてなあ。猫連れの、金髪のちっこい術士さんといやあ、この宿の坊ちゃんしかいねえって」


「捜したんだぜ。あんときゃ、礼を言う前に、煙みてえに消えちまうんだもんなあ」


「生命の恩人に礼のひとつも言えねえんじゃ、末代までの恥だってんでよ」


 口々に言われて、レギウスは寝台の上で小さくなった。


「あの、僕はただ、通りかかっただけなので……」


 そのときだった。


 親方の足元から、小さな女の子がひょこりと進み出て、レギウスの顔をじいっと見上げた。


「……とうちゃん。このおにいちゃん、おめめが赤いよ」


「勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~」2-4を読んでいただき、本当にありがとうございます!!


もし、この小説を読んで、すこしでも面白いと思っていただけたら

【☆☆☆☆☆】をタップして、★をいただけると嬉しいです!


ブックマークで応援していただけると、とてもとても嬉しいです!!

あなた様の応援が、何よりの原動力です。よろしくお願いいたします!!


※『記憶喪失勇者』のスピンオフです。本編未読でもお読みいただけます。

※ 本編の800年前の物語です。

※本編へのリンクはあとがきの下にあります!


挿絵をChatGPTに描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)





※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。

・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿

・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本編も連載中です! 四百年前――魔王を倒したまま姿を消し、伝説となった勇者がいた。人々は彼を"帰らずの勇者"と呼んだ。
『記憶喪失勇者』はこちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。