エピソード1-3
「ま……魔族……魔族じゃあっ!」
「待って! ブレイジールは僕の従者だ。子供たちのことと、この男は関係ない――」
声は、怒号に飲まれた。男たちが飛びかかり、ブレイジールを縛り上げる。従者は抵抗しなかった。暴れれば、主の立場が悪くなる。
「勇者さまっ、お下がりくだされ!」
村長が、ふたりの間に割り込んできた。
「あなたさまは、騙されておられるのじゃ! お若い勇者さまを言葉巧みにたぶらかし、従者に成りすまして入り込む。魔族とは、そういう生き物ですのじゃ! のう、皆の衆!」
そうじゃ、そうじゃ、と声が重なる。
(誰も、僕の話を聞こうとしない……)
村人たちの目に、悪意はなかった。あるのは善意だ。魔族に騙された気の毒な勇者を自分たちが救わなければ。その善意が束になって、レギウスの声を押し潰していく……。
◇
広場には、村中の人間が集まっていた。
杭に縛られたブレイジールを、松明の輪が囲んでいる。
「焼け! いますぐ焼いてしまえ!」
「子供らの仇じゃ!」
「魔族に情けは要らんぞ!」
杭のそばまで進み出ると、縛られた従者が、ちらりとこちらを見た。
「で、どうなさいやす、お嬢」
「……いま、考えてる」
「へえ。なら、待ちやしょう。焼かれるまでにゃ、まだすこし間がありそうでさ」
(焼かれる本人が、いちばんのんきなんだけど)
(ああ、そうか)
レギウスは、妙に冷静な頭で考えていた。
(ここで村長が魔族だと言っても、誰も信じない。真実でも、信じてもらえなければ、なんの意味もないんだ)
(なら……信じたくなる嘘で、勝負する)
すう、と息を吸った。
「みなさん、聞いてください!」
勇者の声に、広場が一瞬だけ静まった。
「僕の従者が犯人なら、勇者の名にかけて、僕がこの手で焼く。……でも、その前に、確かめさせてほしい。子供をさらった魔族は、人に化けている可能性がある。本当の犯人はいまも、このなかで人間のふりをして、いっしょに『焼け』って叫んでいるのかもしれない」
ざわり、と広場が揺れた。
村人たちが、隣に立つ者の顔を見る。何年も見てきたはずの顔が、急に作り物のように思えてくる。
「そういや、おめえ……ゆうべ、夜中にひとりで出歩いとったろう」
「な、なんじゃと!? おめえこそ、近ごろ飯の量が急に増えたじゃねえか」
「どいつが、化けとるんじゃ!」
疑いは、火の粉より速く燃え広がる。
「し、静まれい! 勇者さま、村の衆を惑わすようなことを……!」
「惑わせるつもりはない。確かめるだけだ」
レギウスは懐から、あの人形を取り出した。真紅のドレスの魔導人形を頭の上に高く掲げる。
(ごめんね。今夜だけ、僕の嘘に付き合って)
「これは、王都から持ってきた魔道具。“人に化けた魔族”に反応して、声を上げて知らせる。ひとりずつこの子の前に立てば、このなかに魔族がいるかどうかわかる!」
「な、なら、まずはその魔族から試すのが筋であろうが!」
村長が、震える指でブレイジールをさした。
「そうですね。ブレイジール」
名を呼ぶと、縛られたままの従者は、なにも聞かずに口の端だけで小さく笑った。レギウスは人形を、その端整な顔の前へ差し出す。
人形は、沈黙している――。
「ど……どういうことじゃ。そやつは魔族じゃぞ!」
「この魔道具が探すのは、魔族じゃない。“人に化けている”魔族だ」
レギウスは、村長をまっすぐに見た。
「ブレイジールは魔族だけど、いまは化けていない。正体を晒しているから、魔道具は反応しない!」
村人たちが、どよめいた。
「ミルカも! ミルカもためすっ」
母親の手を振りほどいて、ミルカが駆けてきた。レギウスの隣に、ちょこんと並ぶ。人形は、沈黙したままだ。
それを見て、村人たちがぞろぞろと列を作りはじめた。
「じゃあ、ひとりずつ。……ああ、そうだ。まずは村の代表から、お手本をお願いできますか?」
レギウスは、村長へ人形を向けた。
「ば……ばかばかしい! わしは村長じゃぞ! なんでわしが疑われなきゃならんのじゃ!」
「試せば、疑いは晴れますよ。それとも――」
一歩、踏み込む。
「試されると、困る?」
村長の動きが、止まった。
次の瞬間、老人の輪郭が、泥のように崩れた。皺だらけの皮膚が裂け、灰色の肌があらわれる。裂け目の奥から、縦に割れた黄色い眼が、ぎょろりとレギウスをにらんだ。
「――おのれ、小僧がァァァッ!」
灰色の腕が、鞭のようにしなった。
速い。避けられない。とっさに、使いこなせもしない剣の柄をつかんでいた。
視界が、金色にかすんだ。
ぱさり、と。空になった縄が、地面に落ちる音がした。
気づいたときには、レギウスの身体は宙にあった。何者かが彼女を横抱きに抱え、広場の端まで飛びすさっていた。
「……縄抜けは、猫の得意技でやしてね」
ブレイジールだった。縄の輪から猫の姿で抜け出し、人に戻りざま、レギウスを助けたのだ。
「お怪我は?」
「な、ない……」
「けっこう」
「いやぁぁぁっ!」
悲鳴は、その直後に聞こえた。
振り抜かれた爪の先に――ミルカがいたのだ。小さな身体が地面に叩きつけられ、転がった。母親の絶叫に、いくつもの悲鳴が重なった。
「勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~」1-3を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
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挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※『記憶喪失勇者』のスピンオフです。本編未読でもお読みいただけます。
※ 本編の800年前の物語です。
※本編へのリンクはあとがきの下にあります!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




