↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~(連載版)  作者: さいらす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/24

エピソード5-3

 詰所を出ると、リタは、もう一度深く頭を下げた。


「わたし、そろそろお屋敷に戻らないと……」


「トビは、僕が探してみるよ。どんな子?」


「十二で、わたしと同じそばかすがあって……左の手首に、黄色いリボンを巻いてます。わたしとおそろいなんですけど、お守りだって言って、寝るときもほどかないんです」


 リタの髪にも、同じ黄色いリボンが結んであった。


 リタは何度もこちらを振り返りながら、人混みのなかへ帰っていった。


 その背中が見えなくなると、レギウスは南の川べりへ足を向けた。トビが最後に行った場所だ。


 古い粉ひき小屋を、そのまま施療院にしてあるらしい。大きな水車がごとごとと回る脇に、継ぎの当たった服の人々が、長い列を作っている。


 列の後ろで、ブレイジールが足を止めた。


「あっしは、ここで待たせてもらいやす。薬草の匂いってのは、どうも鼻にきやしてね」


(猫だもんね)


 順番が来て、薄暗い部屋に入ると、梁から下がった薬草の束が、頭の上でいくつも揺れていた。奥から、白い上着を着た痩せた男が、穏やかな笑みを浮かべてあらわれる。


「おや、その紅い目……勇者さまでしたか。こんな下町まで、ようこそ」


「グレイン先生ですよね。ひと月前に、トビっていう子が、ここへ薬をもらいに来たはずなんだけど」


「トビ……ああ、そばかすの子ですね。薬を渡して、すぐに帰しましたよ。お姉さんにも、そうお話ししました」


 グレインは、棚へ手を伸ばした。


「勇者さまも、旅のお疲れが出ているでしょう。疲れによく効く薬草を、お分けしましょう」


 差し出された束を見て、レギウスは息をのむ。


 束の根元を縛っているのは、色のあせた、黄色いリボンだった。


「……ありがとう。でも、僕、どこでもすぐ眠れるから」


「それは、うらやましい」


 グレインはにっこりと笑って、束を棚に戻す。


 施療院から十分に離れてから、レギウスは口を開いた。


「薬草の束を縛ってたの、トビのリボンかもしれない」


 ブレイジールの眉が、わずかに上がる。


「すぐに帰したって話じゃ、ありやせんでしたか」


「うん。……でも、リボンひとつじゃ、証拠にはならない」


 レギウスは、水車小屋を振り返った。


「今夜、施療院が閉まったら、猫になって、なかを見てきて」


「へえ。じゃあ、お嬢は、城で待っててくだせえ」


「トビが怪我してたら、僕がいないと治せないでしょ」


 ブレイジールは空を仰いで、長々と息を吐いた。


(ため息だけは、いつも長いんだから)


◇


 夜更け、施療院の窓から、最後の明かりが消えた。


 ブレイジールは、通りを挟んだ倉の陰で、レギウスのまわりに結界を張った。外からは、そこに誰かがいることさえわからない。


「ここから一歩も出ないでくだせえよ。出たら、あっしにはわかりやすからね」


 それから、レギウスの外套のフードを、目深に引き下ろした。


「髪と目も、隠しといてくだせえ。夜でも、よく目立ちやすから」


「わかってる」


 金色の猫が、水車の軸の隙間へ、するりと消えていった。


 ブレイジールがいなくなってすぐに、川沿いの道を、大柄な男が荷車を引いてやってきた。引き手の先で、小さなランプが光っている。


 荷台には布がかぶせてあり、その下から、酒臭いいびきが漏れていた。男は施療院の裏口に荷車を止め、戸を叩いた。


 そのとき、積み上げた木箱の陰から、フードをかぶった少年が飛び出した。少年は荷台の布をめくり、寝ている男の腕をつかんで、引きずり下ろそうとする。


 大柄な男が、振り返った。


 灰色に濁った目。腐った水のような臭い。男は人とは思えない速さで少年の襟をつかみ、荷車に叩きつけた。


(出れば、ブレイジールが気づく)


 レギウスは足元の石を拾うと、結界の外へ踏み出した。


 投げた石は、男の背中に当たった。男が少年を放し、ぎこちなく首をめぐらせる。


「こっちだ!」


 次の瞬間、男が地面を蹴った。


 逃げようとした足がもつれて、レギウスは石畳に倒れ込んだ。腕を伸ばした男が、迫ってくる――。


 がしゃん、と音がした。少年が、荷車のランプを男の足元に投げつけたのだ。


 こぼれた油に火が走り、レギウスと男の間に、炎の帯が立った。男が、喉の奥でうなって後ずさる。


 施療院の裏口が、細く開く。


「戻りなさい」


(グレイン先生の声だ……)


 男はくるりと背を向け、荷台の酔っぱらいを肩に担ぐと、裏口のなかへ消えた。戸が、音もなく閉まる。


 レギウスは立ち上がって、少年に歩み寄った。


「ありがとう。大丈夫?」


「余計なことをするな……」


(余計なこと!?)


 少年は右手で左の二の腕を押さえていた。指の間から、血が滴り落ちる。


「見せて。治すから」


 レギウスが伸ばした手を、少年は払った。


「いらない」


「でも――」


 レギウスは、懐からハンカチを出した。少年は、今度は手を払わなかった。


 少年が押さえていた腕に白い布を巻いて、きつく結ぶ。ハンカチの隅の獅子の刺しゅうが、赤く染まっていく。


「あの医者には、もう近づくな。あそこへ入って、出てきた奴はいない」


「待って。きみは――」


 背後で、誰かが石畳を蹴る音がした。少年が、そちらへ顔を向ける。月明かりがフードの奥に差し込み、一瞬だけ、青い目が見えた。


 瞬きをしたときには、少年の姿は、もうどこにもなかった。


「お嬢!」


 駆けつけたブレイジールは、レギウスの擦りむいた膝を見て、黙り込んだ。


「大丈夫。……知らない子が、助けてくれたから」


 ブレイジールの目が、少年の消えた路地の奥へ向く。


「……トビは?」


「なかには、あの先生しかおりやせんでした」


「トビたちはどこへ……」


 ブレイジールは、閉ざされた裏口をにらんだまま、声を落とした。


「あの先生、魔族でも人でもねえ、得体の知れねえもんでやす」


「勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~」5-3を読んでいただき、本当にありがとうございます!!


もし、この小説を読んで、すこしでも面白いと思っていただけたら

【☆☆☆☆☆】をタップして、★をいただけると嬉しいです!


ブックマークで応援していただけると、とてもとても嬉しいです!!

あなた様の応援が、何よりの原動力です。よろしくお願いいたします!!


挿絵をChatGPTに描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)


※『記憶喪失勇者』のスピンオフです。本編未読でもお読みいただけます。

※ 本編の800年前の物語です。

※本編へのリンクはあとがきの下にあります!




※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。

・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿

・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本編も連載中です! 四百年前――魔王を倒したまま姿を消し、伝説となった勇者がいた。人々は彼を"帰らずの勇者"と呼んだ。
『記憶喪失勇者』はこちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。