エピソード4-2
(なにが、信心だ)
レギウスは、歩き出していた。
「お嬢」
袖を、つかまれた。
「ここでやったら、面倒なことになりやすぜ」
「わかってる」
つかんだ手を振り払って、列を割って進む。母親のそばに膝をつき、子供の額に手を当てた。
ひどく熱い。呼吸も浅い。
(かなり、危ない状態だ……)
母親が、驚いた顔でレギウスを見た。
「僕は、神聖術士だから」
それだけ言って、レギウスは目を閉じた。
(《超治癒術》)
眩しい白い光が、手のひらからあふれた。
光は子供の身体に吸い込まれていく。荒い息がすこしずつ静まり、赤かった頬から熱が引いていく。
代わりに、レギウスの喉の奥に、熱いものがせり上がってきた。
ほどなくして、子供が目を開けた。
「……ママ?」
母親が、声にならない声を上げて、子供を抱きしめた。
レギウスは立ち上がろうとして、目がくらんだ。身体が前のめりに倒れる。
「――お嬢」
石畳に顔がつく前に、抱き留められた。
薄れていく視界のなかに、壇の上が映った。
金髪の男が、こちらを見ていた。紅い目を、大きく見開いて。
その横で、興行師が両手を広げて叫んでいた。
「見よ! 奇跡だ! 勇者さまの聖水が、子供の生命を救ったぞ!」
◇
次の日の昼ごろ。
宿の窓から見える広場は、昨日よりもにぎわっていた。
“聖水の奇跡”の噂は、一晩で街じゅうに広まっていた。壇の前の列は倍になり、興行師の声も一段と太い。
「……お嬢、起きて大丈夫でやすか?」
「うん」
レギウスは寝台の縁に腰かけて、靴を履いた。身体が、ずしりと重い。
「昨日の子は?」
「けろっとしてやしたよ。朝から母親と手をつないで歩いてやした」
「……そう。治ってよかった」
「その代わり、手柄はぜんぶ聖水に持っていかれやしたがね」
「いいよ。目立たないほうがいいって言ったのは、おまえでしょ」
「へえ。……言いやしたっけねえ、そんなことも」
立ち上がると、すこしふらついた。ブレイジールが黙って、腕を差し出す。
「大丈夫」
「へえ」
ブレイジールの腕に寄りかかると、自分の身体がまだ熱っぽいのがわかった。
◇
「いたぞ! あの小僧だ!」
広場に出ると、興行師が壇の上から指を突きつけてきた。群衆が、いっせいにこちらを向く。
「そいつは、昨日、勇者さまの奇跡の場に紛れ込んで、邪魔をしようとしたのだ!」
(邪魔をした……?)
「その小僧は、勇者さまの名をかたる偽物だ! 昨夜、宿で恐れ多くも『自分こそが勇者レギウスだ』と名乗ったのだ!」
(昨夜は、宿の寝台で寝込んでたんだけど)
ざわめきが、波のように広がっていく。
「偽勇者だと!」
「あんな小僧が勇者さまの名をかたるなんて!」
「とんでもないガキだ!」
頭の上から、ブレイジールの小声が降ってきた。
「だから、面倒なことになると申し上げやしたぜ」
「うん。聞いた」
昨日の母親が、熱狂する人々のなかで気まずそうにうつむいた。
興行師が、金髪の男を振り返った。
「さあ、勇者さま! この偽物を、あなたさまの手で裁いてください!」
男は、その場に立ちつくしていた。
身じろぎもせず、レギウスを見ている。昨日、奇跡をおこなって倒れた“小僧”を。
レギウスは、色めき立つ群衆をかき分けて、壇の真下まで歩いた。そして、金髪紅眼の男に顔を向けた。
「その目」
大きな声ではなかったが、壇上の男には届いた。男の視線が、レギウスの紅い目で止まった。
「本当は、何色?」
男の手が、とっさに左耳へ上がった。
「なにをしている!?」
興行師が、その手首をつかんだ。
「ベン。よせ!」
ベン、と呼ばれた男は、興行師を見た。群衆を見た。それから、壇の下に目を戻した。
手を、振りほどいた。
外した耳飾りが壇の上に落ち、小さな赤い粒がころりと転がる。
紅かった男の目が、茶色に変わった。
どこにでもある、ただの茶色だった。
広場が、静まり返った。誰ひとり、声を出せなかった。
最初に動いたのは、興行師だった。銀貨の詰まった木箱を抱え上げ、壇の後ろから、階段を駆け下りる。
下りたところで、身体が、なにかにぶつかった。
「ぐはっ」
興行師は、勢いよく尻もちをついた。木箱が腕から飛んで、銀貨が石畳にぶちまけられる。
目の前には、うっすらと金色に光る壁があった。
「どこにいくんでやす」
ブレイジールが、壁をこんこんと叩いた。
「わ、私は、だまされたのだ! あの男が、最初に勇者だと名乗ったのだ! 私はだまされて――」
「へえ、へえ」
ブレイジールは、壁越しにしゃがんで、赤ら顔を覗き込んだ。
「こんなとこで捕まるようじゃあ、信心が足りやせんねえ」
群衆の後ろから、街の衛兵が駆けてきた。太った興行師は取り押さえられ、銀貨は、その場で回収された。
その隙に、壇上の“偽勇者”が装備を捨てて、逃げ出していた。
「勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~」4-2を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
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※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
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