エピソード4-1
大きな滝で有名なオスカドにレギウスとブレイジールが着いたとき、街は祭りの最中のように、にぎわっていた。
通りには花が飾られ、広場のまわりには屋台が並んでいる。
「ブレイジール! 焼き菓子が売ってるよ! ほら、あそこ」
「へえ、へえ。財布はあっしが持ってやすから、先にいかないでくだせえ」
(その財布、もともと僕のなんだけど)
言い返すより先に、足のほうが屋台へ向かっていた。
鉄板の上には木の実を練り込んだ焼き菓子が並び、隣の籠には、蜜で照りを帯びたものが積まれている。
「どっちにしやす?」
「両方」
「へえ。じゃあ、ふたつ」
「……やっぱり、木の実のをもうひとつ」
「みっつでやすね。……あっしの分は?」
「パンの屋台なら、向こうにあったよ」
ブレイジールは、なにか言いたげな顔のまま、主の財布から銅貨をつまみ出した。
買い物を済ませて、ふたりは広場のなかを覗く。
昨夜の雨で、まだ水たまりの残る広場の真ん中には、人だかりができていた。
人垣の向こうに組まれた壇の上に、ひとりの男が立っている。
背が高く、胸板も厚い。肩まで伸ばした金髪が陽光を受けて輝き、白いマントを風になびかせている。腰には立派な剣、左腕には金色の盾。
そして、その瞳は紅かった――。
「勇者レギウスさま、万歳!」
誰かが叫ぶと、広場じゅうから歓声が上がった。壇上の男は片手を上げてそれに応え、盾を頭上に掲げてみせる。女たちの黄色い声が、いっそう高くなった。
壇の下から花が投げられた。男はそれを宙でつかみ取り、白い歯を見せて笑った。
「こりゃあ、大した人気でやすねえ」
群衆のいちばん後ろで、ブレイジールがさして興味もなさそうに言った。
その隣で、焼き菓子の袋を抱えた本物の勇者が、爪先立ちで首を伸ばしている。
(勇者、レギウス)
自分の名前が、大きな声で何度も繰り返される。
(僕より、よっぽど勇者らしいな……)
「お嬢。あれ、お嬢の親戚かなにかで?」
「知らない」
「でやしょうねえ」
そのとき、群衆の一角がざわついた。娘たちの何人かが、こちらを振り返ったのだ。
「ねえ、あそこ」
「うそ。あんな綺麗な人、見たことない」
「勇者さまより……」
ひそひそ声が、あっという間に広がっていく。壇に向いていた娘たちの視線の半分が、レギウスの隣の男へ流れてきた。
「旅の方?」
「どちらからいらしたの?」
「お連れの坊やも、可愛らしいこと」
(坊や)
毎度のことなので慣れてはいるが、気持ちのいいものでもない。
ブレイジールは娘たちに囲まれながら、「へえ、へえ」と受け流している。
(壇上の勇者より目立ってどうするの)
レギウスは肩をすくめて、壇のほうへ目を戻した。
金髪の男が、こちらに気づいた。
紅い瞳が、娘たちに囲まれた美青年をにらみ、その隣の小柄な旅装の少年をちらりと見た。だが、すぐに興味をなくして、前列へ笑顔を向け直す。
その耳元で、なにかが光った。
(なんだ、あれ?)
レギウスは目を細めた。
男の左耳に、小さな飾りが下がっている。銀の輪に、赤い粒がひとつ。その石は、光を受けているのではなく、自ら光っていた。
(魔晶石だ)
魔晶石のはまった耳飾り。ただの飾りのはずがない。
(あの目、魔道具の耳飾り……)
◇
「お嬢、お嬢。そんなに見つめてると、あっちも気にしやすぜ」
娘たちをようやく振り切ったブレイジールが、隣に戻ってきた。
「あの人、魔道具を使ってる。耳飾りで、目の色を変えてるんだと思う」
「へえ。じゃあ、偽物で」
「金髪は本物みたいだけど」
「なるほどねえ」
ブレイジールは壇上を眺めて、なぜかにこにこした。
「いい商売でさ。目の色だけで、あれだけ人が集まるんだ」
「感心してる場合?」
「そりゃあ、しやすよ。だってお嬢、考えてもごらんなせえ」
ブレイジールは声を落として、耳打ちするように言った。
「偽物が派手に勇者をやってくれりゃあ、魔王の目もそっちへ行きやす。お嬢は目立たなくなる。こんな結構な話はありやせんぜ。放っときやしょう」
「……」
「あれ、黙りやしたね」
壇上の男が掲げている金色の盾に、ブレイジールが目を向けた。
「たしか勇者の神器は剣と盾のふたつ。……そういや、お嬢のは?」
「置いてきた」
「王都に?」
「うん。剣で戦わないんだから、盾なんて邪魔なだけだよ」
「へえ……」
「剣も置いていこうとしたんだけど。さすがにそれだけは持っていけって、怒られた」
「でやしょうねえ」
ブレイジールが、こらえきれずに吹き出した。
(おかしいのは、僕だってわかってる)
レギウスは腰につるした白い勇者の剣に目を落とした。鞘に収まったまま、旅に出てから一度も抜いたことがない。
ただ、持たされたから、持ってきた。それだけの剣だった。
◇
壇の前には、人が長く並んでいた。
列の先では、太った赤ら顔の男が、いかにも興行師といった調子で声を張り上げている。
「さあさあ、勇者さまの聖水だ! 勇者さまがひとつひとつにスキルで念を込めた、ありがたい聖水だよ!」
人々は銀貨を差し出し、小さな瓶を受け取っていく。瓶のなかで揺れているのは、どう見ても、ただの水だった。
列の途中で、騒ぎが起きた。
「お願いします……お願いします、勇者さま……」
若い母親が、腕のなかにふたつかみっつの男の子を抱いていた。子供の顔は赤く、目は閉じたまま、荒い息だけが聞こえてくる。
「家にあるお金はぜんぶ使って、聖水を毎日飲ませました。……でも熱が下がらなくて……どうか、この子を見てやってください……」
母親は壇の下にひざまずいて、子供を差し上げた。
「どうか、どうか……勇者さまのお力で、この子に奇跡を……」
壇上の男が、一歩、前に出た。
だが、その肩を、興行師の手がつかんだ。
興行師が代わりに壇の端まで進み、母親を見下ろす。
「奥さん。聖水を飲んで治らぬのはな――」
太い声が、広場に響いた。
「信心が足りぬからだ!」
母親の顔から、色が消えた。
その後ろで、壇上の男が目をそらした。金髪の勇者は、群衆ではなく、自分の足元を見ていた。
「勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~」4-1を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
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※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
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