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次の日、リリーとヴィヴィアン、もといアランは、編入生として紹介されるために教室前の廊下で待たされていた。
「ねえアラン君、ちょっと緊張するね!イケメンはいるかな?」
「シャルルとは同じクラスのようですが、他はどうでしょう」
「やっぱりシャルル様は一緒なのね!」
リリーはにっこり笑った。そうしていれば普通に可愛いのにと思ってしまう。
ちなみにここはヴィヴィアンのいたクラスだ。ヴィヴィアンは他国に住む親戚のアランと交換留学という設定になっており、学園の教師達も協力者である。
「二人とも入ってくれ」
担任に言われ教室に入ると、生徒全員から一斉に視線を向けられる。そして感嘆の声。注目を浴びたリリーは嬉しそうだ。
担任に挨拶を促されたので二人とも礼をする。
「アラン・カーティスです。よろしくお願いします」
「えっとぉ、リリー・ホワイトですぅ。みんなとぉ、あ、皆さんとぉ、仲良くなれたら嬉しいですぅ。うふふ。わからないこととか教えてくださぁい」
リリーは鼻にかかる甘ったるい声を出した。しかも体をクネらせ、上目使いで目をパチパチパチパチ。気合を入れすぎたせいかあまりに大袈裟すぎてかわいいから逆に遠ざかる。
そしてそれはそのまま生徒達の評価に繋がった。
「え?本当に男なのか?!」
「おいおい!かわいすぎるだろ!!」
「ヴィヴィアン様に似てるってのもヤバいな!」
アランへの賛辞(?)ばかりになってしまった。
リリーも黙っていれば十分かわいいのに、先ほどの媚びた挨拶に男性陣の興味は削がれてしまったようだ。しかも隣には男性に扮したヴィヴィアン。残念ながらヴィヴィアン=アランの圧倒的勝利である。
女性陣は男受け狙いのリリーに鼻白み、アランを絶賛した。
「キャーかわいい!本当に同い年なの?」
「まさに年下君って感じよね!かっこかわいい!」
「庇護欲そそられるわね!」
クラス中がアランの賛辞で湧いている。
まさか自分の存在が無視されるとは思っていなかったリリーは顔を歪ませワナワナと震え出した。
「なによ!私は聖女候補なのよ!もっと私に注目しなさいよ!」
ブワッと風が舞いあがるのでシャルルと共に魔力で押さえつける。昨日から何回やればいいんだと言いたくなった。
びっくりしたのはクラスの生徒達だ。魔力コントロールすらできていないのに、なぜ一番トップのSクラスに入ってきたといわんばかり。そこで担任が伝える。
「今見てわかるとおりリリー嬢は魔力コントロールができていない。だが魔力が高いのですぐに対処できるようSクラスにした。基本的に魔術師の称号を持つシャルル君と技能試験をパスしたアラン君が対応するが、皆も気を付けるように」
するとぼそぼそ聞こえてくる。
「おいおい、マジかよ。Sクラスなめんな」
「聖女候補っていうから期待してたのに、魔力コントロールもできてないなんて」
「さっきの聞いた?私に注目しなさいよ、ですって」
「あんなんでよく聖女候補に選ばれたな」
リリーが怒りでブルブルしている。暴発の予兆を感じたヴィヴィアンは慌ててリリーの手を取った。
「リリー嬢、落ち着いてください。初めてだから緊張してるんですよね」
するとリリーはパアッと顔を明るくし、いきなりヴィヴィアンの腕に絡みついてきた。
「やっぱりアラン君は私の見方ね!」
叫んだかと思ったら教室中を見渡した。
「アラン君は聖女候補である私のものなの!彼には近づかないでちょうだい!いいわね!」
いきなりの牽制である。そのせいで一気に不穏な空気が蔓延した。
朝の挨拶だけでクラス中の反感を買ったリリー。
腕にしがみつかれているヴィヴィアンは窓の外に目をやり、今日も空が青いなぁと現実逃避した。
初日の出来事は瞬く間に学園中に広まった。
おかげで聖女候補はヤバい奴という認識が定着し、誰もがリリーと距離をとる。どころか猫なで声ですり寄るリリーを怖がって逃げ惑う。聞いたところによると「取って食われそう」という心境に陥るらしい。
逃げられるリリーはしょっちゅう癇癪を起こし、魔力暴発を抑えつつも慰めるアランにべったりになってしまった。
朗報といえば、クリストファーから望みをひとつ叶えるという言質を取った幼馴染三人が、ようやくやる気をだしてくれたことか。
その結果――
「みんなぁ、おはよぉ!」
リリーの甲高い声が学園の玄関口に響き渡る。
神殿の豪華な馬車からぴょんっと飛び降りたリリーは、相変わらず貴族としてのマナーが身についていない。白い目を向けられているというのに、自身のおてんばぶりを気に入ってるようで「えへへ」と笑った。
そこへすかさず、四人の子息がリリーを取り囲む。
「おはようございます、リリー嬢。今日の髪飾りも素敵ですね」
「おはよう、リリー嬢。うん、華やかでいいよね」
「とても高価そうだな」
「うふふ!みんなぁ、ありがとぉ!」
驚くことに、王太子の側近達がリリーに侍ってちやほや持て囃すようになった。ここ最近毎朝行われている光景だ。
一見すると華やかな逆ハーレム集団。しかしそこにはシビアな現実がある。
『なに?えへへって。朝から苛つかせないでほしいんだけど』
『本人はあれでかわいいつもりですからね 』
『どこがかわいいんだ?』
『どこでしょうね』
ヴィヴィアンは当初、幼馴染達の口の悪さを注意していたが、愚痴ぐらい許してと言われ結局好きにさせている。
そして遠巻きにしている生徒達の反応といえば。
「ねえ見て。皆様のお顔が死んでるわ」
「褒めるところがなくて困っていらっしゃるのよ。いつもアクセサリーの話だもの」
「聖女候補が機嫌を損ねると魔力暴発するから、仕方なくよいしょしてるんだろ」
リリーの言動のヤバさから、放し飼いにしないよう目を光らせてくれていると思われている。
実際そのとおりなので否定はしない。
付け足すとすれば、リリーが聖女候補から脱落してしまうのは早すぎるので調整しているだけ。
「ねーアラン君はぁ、リリーを褒めてくれないのぉ?」
「……えっと、今日もかわいいですね、リリー嬢」
「やだもーアラン君たらぁ!うふふ!」
欲しがりリリーは上機嫌でアランの腕に絡みついてきた。
―――ムギュ
腕に二つの柔らかい弾力を感じる。どれほど強く押し付けているのか。
(当たってる。当たってるから……!)
いや、当たってるのではなく、“当てている”。
当然幼馴染達がこれを許容することは絶対ないので、この距離感はアラン限定になっている。
「ああ、またアラン様が捕まってるな。物理的に」
「歩きにくそう……」
憐れみの視線を受けながら、ヴィヴィアンは今日もリリーを引っ付けたまま学舎に向かった。
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