7.リリー視点
リリーが前世を思い出したのは、聖女候補になり神殿に迎え入れられたときだった。
前世のリリー、凜々花はひきこもりだった。
昔から後先考えず言葉を発することが多く、それが上から目線で自己中心的な発言だということに本人は気付いていない。中学生になるとそれが一層酷くなり、クラス中から煙たがられるようになった。それを凜々花はいじめだと判断し部屋からでなくなる。
すぐに癇癪を起こす凜々花に両親も困り果てて数年。部屋に放置してあったパンを食べて食中毒になり、呆気なくこの世を去った。
そんな凜々花がハマっていたのが“私、聖女候補になります!”というタイトルのファンタジー小説だ。
聖女候補に選ばれた主人公は学園に編入し、トラブルを解決したり友達を救ったりなどさまざまな経験を経て聖女に覚醒。最終的には王太子と結婚するという王道のシンデレラストーリーだ。
“わた聖”のなにがいいって、とにかくリリーがモテまくること。探し物を見つけた、肩がぶつかった、図書室で同じ本を手に取った、なんて単純な出会いから皆がリリーに惹かれていく。早い話が貴族令嬢とはかけ離れた奔放な姿に男性達が惚れこんでいくのだ。
中でもメインヒーローとなる金髪碧眼の王道王子クリストファー、その側近を勤めるクールな宰相補佐セレスティン、甘いマスクの魔術師シャルル、一途で真面目な近衛騎士ノア、この四人との距離が絶妙だ。
最終的にリリーはクリストファーを選ぶものの、それまでは誰を選んでもおかしくないほどの距離感で、とにかく溺愛されまくる。当て馬にはもったいないキャラ達だった。
そんな凜々花が“わた聖”に、しかもリリーに転生したことに気付いたときは歓喜した。
学園にいけば男性達からチヤホヤされることは分かっているのだから、早く編入したいと神官長に頼んだ。
そこで望みを聞かれたとき、リリーは考えた。小説では「皆の平和」と答えている。
「皆の平和ってなによ、バッカじゃない。冗談でもそんなくだらない望みなんて言いたくないわ。クリスの婚約者になったら逆ハーは解消されちゃうんだから、最初から皆を侍らせておけばいいのよ。そうしたらその分長く楽しめるわ」
こうして前代未聞、聞いた誰もがドン引きする望み、「イケメン達にちやほやされたい」が出来上がった。
リリーは知っていたのだ。聖女候補の望みが叶うことで、聖女に覚醒することを。だからどんな望みを口にしても叶えられると思った。
しかし逆に、小説に書かれていないことはわからない。
聖女候補の言動によっては不適合の烙印を押されるなんてことも、それによって聖女に覚醒できなくても問題なしと国が考えていることも知らない。
だからリリーは学園でちやほやされているうちに聖女に覚醒し、クリストファーの婚約者になって皆から祝福、ハッピーエンドを迎えると本気で思っている。
学園見学を終えて神殿に帰り着いたリリーは、先日自分の魔力が暴発したせいで崩れ落ちている建物を指差して言った。
「最初から私を学園に行かせてくれればあんなことにならなかったわ。ゴチャゴチャ言ってきたあんた達が悪いのよ。ヒロインの私を閉じ込めようとした罰ね」
自分が癇癪を起したせいとは思わないリリーは、怒りに震える神官達の前を通り過ぎる。
部屋に戻り、お茶を用意させたメイド達を追い出して、今日の出来事を振り返った。
「やっぱりみんなイケメンね!でもなーんか距離があるっていうか、小説の中ではもっとリリーにべったりだったのに、近づけるのはアラン君ぐらいじゃない。やっぱり出会いとかいろいろすっ飛ばしたせい?うーん。でも明日からも私と一緒にいるって言ってたし、ここは現実なんだから多少のズレはあるわよね。でも私はヒロインなんだから問題ないわ!ふふっ!明日が楽しみ!」
自分の望みのせいですでに小説から逸脱しているというのに、突っ込みどころ満載な発言を垂れ流した。
独り言はさらに続く。
「そういえば悪役姉妹が出てこなかったわね。初日から鬱陶しく絡んでくるはずなのに。フランチェスカはまだわかるわよ、クリスの婚約者なんだから。でもヴィヴィアンなんてウザいだけ。ただの幼馴染なのにいちいちしゃしゃり出てきて、でも結局はみんなに邪魔者扱いされてむしろリリーに庇われるっていう。発狂とかマジウケるんだけど。ま、そのうちでてきたらみんなに追い払ってもらえばいいわ」
そのヴィヴィアンの腕にべったり絡みついていたことをリリーは知らない。




