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「やだぁ!本当に“わた聖”の挿絵どおりじゃない!やっぱモブの神官じゃいまいちよね!」
それが聖女候補リリーの第一声だった。
リリーの言った“わた聖”というのはフランチェスカが書いた預言書、“私、聖女になります!”のことだと皆すぐにわかった。極秘任務にあたり、ヴィヴィアン達は預言書を徹底的に頭に叩き込んでいる。
保護者役の神官には意味不明だろうが、モブキャラ、つまり端役扱いされたことはなんとなくわかったようで彼の眉が不愉快そうにピクリと動いた。
リリーの見た目は預言書のとおりだった。柔らかそうなふわふわしたピンク色の髪にパッチリとした大きな瑠璃色の瞳、真っ白な肌とぷっくりした赤い唇、小柄ながら出るところは出ているという素晴らしいスタイル。さらには額の聖印がとても神秘的。リリーはまさに“可愛い”を体現していた。
けれど第一声ですべてぶち壊し。常識が足りていないのは明白だ。
笑顔を引きつらせたクリストファーが一歩進み出る。
「王太子のクリストファーだ。ホワイト嬢、学園編入を歓迎する」
「きゃあ!本物のクリスだわ!さすがヒーロー、イケメン度ハンパない!!」
いきなり叫んだリリーにヴィヴィアンがびっくりしていると、ピアスから念話が聞こえてきた。
『王太子の挨拶、まる無視?』
『しかも“クリス”呼びとは。恐れ入りますね』
『ヤバいよね。フランチェスカ様だって呼び捨てしないのに』
『私もそう思うぞ!なぜフランを差し置いてこんな女が!』
シャルルとセレスティンの会話にクリストファーが混ざる。
この会話を知らないリリーは急に鼻から抜けるような甘ったるい声を出した。
「クリス様ぁ、私のことはリリーって呼んでくださぁい!」
両手を胸の前で組み、上目づかいでにっこり笑う。少々わざとらしいが可愛い容姿とよく合っている。
最初からこれをやっていればコロッといく男性もいるかもしれないが、すでに素らしき姿を見た後では微妙だ。
近づいてこようとするリリーに、クリストファーは制止するように片手を前に出した。
「いくら聖女候補とはいえ君とは初対面だ。弁えてくれ。それから私のことを愛称で呼ぶのは控えるように」
「……はぁ?なにそれ。どうせ未来は決まってるんだから最初からちやほやしてって言ったのに、つまんないわね」
低い声でぶつぶつ言いながらふくれっ面をするリリー。それを無視して、クリストファーはヴィヴィアン達を順に紹介していく。
するとそのたびにリリーは歓声を上げ、抱き着かんばかりの勢いで寄ってくる。そのテンションたるや凄まじく、ぐいぐいくるので皆が後ずさり、今では部屋のすみっこに追いやられてしまった。
「本心を見せないクーデレ、セレス!最初は事務的で冷たいけど恋を自覚してからはリリーにだけデレるのよねぇ!“私のすべてをあなただけに捧げます”でしょ萌えるわぁ!!一途なノアは身を挺してリリーを暴漢から守ってくれるのよね!そのあと無言でぎゅうって抱きしめるのマジ最高!!シャルルはあまーい顔してすぐ手を出そうとするんだから!壁ドン顎クイに“僕だけを見て”なーんてやだもぉドキドキするぅ!!それでクリスに火がつくのよね!普段は紳士ぶってるくせに側近達牽制したりフランチェスカとのこと必死で言い訳したりどんだけリリーのこと好きなのよ!」
そう、これはすべて“わた聖”のエピソードだ。もちろん皆知っている。
けれどこうして口に出されるのはちょっと。
そう思い見てみると、幼馴染達は想像以上に顔を歪ませていた。預言書を読み返した時も同じような顔をしていたけれど。
『フランとのことを言い訳する?!ふざけるな!お前のことをフランに言い訳するんだぞ!』
『ふざけるなは僕が言いたいね。手なんか出すはずないから。ホント無理、気分悪い』
『私だって恋を自覚するなんてあり得ませんよ。いい加減にしてもらいたいですね』
『俺もやだ。抱きしめたくない』
一同苛つきを隠せないでいる。リリーが一人でキャッキャしているから余計だろう。
「アラン君なんていなかったはずだけど、かわいいから逆ハーに加えてあげるわ!」
なんて言っている。
目をランランさせているリリーからの圧がすごすぎて、ヴィヴィアンはさらに後ずさった。
『ねえ、僕達コレに付き合わないといけないわけ?』
『確かにこれは完全に予想を上回っていますね。殿下、私達にどうしろと?』
『私だってこれほどとは思わなかったんだから仕方ないだろ!』
『この状態でちやほやなんてしたら、舞い上がって何をするかわかりませんよ』
『そこはお前達がうまく調整するんだ!とにかく頑張ってくれ!』
『殿下は頑張らないのか?』
『やめろノア!余計なことを言うな!』
ものすごい勢いで念話している。このピアス、今後は大活躍しそうだ。
ただ表面的には無言で突っ立っているようにしか見えないので、様子を伺っていた神官がおずおずと口を開いた。
「あの、時間も時間ですし、当初の予定どおり学園の案内をお願いできますでしょうか」
「あ、ああ。そうだな。ではホワイト嬢、案内しよう」
「もーう、リリーって呼んでって言ったのにぃ。照れ屋さんなのね」
「照れてないわ」
「じゃあ早速みんなで行きましょ!うふふ、楽しみだわ!ね、クリス様ぁ!」
なにを思ったのかリリーはいきなりクリストファーの腕に絡みつこうとした。その瞬間、クリストファーが手をバシッと払いのける。
「先ほども言ったが勝手に愛称で呼ぶな!まとわりつくのもやめろ!不敬だぞ!」
おいおい、ちやほやはどうなった。




