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「……私、ちょっと聞き間違えちゃったかも」
「うん、僕もそうかも」
「そうですね。殿下、もう一度言ってもらえませんか?」
「ああ、いいぞ。聖女候補の望みは“イケメン達にちやほやされたい”だ。口に出せるってすごい神経だよな」
執務室が静まり返った。
「あの、殿下。それは本当ですか?」
おずおずと聞くヴィヴィアンに、クリストファーは大きく頷く。
「気持ちはよくわかるぞ。あまりにバカバカしいだろ?でもヒロインだからちやほやされるのが当たり前、だったら最初からイケメン達を侍らせろと言っている」
「……その女、ヤバくない?」
「私もそう思う。だがそれが聖女候補の望みなんだ。ちなみに検査したが頭の中も異常なし。いたって健康体」
「「「「…………」」」」
「お前達の言いたいことはわかる。そんな怪しい女さっさと聖女候補から脱落させろ、だろ?だがすぐに不適合とするわけにはいかない。最低半年は聖女候補の“望み”を叶える必要がある」
それを怠ればこの先聖女候補が生まれる未来が潰えてしまうと、初代聖女の手記が神殿に残っているそうだ。だからいくら聖女候補が怪しかろうとただの痴女だろうと、放っておくわけにはいかないらしい。
「手記のとおり半年ほどは様子を見る。今はまだ候補に選ばれて舞い上がっている可能性もあるしな。改心すればいいが駄目なら駄目で仕方ない。とにかく今回の聖女候補の望みは “イケメン達にちやほやされたい”だ。もう一度言おう。“イケメン達にちやほやされたい”」
やけに強調してくるなと思っていると隣のシャルルが息を飲んだ。
「まさか、僕達にその女をちやほやしろって言うんじゃないよね」
「さすがシャルル。そのとおりだ」
「ちょっと待ってよ!冗談きついでしょ!」
「残念ながら本当だ。今回お前達に課せられる極秘任務だな」
シャルルが苦虫を噛み潰した顔になる。
「それじゃフランチェスカ様の預言書のとおりになっちゃうじゃないか」
「いや違う。惚れこんでちやほやするわけじゃないだろ。あくまで任務だ。それに私はそこに混ざらないからな」
「はあ?!なにそれ、ずるいじゃん!」
「王太子にずるいって言うな」
納得できないノアも横から口を挿む。
「俺は殿下の護衛だから無理だ」
「ノア、お前は当分の間私の護衛から外す」
「嫌だ」
「諦めろ。これは任務だ」
ノアがムスッと黙り込み、眉間に皺を寄せたセレスティンが口を開く。
「預言書のとおりなら、神官達がこぞって聖女候補に群がるはずですが」
「その神殿から要請がきたんだ。こっちでは面倒みきれないから頼むとな」
クリストファーはバサッと書類を机に投げた。報告書のようだ。
「聖女候補の名はリリー・ホワイト。母親と二人暮らしの生活は楽ではなかったが、笑顔が絶えず周囲の評判もよかった。聖印が現れたことで、父親のホワイト男爵がいったん引き取り、現在は神殿預かりになっている。ここまではフランの預言書のとおりだな。だが神殿での生活が始まると一転して我儘娘に成り下がった。このあたりで前世の記憶?が戻ったらしく、おかしな言動が増え始め、気に入らないと癇癪を起こすようになった。魔力コントロールができていないため暴発し、神殿は参事に見舞われているそうだ」
事前情報だけで頭が痛い。大丈夫なのかと困惑気味のヴィヴィアンの横で、他三人が白けた顔をしている。
「そんな状態で外に出すのは不安しかないが、本人が学園に通いたいと言い張っている。あまり無体な真似をすると半年経つ前に候補から脱落してしまう恐れがあるから仕方がない。お前達は学園にいる間、聖女候補をちやほやするんだ」
あまりにもくだらない任務に誰も返事をしない。
「あとできれば他の生徒を巻き込みたくないから、お前達だけで頑張ってくれ」
「さっきからすごい他人事みたいだけど、殿下も一緒にいればいいよね」
「そうですね。別にちやほやしなくても様子見は必要ですし」
「そうだ。殿下も加わるべきだ」
三人に詰め寄られたクリストファーは焦って首を振る。
「いや、私は、ほら。聖女候補は王妃になると妄言を吐いている、つまりは私狙いだ。その私が一緒になって侍るわけにはいかんだろ。なによりフランに誤解されるのは絶対嫌だ!」
フランチェスカの名前がでたところでセレスティンが額に青筋を立てた。
「まさかこのために、私とフィオナの婚約を先延ばしにしたのですか?!」
「まて、誤解だ!さすがにそんなことはしないぞ!あれはお前の母親が原因だろう?!たまたまだ!」
睨み付けるセレスティンにクリストファーはたじたじになっている。
フィオナとはセレスティンが口説き落とした伯爵令嬢で、セレスティンはすぐにでも婚約したがったが占星術にはまっている母親に“婚約の日取りは半年後が吉日だから”とおあずけを食らっていた。
「どのみち王太子であり婚約者のいる私が他の女性と行動を共にするのは不味い。だから信頼のおけるお前達に頼むんだ」
「自分だけ逃げたな」
「ずるいよね」
「許し難いですね」
舌打ちする三人に、クリストファーは苦笑する。
「これも仕事だと割り切ってくれ。ともかく相手は腐ってもヒロイン。お前達四人に任せたぞ」
そう言われてヴィヴィアンは目を丸くした。
「四人?四人ってどういうことです?私は関係ないですよね?」
「いや、お前も関係大ありだ」
「……あまり関わりたくないんですけど」
「聖女候補の癇癪が凄まじいらしいんだ。なまじ魔力が高いだけにな。魔術の腕があるお前がシャルルの補佐に入って暴発を抑えてくれ。それにある程度、侍る人数をそろえる必要がある。こいつら三人とお前だ」
「ちょっと待ってください!侍るってなんですか!一緒にいたらそれこそ預言書のとおりになっちゃうじゃない!」
「そうならないためにヴィヴィ、お前は男装しろ」
「え?」
「男装してちやほや要員に加われ」
「は?」
「セレスはクールなお兄様枠、ノアは精悍な騎士枠、シャルルはお色気枠。お前はかわいい年下枠だ」
呆然としているヴィヴィアンの横で、シャルルがクスクス笑いながら覗き込んできた。
「一緒に頑張ろう?かわいい年下君?」
やめて!顔が近すぎるのよ!




