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それから3日後、ヴィヴィアンとシャルルは正式に婚約した。
イチャイチャ作戦を決行する時点で両家とも同意していたのでとんとん拍子だ。
シャルルの家族からはものすごく歓迎された。後継ぎのシャルルがヴィヴィアン以外とは絶対結婚しないと頑なでどうしようもなかったため、ようやく一安心できると喜んでいた。
ヴィヴィアンの魔術の腕も買ってくれており、精進し続けておいてよかったと思った。
ヴィヴィアンの両親からはものすごく謝られた。
後継制度撤廃の話はクリストファーから聞かされるだろうと思い込んでいたそうだ。
クリストファーにしてみれば公爵家の後継問題に口を出すのは越権行為になるし、家族できちんと話し合うだろうから言わなかったとのこと。そりゃそうだ。
両親はずっとヴィヴィアンの恋心を慮っていて、せめて学生の間は自由にさせてあげようと婚約者を作らなかったらしい。イチャイチャ作戦決行時に二人がやたらにこにこしていたのは、シャルルと晴れて恋人になれることを喜んでくれていたからだそうだ。
「シャルル君と幸せになりなさい」
そう言われて思わず泣いてしまったヴィヴィアンを、両親が笑顔で抱きしめてくれた。
姉フランチェスカにも通信機で報告したら自分のことのように喜んでくれた。幼い頃から見ていただけに、ヴィヴィアンとシャルルの関係をずっと心配してくれていたのだ。
「まだ子作りしちゃダメよ」
とんでもないことを言ってシャルルを苦笑させていた。
学園では婚約が明らかになったことで祝福の言葉をもらう中、特に令嬢達からの熱量がすごかった。
シャルルは甘い顔立ちだが容赦がなく、寄ってくる令嬢達を片っ端から振っていたし、ヴィヴィアンはヴィヴィアンで男性を遠ざけていた。
それがお互いのためだったと知られ、幼馴染の純愛として令嬢達からキャッキャと騒がれた。
そして執務室では。
「お前らな、いくら休憩中とはいえ目のやり場に困る」
クリストファーの言葉にシャルルと二人できょとんとする。別に何もしていない。ただソファに横並びに座って手を繋ぎ、隙間もないほどべったりとひっついているだけだ。
「お前ら気付いていないだろうが、空気が甘ったるいんだ。こっちが恥ずかしくなる」
「そんなこと言われても僕達二人になれる時間がないんだ。これでも抑えている方だよ」
なにせシャルルは王太子補佐と魔術研究所の責任者を担っているので忙しすぎる。ヴィヴィアンもできるだけ手伝えるように城に日参しているが時間が足りない。
クリストファーは机の上に置かれた書類の束を見た後、執務室の奥の扉を指差した。
「休憩時間を10分追加してやる。それまであっちいってろ」
二人で奥の扉に入った瞬間、シャルルがクスクス笑う。なんだかんだで優しいクリストファーにああ言えば二人の時間を作ってくれると予想していたのだ。
「ね?言ったとおりでしょ?」
「そうだけど、殿下達の前では恥ずかしかったわ」
「ヴィーは二人きりになりたくなかった?」
「もちろんなりたいわよ」
シャルルは嬉しそうに笑いヴィヴィアンをひょいと抱き上げ、ソファに座って膝の上にヴィヴィアンを乗せる。それからあまーい笑みを浮かべてヴィヴィアンにチュッとキスをした。
「さすがに殿下達の前でキスはできないから、ここでいっぱいしてもいい?」
「もうしたくせに」
そう言いながらヴィヴィアンはクスクス笑い、シャルルのキスを受け入れた。
ヴィヴィアンは幸せいっぱいだった。
ずっと蓋をしていたシャルルへの想いを解放できたのだ。シャルルが微笑んでくれると嬉しくなる。抱き締められると幸せになる。キスをするとドキドキする。当たり前のように一緒に過ごせることが嬉しくてたまらない。
だから毎日浮かれていた。
リリーが再び鬼の形相になり、“悪役令嬢のくせに!”とブチギレてくるのも、魔力暴発を抑え込むのも全然気にならなかった。慣れた、といってもよいが。
とにかく毎日が楽しくて仕方がないヴィヴィアンは、リリーのことは正直どうでもよくなっていた。
だからクリストファーに聞かされた話には驚きしかなかった。
「え?じゃあリリー嬢が魔力封じの腕輪を手に入れたってことですか?」
「そうだ。わざわざ闇市まで出向いてな」
王太子の執務室、クリストファーがうんざりした顔で頷いた。
良くも悪くもリリーは監視対象なので行動が筒抜けだ。それを知らないリリーは意気揚々と腕輪を手に入れたらしい。
魔力封じの腕輪は本来、フランチェスカによってリリーが嵌められるものだ。
物語の後半、嫉妬に狂ったフランチェスカが使用人に命じて闇市で手に入れ、学園の帰り道にリリーを攫って装着させる。魔力を封じられたリリーは他国の奴隷商に売られそうになるものの、間一髪でクリストファーに助け出され二人の愛が強固なものになる。いわゆるクライマックスシーン。
その結果、首謀者のフランチェスカは国外追放処分が下され、すでに心を病んでいたヴィヴィアンは山奥に幽閉されるのだがそれはさておき。
闇市なんてそう簡単に足を踏み入れられる場所ではないが、預言書の中味を知っているリリーであれば取引できてしまったのだろう。その闇市は騎士団によって密かに摘発されたそうだが。
「女性一人で出向くにはかなり危険な場所です。さすがに無謀すぎるのでは」
セレスティンのもっともな意見に皆同意しているとクリストファーがフンと鼻を鳴らした。
「素行の悪い異母兄が付き添ったそうだ。協力関係になったらしい」
ホワイト男爵家にはリリーと腹違いの兄が二人いるが、優秀な兄と比べられた次男は劣等感を拗らせているらしく、リリーの馬鹿な計画に乗ったらしい。
その計画とは、ヴィヴィアンに魔力封じの腕輪を使い奴隷商に売り渡したら、将来リリーが王妃になった際に爵位をあげる、というもの。
「ヴィヴィさえいなくなれば、自分は予定どおり聖女になって王妃なるんだと」
「…………」
あまりの言い分に言葉でも出ない。異母兄よ、なぜそんな話を信じたのか。
隣のシャルルから冷気が漏れた。
「ヴィーを売ろうなんてありえないんだけど。ねえ、もうよくない?魔力封じの腕輪を持ってるんだからさっさと牢に閉じ込めようよ」
「残念ながらあの手の魔道具は使用しなければ拘束できない。それにまだ額の聖印が消滅してないだろ」
そう、そうなのだ。
リリーの聖印はイチャイチャ作戦のおかげで濁りに濁っている。けれどあと一歩が足りない。
魔力暴発でストレス発散ができちゃっているのか、謎のポジティブシンキングで未だに聖女になれると思い込んでいるからなのか。
「ただこうなった以上、呑気に学園に通わせている場合ではない。そこでだ。今回ヴィヴィにはおとりになってもらって……ってやめろシャルル!殺気を向けるな!」
「その案、僕が賛成すると思う?」
「私だって反対したんだ!だがマジェスター家の次期当主と婚約するならそれぐらいの対処はできるだろうと言われて仕方なくだな」
「っ!なんでそんな!」
「落ち着きなさい、シャルル」
冷静なセレスティンがシャルルを止める。
「レッドフォード家、マジェスター家、それぞれに縁を結びたい家が多くありましたからね。二人の婚約にケチをつけたいだけですよ。シャルル、ヴィヴィを守り切る自信はありませんか?」
「あるに決まってるでしょ。指一本触れさせないから」
「待て、それでは駄目だ。魔力封じの腕輪をヴィヴィに使わせないと捕縛できな………怖っ!」
ブチギレ寸前のシャルルにクリストファーが戦々恐々とする。
シャルルを宥めようとヴィヴィアンは微笑みかけた。
「大丈夫よ、シャル。腕輪をつけられてもすぐ外してくれるでしょ?それにノアだっているわ」
ヴィヴィアンが目を向けるとノアがこくりと頷く。
「もちろんだ。ヴィヴィは俺が守る」
「ちょ、ノア。それ僕の台詞だから」
「大丈夫だシャルル。任せろ」
「それって天然?それともわざとなの?」
複雑な顔をするシャルルにヴィヴィアンが笑い、空気が和らぐ。
そこからは皆でひざを突き合わせ、リリーをおびき出すための計画をじっくり練った。
けれど翌日、そんな綿密な計画は必要なかったと思い知らされる。




