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シャルルの研究室に辿り着いたヴィヴィアンは震えそうになる手でノックをする。気持ちが逸って仕方がない。けれどシャルルからの返事はなく、もう一度ノックをしてから扉を開いてみる。
雑然とした室内の中、シャルルは一人でぼんやりと窓の外を見ていた。
「シャルル」
ヴィヴィアンが声をかけるとビクッと肩が揺れ、振り返る。
「え?ヴィヴィ?」
(シャルル……)
感知力に優れたシャルルが名前を呼ばれるまで気づかないなんて初めてだった。
「ヴィヴィ、どうしたの?なにかあった?」
心配そうな顔をしているシャルルだが、目が赤い。それを見たら居ても立っても居られなくなった。
「シャルル、私は知らなかったの!後継制度が撤廃されたことも、シャルルが褒賞としてそれを望んだことも全然知らなかったの!この指輪にどんな想いが込められているのかもわからないわ!だからシャルルの口からきちんと話して!」
シャルルの服を掴んで引き寄せ、さきほど嵌め直された指輪を見せる。
目を見張ったシャルルは、ヴィヴィアンが差し出した指輪に目を向けた。
「……そうだね。僕は言葉にするのが怖かったんだ。だって一度失敗してるから」
シャルルは自嘲気味に笑った。
「僕はずっと、後継制度を撤廃させることしか頭になかったんだ。ヴィヴィと過ごす未来しか考えられなくて」
「私と過ごす未来…」
「うん。だから殿下から恋人のふりをしろって言われたとき、ようやく制度が撤廃できたんだってわかった。僕は嬉しくて。だけどヴィヴィはずっと困ってるだけだったから」
「……私はなにもわかってなかったの」
「僕も言葉にできなかったんだ。以前のことがあってヴィヴィを泣かせちゃったから。あのときからヴィヴィはもう僕のこと好きじゃないかもって……。ずっと苦しくて、だけど諦めきれなくて、あんな形で指輪を渡した。リリー嬢の前でなら拒否できないから」
卑怯だよね。
そう言いながらシャルルは指輪が嵌められたヴィヴィアンの手を握りしめる。
「僕の気持ちはずっと変わらない。大好きだよ、ヴィヴィ。でももしヴィヴィの気持ちがあのころと違うなら、もう一度僕のことを好きになって?」
懇願するようにまっすぐ見つめるシャルルにたまらなくなる。掴まれた手を引っこ抜いて、シャルルの胸をポカポカ叩いた。
「シャルルの馬鹿!もう一度じゃないの!私はずっとシャルルのこと……!でもシャルルがあのとき、私のことをただの特別って言ったから!」
「ただの特別ってなに?僕にとってヴィヴィはすごく特別だよ。好きって言葉じゃ足りないくらい特別で大好き」
「なによそれ!私だってシャルルのことが大好きよ!」
シャルルは目を見開いた後、ふわりと笑った。ヴィヴィアンの体を引き寄せてぎゅっと抱きしめる。
「ヴィヴィ、嘘じゃないよね?でももう嘘だって言っても離してやんない」
「嘘じゃないわ。私だってずっとずっと好きだったんだから」
「……嬉しいよ、僕の大切なヴィヴィ」
シャルルからグズッと鼻をすする音が聞こえる。昔はよく一緒に泣いて笑った。思い出すと涙がじわじわ溢れてきて、シャルルの背中に腕を回して抱きしめ返す。
(ずっと勘違いしてたなんて。私ったらバカね……)
特別な幼馴染なんかじゃなかった。シャルルはずっとヴィヴィアンのことを好きでいてくれていたのだ。
「どうして……言ってくれなかったの?褒賞のために、人工魔石を開発してるって」
「どうなるかわからないのに軽々しく口にできなかったんだ。何度も失敗してその度に落ち込んでたし、そんな思いヴィヴィにはさせたくなくて。あのときはそれが正解だと思ってた」
シャルルはヴィヴィアンの濡れた頬を撫でた。
「言葉が足りなくて、不安にさせてごめん」
「っ……もう、いいの。シャルル……が……いてくれる……なら……」
涙がとまらない。こんな温かい未来が待ってるなんて思ってもみなかった。
ぽろぽろと零れ落ちる涙を、シャルルが優しく拭ってくれる。見上げると彼は優しく笑い、そして初めてキスをした。
唇に触れるだけの優しいキス。それだけで幸福感に包まれる。
ゆっくりと離れたシャルルは、ヴィヴィアンをうっとりとした瞳で見つめた。
恥ずかしくなって少しだけ目を伏せると、シャルルはクスッと笑って自分の額をヴィヴィアンの額にコツンとくっつけてきた。幼い頃を思い出させるその行為に、二人でクスクス笑う。
「大好きだよ、僕のヴィー」
「シャル、私も大好き」
見つめ合った二人は微笑んだ後、もう一度甘いキスをした。




