11
その日、ヴィヴィアンは幼馴染達とともにクリストファーの執務室で待機していた。
リリーが学園に通い出してちょうど半年、ようやくこの日がきた。
祈るように両手を握りしめているヴィヴィアンにセレスティンが笑う。
「ヴィヴィ、大丈夫ですよ。映像をみれば彼女は確実に不適合になります。アランの出番はなくなるはずですよ」
「そうよね。大丈夫よね」
そう言いながらも不安で落ち着かないヴィヴィアンに三人が宥めていると、ようやくクリストファーが戻ってきた。
ハラハラしながら宣告を待つヴィヴィアンに、クリストファーはしっかり頷いた。
「安心しろ、ヴィヴィ。リリー・ホワイトは聖女不適合と断定した。ちやほや期間はこれで終わりだ。ご苦労だったな」
その言葉に四人はほうっと息を吐いた。
「いろいろ要因はあったがアランへの痴女ぶりに全員ドン引いて、それが決定打になった。ヴィヴィ、よく頑張ったな」
(うん、うん!本当によく頑張ったわ、私!)
これでようやく解放されると喜びを噛みしめていると、隣のシャルルがクスッと笑う。
「お疲れ様、ヴィヴィ。だけどヴィヴィの男装姿が見れなくなるのは残念かな」
「じゃあ今度はシャルルが女装してみなさいよ」
「そんなことしたら絶世の美女になっちゃうけどいい?」
「絶世の美女はいいすぎでしょ」
ヴィヴィアンとシャルルが笑っている横で、セレスティンが深刻な顔をしている。解放されたにしては表情が硬い。
「どうしたの?セレス」
「気になることがあります。……殿下、先ほどちやほや期間はこれで終わりと言いましたね。この次はなにが始まるのですか?まさかこのままというわけではないのでしょう?」
「え?ちょっと待ってセレス。どういうこと?」
ヴィヴィアン達がびっくりするとセレスティンが残念そうに言った。
「不適合になったのならちやほやはなくなります。そうすれば望みが継続できないので、いずれリリー嬢は自然に聖女候補から外れるでしょう。ですがあんな女性をいつまでも放置しておけません」
「それは、そうだけど」
「早々に聖女候補からも脱落させる必要があります。ですよね、殿下?」
セレスティンにじっとみられたクリストファーは「うっ」と図星を刺されたように呻いた。目を見開いたヴィヴィアン達は一気に詰め寄る。
「殿下、どういうことですか!」
「これで終わりじゃないのか?」
「また僕達になにかさせるつもり?!」
「お、お前ら近いぞ」
「当たり前じゃないですか!やっと解放されたと思ったのに!」
「仕方ないだろう。セレスの言うとおり、あんなのを放っておくわけにはいかないんだ。魔力コントロールもできないままだし。とはいえ拘束するほど何かしたわけではない。そこで次の任務だ。題してイチャイチャ作戦」
「……なにそのネーミング」
「イチャイチャってなんなのよ……」
「ちやほやと違うのか?」
まだ何かあるのかとヴィヴィアン達はうんざりした。
けれどなぜかクリストファーはヴィヴィアンだけをじっと見てくる。なにを言うつもりだと身構えたとき、クリストファーはとんでもないことを言いだした。
「ヴィヴィ、お前はシャルルの恋人になれ」
「………………は?」
「シャルルと恋人のふりをしてリリーの前でイチャイチャしろ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!いきなり何言ってるのよ!なんでそんなのが必要なのよ!」
声を張り上げたヴィヴィアンに、クリストファーはしれっと言う。
「リリーはイケメンにちやほやされたいだろ?それを逆に作用させれば脱落しやすい。お前とシャルルがリリーの前でイチャつけば、リリーが怒り狂って早々にカタがつく」
ヴィヴィアンは空いた口が塞がらない。隣を見るとシャルルも目をまんまるにしている。さすがにびっくりしているようだ。ヴィヴィアンからの視線を感じたシャルルと目が合いそうになり、さっと逸らす。
ヴィヴィアンにとってこの任務、男装なんかよりよほど抵抗がある。シャルルはダメだ。ヴィヴィアンがしんどい。
「な、なんで私とシャルルなの?セレスがフィオナ様とイチャつけばいいじゃない!婚約間近でしょ?!」
「ヴィヴィ、私はこの件にフィオナを巻き込まないと殿下に一筆もらっています。それに何かあったときフィオナの魔力では対応できません」
確かにそのとおりだ。
それにセレスティンは大切なフィオナをリリーに近づけたくないだろう。思わず口走ってしまったが、フィオナを巻き込むのはヴィヴィアンも本意ではない。
他に何か案がないかと焦っていると、クリストファーがノアを顎で刺した。
「別にノアでもいいんだぞ」
「え?ノア……?」
ヴィヴィアンはノアを見る。無理めだと思うが一応聞いてみた。
「ね、ねえ、ノア。私と恋人のふりをするとしたら、何をするの?」
「ヴィヴィと?それならまずはお前の魔力と戦ってみたい。その後は反省会だな。どこが戦いのポイントになったか、意見交換は重要だ。それから朝と夜の鍛錬を一緒に」
「もういいです」
肩を落としたヴィヴィアンにクリストファーが笑う。
「な?シャルルが一番適任だろ?お前達には婚約者もいない。それからシャルルのマジェスター家、お前のレッドフォード、両家にはすでに断りを入れてあるから安心しろ」
「……どうしてそこまで話がすすんでるんですか」
「勝手に決めるわけにはいかんだろう。期限はリリーが聖女候補から脱落するまでだな。二人のイチャイチャ度合いで決まる。まあ頑張れ」
「まあ頑張れってなによ!他人事だと思って!」
クリストファーを睨みつけていると、ふわりと背中に両腕を回される。びっくりして見上げると、シャルルが甘い笑みを浮かべてヴィヴィアンを抱き込んでいた。二人の間には多少の空間が残されているとはいえ、あまりに近すぎる。
「よろしくね、ヴィヴィ」
「ちょ、ちょ、ちょっとシャルル!」
「ヴィヴィ、僕達は恋人同士なんだから、かわいく照れてほしいな」
「な、なななに言ってるのよ!なんで今そんなことしなくちゃいけないのよ!」
「だって慣れておいた方がいいでしょ」
ヴィヴィアンはシャルルを押しのけようとするがビクともしない。いつの間にこんなに男性的な体に、いやダメその思考はまずい。でも顔も近くていい匂いもするし、ってだからダメだってば!
離れようとするヴィヴィアンと楽しそうなシャルルを見て、クリストファーが抑揚に頷いた。
「確かに慣れておいた方がいいな。ヴィヴィ、もうちょっと恥ずかしそうにしろ。もじもじするんだ」
「そうですね。恋人というにはぎこちないですね。もう少し肩の力を抜きましょうか」
「顔が赤いのはいいな」
勝手なことを言いだす男達に、ヴィヴィアンは叫んだ。
「そんな演技指導!頼んでないから!!」




