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1話 最悪の結婚式

キラキラと太陽の光を受けて輝く、立派な王宮。


その中で、世界一幸せな花嫁がティアラを授けられていた。

ふんわりとした優しいベージュの髪に、黄金の飾りがついたティアラがよく似合っている。


「君が世界で一番美しいよ。君は私の宝だ、ラヴェーナ」


花嫁の隣には、同じ太陽の形をした王冠をかぶる王子。

燃えるような赤い髪は、ここヴァルノール王国の王族の証だった。


「一生、おそばに置いてくださいね、エリオス様」


花嫁ラヴェーナの淡い水色の瞳は潤み、エリオスをまっすぐに見つめていた。


「私は生涯、この女性――これからはラヴェーナ・ヴァルノールとなる彼女だけを愛し、二人でこの国を支えると誓う」


エリオスの熱い言葉に、集まった人々から大きな歓声が上がる。

ラヴェーナの瞳には、また涙が浮かんだ。


幸せそうな二人の姿に、誰もが喜び、大きな祝福を送っていた。

誰もが幸せだった。



――たった一人を除いて。





「あら、元婚約者様もいらっしゃってるみたいよ」


「こんな晴れの日に、あんなに暗いお顔をなさってるなんてねえ」


令嬢たちの笑いものになっているのは、リュネット・シルヴァレン。

長い銀色の髪に、輝く黄金の瞳。

身にまとったグレーのドレスも、一目で上等なものだと分かる。


誰が見ても、美しく気品のある令嬢だった。

ただ、その表情だけは暗い。


当然だ。


最愛の人が、他の女性と結婚する姿を見ているのだから。





リュネットはかつて、ヴァルノール王国の王位継承権第一位である王太子エリオスの婚約者だった。

だが、その婚約はあっけなく破棄されたのだ。


リュネット・シルヴァレンは、王国でも指折りの大貴族の一人娘だった。


シルヴァレン家は元王族の血を引く武家の名門で、代々騎士団の中心を担ってきた。

その血筋もあり、リュネットは幼い頃から王太子の婚約者として育てられてきた。



王太子妃になるための教育は、泣きたくなるほど厳しかった。

それでも耐えられたのは、王太子エリオスを心から愛していたからだった。


しかし、その未来は「同盟諸国友好法」が作られたことで、あっけなく崩れ去った。

これまで王国は、武力によって周辺諸国を従えてきた。

だが、さらに外側で強い国が力を伸ばし始め、剣だけでは国を守れない時代が訪れたのだ。


そこで作られたのが、同盟国との関係を強めるためのこの法律だった。




その象徴となったのが、王族同士の結婚だった。

こうして、生まれた時から王太子妃となるために育てられてきたリュネットは婚約を破棄された。


そして本当の花嫁に選ばれたのが、同盟国ラベンスカー公国の美しい姫――ラヴェーナ・ラベンスカーだった。




「リュネット、こんなところにいたんだね。どうしたんだい、いじけたみたいに」


公開結婚式のあと。


貴族だけが集まるパーティーで、王太子エリオスは壁際にいたリュネットをすぐに見つけた。


周りの令嬢たちから、くすくすと笑い声が上がる。


リュネットは怒りをかみ殺しながら、何も思っていないような笑みを浮かべた。



「王太子殿下、ならびに王太子妃殿下。本日は誠におめでとうございます」




あまりにもよそよそしい言葉だったのだろう。

エリオスは、目に見えて悲しそうな顔をした。


「そんな他人みたいな話し方はやめてくれよ。僕たちは家族のようなものじゃないか。一度は婚約していたんだし……」


婚約。

その言葉が出た瞬間、周囲がしんと静まり返った。

顔を伏せた令嬢たちの口元が、意地悪く歪んでいる。

気づいていないのは、エリオス本人だけだった。


(ほんっと、この方は天然というか、おめでたいというか……)


(率直に言えば、バカなのは相変わらずね。なんでこんなのに惚れてたのかしら)


リュネットは心の中で毒づきながらも、笑みを崩さなかった。


「リュネット、私のせいで本当にごめんなさい……!」


ラヴェーナが、ばっと前に飛び出した。

そして白い手で、リュネットの両手をぎゅっと握る。


「私のせいで、エリオスをあなたから奪ってしまったみたいになって……ずっと申し訳なく思っているの……」


長いまつげの下から、潤んだ瞳がリュネットを見上げる。


挿絵(By みてみん)





恐ろしいことに、そこには悪意がまったくない。

純粋な善意だった。


「いや、僕が悪いんだ。僕がラヴェーナのことを大切だと気づくのが遅かったばかりに……!」


「そんな……エリオス様……」




二人は互いをじっと見つめ合う。

それからラヴェーナは、思い出したようにこちらを見た。



「あ! リュネットのことは、私たちがずっと守るからね。これからのことは何も心配しなくていいんですからね」


――守る。

――何も心配しなくていい。


それは、自分たちが決める側にいる人間の言葉だった。

ラヴェーナは、悪気なくそう言えてしまうほど、ずっと与えられる側として生きてきたのだろう。


ラベンスカー公国の姫として生まれ、美しく、しかも一番下の妹。

誰より愛されるのが当たり前だったのだ。


「君の人生の大半を台無しにしてしまったと思ってる。本当に申し訳ない」


エリオスも続ける。


「なんて言えばいいか分からないけど……不自由のない暮らしは約束するし、いい縁談がないか僕も探してあげるよ」


「それなら、私のお兄様はいかがかしら?」


ラヴェーナがぱっと顔を輝かせた。


「王位継承権は低いけれど、のんびり暮らせるし、こちらに呼んでもいいかも!」


「それはいいね! ラヴェーナ、いい考えだ!」


きゃっきゃと盛り上がる二人を、リュネットは冷たい目で見つめる。


まるで、本当に親切な相談でもしているかのようだった。


一方的な優しさと同情ほど、人を惨めにするものはない。

だが、この二人はそれを知らないのだろう。


二人よりよほど世の中を知っている令嬢たちは、くすくすと笑っている。


(私の人生を、私抜きで勝手に決めようとする人たち)


(本当に、一番残酷なのはあなたたちのその“優しさ”なのに)




「ねえエリオス。向こうで陛下が呼んでるみたい。早く行こう!」


「ちょっと、引っ張るなって!」


お節介に飽きたのか、ラヴェーナは無邪気にエリオスの袖を引っ張った。

そして、手を振っている王のもとへ駆けていく。


やっと解放されたリュネットは、ほうっと息を吐いた。


「婚約破棄した相手に、とてもお優しいのねえ。お二人とも」


「よかったですわね、リュネット様。本当ならご実家でお一人で過ごさなければならないところでしたもの」


「……ええ。本当に」




シルヴァレン家の娘として、怒りを表に出してはいけない。

口汚く、彼女たちを罵ってはいけない。

嫌なことはすべて、胸の内にしまっておかなければならない。


そうやって、リュネットの心は少しずつボロボロになっていった。


……けれど。

こんな日々でさえ、まだ地獄の始まりにすぎなかった。


これから始まる物語、ぜひリアクションなどで盛り上げてくださると嬉しいです^^

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