プロローグ
澄み渡る青空の下。
王城の白い庭園には、祝福の鐘が鳴り響き、色とりどりの花びらが舞っていた。
幸せな結婚式になるはずだった。
――そのはずだった。
舞っていた花びらが、突然黒く染まる。
「――お前たちは、何度生まれ変わっても死の運命から逃れられない」
不気味な声が、頭の中に直接響いた。
凍りついた会場で、祭壇の上に立つ“それ”がゆっくりと腕を上げる。
そして、一人の男を指さした。
「この運命から逃れたいのなら――すべての原因である、お前が死ねばいい」
その指先にいたのは、月の光のような色の長髪をなびかせる王子、アステルだった。
会場が静まり返る。
誰もが驚いている中、アステルだけは静かに目を伏せた。
そして、何かに気づいたように小さく笑う。
「……そういうことだったのか」
「アステル様……?」
騎士のリュネットは、胸騒ぎがした。
長い銀髪を頭のてっぺんで束ね、凛々しい姿をしているのに、その表情は不安を映している。
彼だけが、何かを理解してしまった。
そんな気がした。
けれど、アステルは何も答えない。
祭壇の向こうに広がり始めた黒い闇へ、ゆっくりと歩き出す。
「待って……!」
リュネットは慌てて彼の腕を掴んだ。
「行かないで!」
振り返ったアステルは、とても優しい目をしていた。
けれど、その表情を見た瞬間、リュネットには分かってしまった。
もう何を言っても、彼は止まらない。
そんな顔だった。
アステルはそっとリュネットの手を取り、その甲に口づける。
「……最初から、こうすればよかった。今ようやくわかって、本当によかった」
「え……?」
「私のせいで、君を何度も、何度も苦しませてしまった。すまなかった」
「何度も……?」
意味が分からない。
問い返すより先に、アステルは手を離した。
長い月色の髪を風になびかせながら、たった一人で闇へ向かって歩いていく。
「待って!!」
強い風に煽られ、伸ばした手は届かない。
黒い闇が、ゆっくりとアステルの姿を呑み込んでいく。
最後まで、彼は一度も振り返らなかった。
ただ、その声だけが残った。
「何度生まれ変わっても――君だけを愛していた」
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