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4話 彼女の話2

 仕事はそこまでしんどくなくて何事もなかった一日の終わり。

 いつも行く週末じゃないけど、なんとなく足が向いた、いつものカフェ。

 ドアベルが鳴る。

 いつものコーヒーの香り、いつものカウンターの端の席。

 

……いつもと違うのは柔らかく笑って迎えてくれる笑顔が無いこと。

 

 カウンターに立っているのは別の店員さん。

「あれ、今日はオーナーさんいないんですか?」

 できるだけ自然に聞いたつもりだった。

「今日は別店舗ですねぇ…そのうち顔出すとは思うんですけど」

 そうなんだ。他にも系列のお店持ってるなんてすごいな。

「そっか」

 

……いや、別に会いに来たわけじゃないし。ただお気に入りのコーヒー飲みに来ただけだし。

(うん、そうそう)

 なのに。

 カップを口に運んでも、どこか物足りない。

 味は同じはずなのに。

 

 視線が、無意識に入口へ向く。

(何期待してるの、私)

 少し早めに席を立つ。

 今日は長居しないでおこう。

 そう思ってドアに手をかけた、その瞬間、外から扉が開く。

 

「——あ」

 

 ぶつかりそうになって顔を上げると、驚いた様な顔をしたオーナーさんがいた。

 それからすぐ、彼はいつもの柔らかい笑みに戻る。

 

「来てたんだ、いつもの日じゃなかったんですね」

 

……なんでその言い方?なにか引っかかる。

「今日は別店舗じゃ?」

「ええ。ちょっと顔出しに」

 タイミング、良すぎない?たまたまだよね?

 心臓が少し速い。

「もう帰るところですか?」

 距離が、カウンター越しじゃない分いつもより近い。

「うん、今日はちょっとだけ」

「そう」

 ほんの一拍。

「また週末、ですよね?」

 当たり前みたいに言うと、私が返事をする前に、彼は一歩引く。

「気をつけて」

 優しい笑顔、いつも通りの気遣い。

 なのに。

(なんで今、ちょっと安心した顔したの?)

 なんだか少し違和感。なにかは分からないけどでも確かにある。


 数日後の週末、いつもの時間、店内はいつもより少し混んでいる。

 カウンターで他の女性客と話す彼を見た。

 笑っているしカウンター越しで距離も近い。いつも通り優しいしちゃんと目を見て話をしている。

……でも。

 自分に向けられる視線とは、どこか違う気がする。

 すごく一定の距離を保ってる。

 お客さんと店員さん。

(……気のせい?)

 

 他の女性客には“サービス”。

 

 自分には——

 なんだろう。

 

 “確認”?“探り”?上手く言えないけど何か…。

 ふと目が合う。

 彼はいつも通り微笑んでこちらを見ている。

 私を見るときだけ、ほんの一瞬、瞳の奥が静かに深くなったような気がした。

 柔らかいのに、逃げられないような色。

 その奥に、ほんのわずかな独占の影。

 

 胸が、きゅっとする。

 優しいはずなのに。少しだけ、怖い。

 でも、私の足は帰ろうとしない。

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