番外編 朔と澪の話1
番外編。
お付き合い後のお話。
きっとこんな出来事あると思うのです。
大人の恋愛なので、R15未満ぐらいのボヤかしてる描写があります。
苦手な方はご注意ください。
朔とお付き合いを始めてもう三ヶ月が経った。
手を繋いだり、抱きしめてくれたり、キスだって私がねだればしてくれる。
いつも、優しく丁寧に触れて来て、私を宝物みたいに扱ってくれるけど。
それ以上に、進まない。
私達学生じゃなくて、いい歳した大人なのに。
今日だって、せっかくお休みが一緒になったのに。
映画見て、敵情視察しようって笑ってカフェでお茶して、公園のアジサイが見頃だから一緒に手を繋いで散歩して……。
そんな感じで夜になったらいつもの駅前に帰ってくる。
「近くまで送ります」
いつもの距離感、優しい視線、丁寧なエスコート。
私は少し迷って、朔の服の裾を引いた。
「……ねぇ朔」
「はい。どうしました?」
「今日、まだ時間、あるよね?」
一瞬だけ朔の目が揺れて、またいつもの優しい視線に戻る。
「…ありますけど…」
「……じゃあ、うち寄ってく?」
自分で言っといて顔が熱くなり、私は視線を少し落とした。
朔はほんの少しだけ沈黙してから、柔らかい声で言った。
「……今日はやめておきます」
今日もじゃん。
……なんで?
「なんで?」
思ってることがそのまま口に出てしまう。
「大事にしたいからですよ」
それ、何回も聞いたよ?
「大事にしてくれてるのはわかるよ?でも……」
自分の声が少し尖ってしまってる。なんだか言葉に出来なくて。
私はもっと朔に近づきたいのに……
あなたの全部が欲しいのに……
「焦らなくてもいいです」
朔は私の頬にそっと触れてそう言った。
(なんで?)
(なんで進んでくれないの?)
(私、魅力ないのかな?)
(それとも、こんな風に思ってるの私だけ?)
グルグルとマイナスな思考が巡る。
こんな自分が嫌で、優しくされてるのに、なんだか胸が苦しくなって……頬に触れる朔の手を軽く払いのけた。
「……澪?」
「…………うん。ごめんね困らせて。今日はここで大丈夫。またお店行くね。おやすみなさい」
少し困惑したような朔の声がしたけど、彼の顔が見れなかった。私はそのまま駅には入らずに早足でその場を後にした。
――――――――
俺は何を間違えた?
澪と視線が合わないと思ったら、感情が抜け落ちたような声。
俺は足早に去っていく澪の後ろ姿を呆然と見送るしか出来なかった。
払いのけられた手が震えている。
澪に…拒絶された……?
俺はただ……彼女を大事にしたかっただけなのに……
このままじゃ、駄目だ。
このままじゃもう、俺は澪の傍にいられなくなってしまう。
俺は我に返ると、澪の姿を探す。
彼女は駅に入って行かなかった。まだ、この近くにいるはずだ。
必死で走る。
走って走って、ようやく公園のベンチに座る澪を見つけた時、彼女は見知らぬ男に話しかけられていた。
「えー、待ち合わせ?こんな所で?でも全然来ないじゃん」
「えっと……仕事で遅れてるだけなんで……」
他の男と話す彼女を見て、頭の奥で、ドロリとした感情が溢れ出した。
俺は表面上は穏やかな顔をして、二人に近づいた。
「澪」
俺が声をかけると、澪は振り向いて少し驚いたような顔をした。
「待たせてごめん……こちらは知り合い?」
「……ううん」
「そう。……俺の彼女に何か?」
俺は座る彼女と男の間に入って男の方を見た。
我ながら大人げないほど低い声が出てしまう。
「あ、いや、失礼しました……」
そう言って男はそそくさと去っていった。
「……なんでここに朔がいるの?」
「……澪」
「今日はもう大丈夫って言ったじゃん」
そう言う澪と一向に視線が合わない。ずっと俯いて、少しだけ攻めるような声。
「……怒ってます?」
俺がそう言うと、澪はこちらを向いて、少しだけ唇を噛んだ。
「……怒ってない……ちょっと、拗ねちゃっただけ」
心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。
「朔が、私を大事にしてくれてるのは分かってるの。でも……」
澪はそこで言葉が詰まり、小さく息を吐いた。何故か、嫌な予感がした。
「大事にされすぎてて、私に魅力が無いのかなって考えちゃって」
澪の言葉に思考が止まり、頭が真っ白になる。
魅力がない?
誰が?
澪が?
「は……?」
自分でもわかるぐらい間抜けな声が出た。澪は少し困ったように笑う。
「ほら、さっきもさ、家、断られちゃったし」
違う。
違う違う違う。
大切過ぎて、壊したく無くて、怖がらせたくないから。
俺の、こんな醜い感情から守ってるんだ。
でも、まさかそんな風に受け取られるなんて思ってなかった。
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。
俺は衝動的に澪の手首を掴むと、少し強引に彼女を引っ張ってベンチから立ち上がらせた。
澪が戸惑っているのがわかったが、俺は前を向いたまま彼女を連れて歩き出す。
「えっ、どこ行くの?」
答えるまでに数秒間が空き、俺は口を開いた。
「…………僕の家です」
自分で言って自分で驚くが、今はもう、止まることが出来なかった。




