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第5話「ふたりの命、ふたりの約束」




白く穏やかな陽が差し込む、病院の個室。


出産から三日目。氷室結衣はまだベッドの上で点滴を受けていたが、顔色は明らかに良くなっていた。

身体は痛む。術後の縫合部の違和感も、体力の低下も、隠せはしない。


けれどその目は、確かに母親のものだった。


「……この子たちが、私のお腹の中にいたのよね」


淡いピンクと水色の帽子をかぶったふたりの赤ん坊。

ベビーベッドに並んだ命は、小さな小さな手足をもぞもぞと動かしながら、時折ふぇっと控えめな声を漏らす。


「こっちが姉。こっちは弟ですって、看護師さんが言ってました」


陽翔が優しく説明しながら、結衣の手に温かいタオルを渡す。


「沐浴は看護師さんにお願いしてあるけど、こうして触れるくらいなら――ね」


結衣はその手で、そっと女の子のほっぺに触れた。

ぷに、と押し返すような反応に、思わず口元が綻ぶ。


「……可愛い……。なんて、思ってしまうのね。

こんなにも、小さくて、弱々しいのに。……こんなにも、愛おしいなんて」


「俺はずっと思ってましたよ。

あなたのお腹が少しずつ膨らんでいくたびに、

あぁ、ここに命がいるんだって。

でも今、こうして姿を見たら……その何倍も実感する」


陽翔の手が、今度は弟の指先に触れる。

小さな手が、彼の指をぎゅっと握り返す。


その瞬間、ふたりの男の間に交わされた沈黙には――言葉にならない約束が宿っていた。


守る。

この命を、必ず。


***


午後。

授乳の時間を終え、看護師が双子をベビールームに戻したあと。


陽翔はベッド脇のソファに腰を下ろし、ふたり分の出生届の控えを手にしていた。


「……名前、どうしますか?」


結衣は少し迷った顔で、窓の外を見た。

梅雨が明けたばかりの東京の空には、入道雲のような希望と不安が入り混じっている。


「――名前。そうね……女の子には、“陽”の字を。

あの子には、あなたのような、あたたかさを持ってほしいから」


陽翔は目を細めた。


「“陽”……なら、“陽葵ひまり”はどうです?

太陽に向かって咲く花。まさに、あなたの娘にぴったりです」


「陽葵……。素敵。決まりね」


「じゃあ男の子は……“悠翔ゆうと”は?

“悠”は穏やかに、そして翔ぶ。――あなたの姓と、俺の名前を、少しだけ織り交ぜたくて」


結衣は驚いたように陽翔を見た。

けれど、すぐに微笑む。


「……あなた、そういうの……ほんとずるいわね」


「ずるくて、すみません。でも、俺たち家族ですから」


ふたりの間に、小さな沈黙が流れる。

それは、まるで静かな誓いのようだった。


「――陽葵と、悠翔。ふたりとも、あなたに似て……優しく、強い子になるわ」


「いいえ。きっと社長に似て、かしこくて、美人で、気が強い子にもなりますよ」


「それは……ほどほどでお願いしたいわね。育てるの大変そう」


ふたりは、くすくすと笑い合った。


***


夜。

結衣が眠りについた病室。

静かな空気のなか、陽翔はベビールームの窓越しに並ぶふたりの子を眺めていた。


陽葵と、悠翔。

まだほんのわずかに目を開けたばかりの命。

だが、その小さな身体には、無限の可能性が詰まっている。


「……俺は君たちの“父親”には、まだなりきれてないかもしれないけど」


「でもね、君たちの“味方”には、ずっとなるよ。

お母さんが社長で、世界一かっこいい人だから、心配はない。

でもそのぶん、家では思いきり甘えていい。俺が全部受け止める」


ガラス越しに、ふたりの赤子が、まるで陽翔の声に応えるように、ふわりと手を動かした。


その瞬間、彼の胸に――“家族”という言葉が、確かな重さで落ちてきた。


(つづく)



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