10F 異変
おまたせしました
7/29 表現がおかしな部分があったため修正いたしました
刃を通しにくい強固な赤黒い皮膚、全身を覆う筋肉の鎧にオーガは自分たちが森の中域の中で最も強い存在であると自負していた。しかしその認識もある日を境に崩れ去ることになる。
あるオーガは今日も仲間と共に腹を満たすため、獲物を捕らえに森の中を散策していた。
森の中はいくらオーガの肉体が強力であっても油断すれば命を落とす場所であり、そこで育ったオーガたちは気配を察知するすべに長けていた。
4匹で獲物を探しながら歩いていると、警戒をしていたはずなのに気がつけば最後尾を歩いていたオーガの胸から突然槍状のなにかが飛び出ていた。
胸から槍を生やしたオーガは不思議そうにそれを眺めていたが胸から槍が引き抜かれるとともに崩れ落ちる。
一緒にいた3匹のオーガが仲間の異変にすぐに気付き倒れたオーガの方を見るも次の瞬間には同じようにそれぞれ胸から槍を生やしていた。
自分になにが起きたのかもわからずに混乱するオーガ達はそのまま地面に倒れ伏し、薄れゆく視界に無数の脚がついた何かが4匹いるのを捕らえたが、それがオーガたちの最後に見た光景になったのだった。
大振りの鎌が銀線を空中に描く。
銀線が走った後には首の無いオークの体が血を噴水のように噴き出して、まだ生きているかのように立っていた。
突然の襲撃にオークの集落はパニックになり、逃げ惑うオークをその黒い襲撃者は体に赤い線を走らせながらまるで作業のように切り裂いていった。
そんな襲撃者の前に仲間の殺戮に激昂する一際大きいオーク、猛ける猪の王が棍棒を握りしめ立ち塞がった。
この襲撃者に仲間の殺戮に対するしかるべき制裁を与えるべく猛ける猪の王は襲撃者に向けて渾身の力で棍棒を振り下ろした。
この黒い謎の襲撃者は初めて見る存在であったが、これまで相手した獲物と同じようにグシャリと潰せるだろう、と猛ける猪の王は考えニヤリと笑った。
しかし相手が潰れる感触がなかなか来ないことに気づき棍棒を握る手を見てみると、なんと肘から先が無くなっていた。
信じられない光景に猛ける猪の王が呆然としていると、急に自分の視界が揺れ次の瞬間には不思議なことに首の無い自分の体を見た。血を噴き出している自分の体を、信じられないものを見たという表情をした頭が地面を転がり猛ける猪の王は息絶えた。
猛ける猪の王が襲撃者と対峙したわずかな時間の間にオーク達のほとんどが逃げ去っていたが、集落を漂う血の濃密な匂いの中、襲撃者は殺戮に歓喜するかのようにギチギチと鳴くと次の獲物を探して森の中へ姿を消していった。
気高き深緑の狼と配下のフォレストウルフ11匹が森の中を疾走していた。
森の中で保護色となる濃い緑の体毛をなびかせ走る気高き深緑の狼たちの姿は普段の雄々しい森の狩人という気配の欠片も無く、ただ生き残るために無様を晒してでも彼らはソレから逃げていた。
ことの始まりは、たった1匹で何かから逃げるように彷徨っていたオークを配下と連携して狩り、いざ食しようとした時だった。
何処からともなく飛来してきたソレが配下のフォレストウルフの1匹のすぐ脇を高速で通り過ぎて行ったと思ったら、その瞬間そのフォレストウルフの首から鮮血が舞ったのだった。首を中ほどまでザックリと斬られビクビクと痙攣して横たわる配下の姿に呆気にとられながらも、『すぐに逃げろ』という獣の勘に従い気高き深緑の狼はご馳走を放棄し配下を連れて駆け出した。
気高き深緑の狼はとにかく焦っていた。逃げ出してから配下がさらに5匹殺られた。全てが最初に犠牲になったフォレストウルフのように首を掻き斬られて死んだのだ。
死んでいった配下のおかげで敵の攻撃方法が刃のように鋭い翅での斬りつけだと判ったが、足の速さに自信のあった彼らを嘲笑うかのように、彼らよりさらに速い速度で飛んで追いかけて来ては追い抜きざまに一匹、戻って来てはすれ違いざまにまた一匹と狩っていくのに気高き深緑の狼たちはなす術がなかった。
そして気高き深緑の狼も今は体中から血を流している。致命傷だけはなんとか避け、配下のように一撃でやられることは無かったが、完全には避けきれずに体中に切り傷を作っていた。
出血で血が不足し段々と重くなってくる脚に力を入れなおし、気高き深緑の狼はなお走り続ける。
逃走が続く中配下が次々と脱落していき、ついに最後に残ったフォレストウルフが未知の存在への恐怖に耐えきれなくなり背後から迫るそれに無謀にも飛びかかった。噛みつこうと口を大きく開けるフォレストウルフに対しソレは少し軌道をズラしてそのまま直進し、飛びかかったフォレストウルフの上顎から上を易々と斬り飛ばした。
下顎だけになり地面を転がっていく最後の配下を視界の端で捉え、気高き深緑の狼はついに覚悟を決めた。このまま殺されるよりは立ち向かって一か八かの勝負に出ることにしたのだ。
そして戦うために振り向いた瞬間、目の前に翅の刃が迫っているのを見た。
驚愕に目を見開く気高き深緑の狼は何もできず、ただ自分の首に刃が食い込んでいく感触を感じているしかなかった。
しばらく痙攣していたがやがて最後の1匹も動かなくなった。何を考えているのかわからない複眼がそのことを確認するとソレはまた何処かへ飛んでいくのだった。
人々は古来から魔物と生存圏を奪い合いながら生きてきた。一帯の魔物を駆除し、少しずつ開拓を行い人間の生活圏を拡げていく。
そしてそれは魔物を専門に狩る冒険者という職業を生みだし、彼らが狩ってきた魔物を素材とし道具を作製する技術が発展した。
魔物を狩りそれを素材に強力な武器を作り、より強い魔物を狩るのだ。
しかしその努力も虚しく未だ人間の生活圏は大陸の10分の1程度の面積しかなく魔物の領域が大半を占めていた。
そしてここ、リブラ大森林もそんな魔物の領域の一つである。この森は奥に進むほど生息する魔物が強力になっていくという特徴があった。
反対に外周域は基本的にゴブリンなどの弱いとされる魔物しか現れないため、危険な魔物の領域のすぐ隣であっても珍しく人が生活できる環境であった。
そんなリブラ大森林に異変が起こった。
ゴブリン程度しかいなかった森の外周域に、本来ならもう少し奥に行ったところに生息するオーガなどの魔物が現れるようになったのだ。それだけでも大事なのだがなんと流れてきた魔物たちの大半は大小様々な怪我をおっていた。凶暴なオーガがなにかに怯えるように移ってきた様子から森の奥でなにかが起きているのは一目瞭然だった。
リブラ大森林のすぐ隣にある開拓村のひとつ、モリヤの村の村長の家に村の男たちが集まっていた。
全員が深刻な顔をしており、部屋の中は重苦しい空気に包まれていた。
全員が揃ったのを確認し、上座に座っていた中年の男が口を開いた。
「今日は忙しい中集まってくれたことに感謝する。みんなすでに知っているとは思うが今、リブラ大森林に異変が起きている。リブラ大森林の魔物の分布がおかしくなっている。この間はオーガにエルが遭遇したそうだ。エル、その時の状況をみんなに話してやってくれないか」
話を向けられた金髪の青年、エルは当時の状況を話し出した。
「あいよ村長。俺がオーガを見たのは昨日森へ狩りに行った時だった。茂みの向こうにあの巨体を見つけた時は死を覚悟したね。だがオーガはかなり消耗してて余裕が無さそうだったんだ。よく見てみれば身体中に傷があっておまけに片腕が無かった。腕の断面の形を見るにあれは獣の仕業じゃないな。あれは刃物による傷だ」
オーガを始めとするこの辺ではあまり見かけない魔物が最近よく目撃されることは知っていたが、刃物による怪我があったと聞き騒めきが大きくなった。
そしてその中からひとりの男が声をあげた。
「おいおい、ってことはよぉ、今回の異変は刃物を使うやつ、つまり冒険者が原因だって言うのかよ?」
「いや、いくら冒険者でも中域の魔物たちが逃げ出すようなことはできないだろう。早急になにが起きているのか調べる必要が出てきたな。冒険者ギルドには今朝伝令を出したんだろ、村長?」
村長と呼ばれた中年の男が答える。
「ああ、息子をテラゴウシクの冒険者ギルドに向かわせた。リブラ大森林の異変の調査の依頼を出しにな。それに今回の件は領主も動くだろう。リブラ大森林の中域の魔物が森から外に出てくる可能性があるならここから一番近いテラゴウシクの町も他人事じゃないからな。きっと領主様がお抱えの騎士団を動かしてくれるだろう」
冒険者ギルドに加えて領主が動くと聞いて男たちの歓声があがる。
「それならきっと大丈夫だな」
「ああ、領主様の騎士団ならこの異変の原因をつかんですぐに治めてくれるさ」
どうやらこの一帯を収める領主とその騎士団は相当信頼されているようだ。
それからしばらく、村の男衆たちが自分はオークを見た、フォレストウルフを見かけただのと情報の交換と対策の相談が行われた。
そして会話がひと段落ついたところで村長が手を叩き全員の注目が集まったところで口を開いた。
「みんな心配するのはわかるが、依頼を受けた冒険者が到着するのは早くても三日後だろう。この異変が治まるまではしばらく森での狩りや採集は控えた方がいいだろうな。じゃあ今日の会議はこれで終わりだ。忙しいのに集まってくれてありがとうな」
村長の解散の宣言で男たちは立ち上がりぞろぞろと村長宅を後にしていく。
男たちは冒険者ギルドと領主が動くのなら安心と、安堵しながらそれぞれの日常に戻っていくのであった。
そして村長の予想のとおり三日後の昼、冒険者ギルドでリブラ大森林の調査の依頼を受けた冒険者たちが村にやって来た。
※以下はリストから召喚された時点での強さです。
ゴブリン 【悪鬼Lv1】
スキル
【繁殖】【瘴気耐性Lv4】
【悪鬼】の下位種。
大人の人間の腰あたりまでの背に、緑色の体の小鬼。他種族のメスを使っても繁殖できる特性を持ち、定期的に間引きを行わないと爆発的に数が増える。数が増えると中位種、上位種が発生し、ゴブリンの集落の討伐の難易度が跳ね上がるので注意が必要である。
オーガ 【悪鬼Lv10】
スキル
【力上昇Lv3】【再生Lv1】【瘴気耐性Lv4】
【悪鬼】の中位種。
硬い皮膚に隆起した筋肉で全身を覆われた身長2.5mを超える巨体の鬼。戦いを好み、敵を見つけるとすぐに襲いかかってくる。
オーク 【魔獣Lv1】
スキル
【繁殖】【力上昇Lv1】【瘴気耐性Lv4】
【魔獣】の下位種。
大型の二足歩行する豚型の魔物。他種族のメスとの間に子供が作れ、他種族のメスを手に入れるために村や街道に現れ人間を襲撃することがある。
猛ける猪の王 【魔獣Lv20】
スキル
【繁殖】【力上昇Lv5】【指揮Lv3】【瘴気耐性Lv4】
【魔獣】の上位種。
集落のオークが増えると出現する魔物で、知能の低いオークたちを統率することができる。
猛ける猪の王がいる集落といない集落とでは討伐難易度がケタ違いになる。
フォレストウルフ 【魔獣Lv1】
スキル
【嗅覚Lv1】【連携Lv1】【隠密Lv1】【瘴気耐性Lv4】
【魔獣】の下位種。
森の中で保護色となる濃い緑色の体毛をした狼の魔物。常に群れで行動し狩りをする。
群れが大きくなると群れを纏めるリーダーが生まれ、リーダーのいる群れは連携に磨きがかかりより強力になる。
気高き深緑の狼 【魔獣Lv10】
スキル
【嗅覚Lv2】【連携Lv3】【隠密Lv2】【指揮Lv1】【瘴気耐性Lv4】
【魔獣】の中位種。
数の増えたフォレストウルフの群れに現れる魔物で、フォレストウルフより大きい体をしている。
【繁殖】
他種族との間に子供を設けることができるようになる。
【指揮Lv3】
集団で戦闘する際に的確に指示を出せるようになる。
また自分が指揮する自分以外の全員にわずかだがステータスに補正がかかる。
Lvによってステータスにかかる補正が大きくなる。