巨龍かくて斃る
「撃て!」
田所博士がそう叫んだ。
『メトロタイタン』の機上から発せられた、博士の激烈な号令だ。
「了解! オペレーション『メーサー』!」
操縦桿を握った渡良瀬隊長に率いられた東京防衛庁特殊部隊『Gブレイカー』の隊員達が一斉に復誦する。
『メトロタイタン』の両肩から出現した巨大なパラボラ状の一対の砲門。
次の瞬間、砲門から放たれた青白い殺獣光線が『G』の胴体を直撃する。
だが、並の怪獣なら一撃で消し飛ばす威力を有したこの必殺光線も、『G』の体にはかすり傷一つ付けることもできなかった。
「ギャオーーン!!」
『メトロタイタン』を睨んで、巨龍が怒りに吼えた。眼前の巨人を敵と認めたのだ。
『G』の背ビレが青白い不気味な燐光を放ち、耳まで裂けたその口から、メラメラと紅蓮の劫火が漏れ始めた。
「今だ! ファイヤーミラー展開!」
田所博士が続けて号令。
「了解! オペレーション『スペルゲン』!」
『メトロタイタン』の胸部装甲が軋んだ異音をたてて展開した。内部から露出したのは六角格子の合成ダイヤモンドで形成された巨大な鏡。
「みていろ『G』……! 今度こそ貴様を倒す!」
田所博士は、ロボのカメラアイごしに怒りに燃える眼で怪獣王を睨みつけた。
六十年前のあの日、この憎むべき大怪獣の東京襲撃で妻子を失って以来、博士の人生はまさに『G』打倒の為にあったといってよい。
博士の意識が、ロボの制御電脳を走査していく。
『メトロタイタン』……東京都新第一本庁舎が変形を果たした巨大ロボ。
石原元都知事の奇怪な誇大妄想が建立せしめたこのファシズムの婀娜花も、陸海空全自衛隊が『方舟計画』の遂行に奔走する今となっては、首都防衛の任を背負って立つ最後の切り札であった。
こいつを使って、何としても奴を止める。
『計画』の執行機関が陣を構えた千代田区千代田に『G』の侵入を許せば、今や未曾有の国難に巻き込まれた日本国民を待つのは、さらなる悲惨、緩慢な破滅。
ゴオオ! 殺気漲る『G』の眼光がロボの威容をはっしと射抜く。
裂帛の気魄とともに、今まさに『G』必殺の放射火炎が、ロボに向かって放たれた。
劫火がロボに命中! だが見ろ。ロボの胸部のミラーが炎を跳ね返して、劫火は逆に『G』を直撃したではないか。
「ギャーーン!」
己が炎をその身に受けて、巨龍が苦しげに悶える。
「やったぞ!」
最初の戦果に歓声をあげる隊員達。
「今日こそは勝つ!!」
田所博士が猛る。だが……!
ずずう。崩れかけたビルを蹴散らしながら、『G』がロボに向って歩を進めてきた。
「なに!」
隊員達に動揺が走る。熱線に身を焼かれながらも『G』の進撃はなお止まない。
尽きることを知らない放射火炎の奔流が、執拗にロボの機体を襲う。
次の瞬間、ロボの胸のミラーがグニャリと歪んだ。
なんということ、『G』の苛烈な熱線の連射に、ついに耐え切れず、ファイヤーミラーが融解、消滅した。
ロボの胸部が爆炎を噴き上げた。楯と矛を同時に失った都庁ロボの機体を、容赦なく『G』の熱線が溶かしていく。
「うわーーー!」
隊員達の悲鳴。炎に包まれる操縦席。
ああ。決死の覚悟で『G』に立ち向かった『Gブレイカー』の隊員達も、遂に崩れゆく『メトロタイタン』と共に、次々その命を散らしていく。
「まだだ! まだ終わらん!」
全身を劫火に焼かれながら、なお不屈の光をその目に宿して、渡良瀬隊長が吼えた。
彼は最後の力を振り絞って操縦桿のレバーを引いた。
特攻! 全速で駆けだしたロボが『G』に向かって体当たりをかける。
炎に包まれた『メトロタイタン』のタックルを受けた『G』の体がグラリと揺れた。その一瞬の隙を突き、
「ゼロ・ナックル!!」
渡良瀬隊長の断末魔。
かろうじて無傷で残っていたロボの右手が、『G』の脇胴に叩き込まれ、そして、
右手の隠し武器、『メトロタイタン』近接戦闘時の切り札、絶対零度光線が、『G』に零距離で放たれた!
「グギャーーン!」
『G』が苦悶の咆哮。
巨龍の左脇腹が一瞬にして真っ白に凍り付き、砕けると、その外皮を裂いて体内から紅蓮の劫火が噴き上がった。
そして次の瞬間、巨龍に一矢報いた『メトロタイタン』の上半身はバラバラに砕けると、爆発、四散した。
「おのれぇ『G』!!」
田所博士が憤怒に叫ぶ。
勇敢に散った『Gブレイカー』の隊員達。だが彼らを悼む心の余裕は今の博士には無かった。
『ゼロ・ナックル』で深手を負った『G』ではあるが、この程度で巨龍の進撃を止められる筈が無い事は、過去の戦いからも明白だった。
はやくも博士の魂魄は『メトロタイタン』の制御電脳を離れ、次なる作戦を遂行すべく防衛情報通信基盤のネットワークを縦横無尽に駆け回っていた。
既に怪獣王の遥か上空には『ブラックホール砲』の発射準備を整えた人工衛星『破龍』が虎視眈々と彼を狙い、千代田区に方向を変えて進撃する巨龍の動きを封じるべく、電磁ネットワイヤーメカ『荒蜘蛛』が十重に二十重に彼を取り囲んでいるのだ。
「今度こそ……次で……貴様は終わりだ……!」
人工衛星『破龍』の望遠レンズ付カメラから巨龍を見つめ、博士は独り呟いた。
だが待て、様子がおかしい。田所博士は目を見張った。
『G』が、炎に包まれた廃墟の中で、その歩みを、止めたのだ。
巨龍の体が、グラリと揺らいだ。
どどお。燃えさかる新宿中央公園跡地に、『G』の黒山の様な体が転げた。




