出撃メトロタイタン
震える富士の山影に落ちかかった真っ赤な夕陽が、そこかしこから黒煙をあげる半壊した高層ビル群を血の色に濡らしている。
人影は消え焦土と化した新宿副都心に立つ崩れかけた巨搭の一群。
塔は断続的に繰り返される大地の揺れを受けて、肋のような鉄骨を不安げに撓らせたり、夕陽を映してギラリと光った窓ガラスを飴細工の様に地面に撒き散らしたりしている。
ずずう。突如、一際大きく大地が鳴動した。衝撃に耐えきれなかった搭の幾棟かがガラガラと崩れ落ちて、無人の街並に灰色の猛煙を広げて行く。
衝撃は、地震によるものではなかった。
塔の合間を縫うように、巨大な黒い影が、地響きを立てて夕刻の廃墟をゆっくりと行進していくのだ。
その身長は100メートルを超えている。ゴツゴツとした黒岩のような体表。巨大な尻尾が撓る度に、周囲のビルが無残になぎ払われていく。
……龍だった。
「ギャオーーン!」
ビリビリと空気が震えた。漆黒の巨龍が暮れ泥む空を仰いで、吼えたのだ。
巨龍の向う先には、夕陽を背にして禍々しい威容を晒した、二又の巨搭があった。
「おいでなすったぞ……『G』だ!」
副都心一帯で、唯一無傷で屹立する東京都庁第一本庁舎の一室。
モニターごしに、巨龍の影を認めた渡良瀬隊長は、苦々しげにそう呟いた。
シミュレーターによる戦闘訓練は何度も受けてきたが、実際に『怪獣』を目の当たりにするのは、これが初めての事だった。
「奴さん、ようやく自分がおびき寄せられた事に気付いたみたいですね」
G誘導電波の周波数をモニタリングしながら、『隊員』の一人が擦れた笑いをたてる。
「それにしても、自衛隊の手が足りないからって、こいつを『G』にぶつけるなんて……あの博士、一体何者なんです?」
別の隊員が、訝しげそう言った。
「俺もはっきりした事はわからん。『G』殲滅計画の実質上最高責任者……国土防衛の根幹に関わる様なポジションにいる人らしい……」
渡良瀬隊長が部下に答えた。
『国土防衛』か……自分の言葉を反芻した隊長は、苦々しいものが胸に込み上げてきた。だがその時、
「渡良瀬君、無駄口を叩いている暇はないぞ! 『G』の射程距離圏内まで残り10秒! 速やかに戦闘形態に移行しろ!」
レシーバーごしに、当の博士の檄が飛んできた。
「田所博士、噂をすれば影ですか……。了解しました!」
渡良瀬隊長が唇の片端を上げてニヤリと笑った。そして間髪入れず、
「行くぞ! オペレーション『タイタン』!」
隊長はそう叫んで、目前の操縦桿のレバーを引いた。
都庁舎が、軋んで呻った。
ギリギリと、金属の擦り合わさる異様な音が廃墟にこだましていく。
庁舎を覆った灰色の外壁が、まるで寄木細工のように、スライドし、展開しながら、その形を変えて行く。
二又の中央から出現したのはまるで人間の頭部を模したかのような光学センサーの塊。
展開した外壁から飛び出してグワリと宙を掴んだ二つの鉄椀。
変形を果たした巨大な二本の脚がアスファルトを踏みしだく。
おお見ろ。焦土と化した新宿副都心に、『G』を遮り敢然と立つただ一騎。
スペースチタニウムの巨躯を揺らして漆黒の怪獣王と対峙したのは、都庁ロボ『メトロタイタン』であった。




