ch.6 狙われないと感じ取れない
午前十時十五分
シェリはコンソール画面に映る艦長を見ながら、ベルタはコンソールに肘をついて頭を抱えながら、ただ待っていた。
「助けは呼べないの?」
ベルタがガバッと頭を上げた。
「また同じ説明させる気?」
「じゃあ、これからどうするの!?」
シェリが声を荒げると、突然ドアの外でゴトゴトと音がした。
「なんの音――」
シェリが言いかけた瞬間、時間感覚も飛ぶような爆発音と衝撃が部屋を襲った。
衝撃後の振動が床を激しく震わせ、壁一面の機械が共振する不快な金属音が響いた。
ベルタが悲鳴を上げて床に倒れ込み、シェリもしゃがみ込む。
再び静寂が訪れると、ベルタがまだ少し動揺した様子でシェリに言う。
「最重要区画だから、そう簡単には壊れないはず」
だがシェリは反応せず、耳を塞いで唇を震わている。
「シェリ?」
それからの数十秒か数分間か、二人は黙ったままじっとしていた。
その沈黙を破って、ベルタがシェリに質問する。
「あなたほどの人が、怖いの?」
「爆発なんて怖いに決まってんでしょ……」
「だって人の攻撃動作が感知できるんでしょ? 旦那さんだって――」
シェリは突然立ち上がると、大声で言った。
「旦那旦那ってしつこいんだよ!」
「え……?」
驚いたベルタの顔を見たシェリは、その場で体育座りをした。
つい最近、同じように誰かに怒鳴ったのを思い出した。
「もういい……。 あたしたち別れた方がいいんだよ」
「シェリ……」
床にうずくまったシェリは肩に手が乗るのを感じて、それを振り払った。
すると上から聞こえるエザキの声がこう言った。
「本当に別れたい?」
シェリは答えられず、しゃくりあげ続ける。
エザキはただ繰り返す。
「俺は会った日から、ずっとシェリが一番好きだ……。でもシェリが別れたいなら――」
「うるさ……」
言いかけたところで声が出なくなった。
突然、息が出来なくなった。
「ハッ……ハ……」
息を吸おうとするたびに、何かがつっかえてうまく吸い込めない。
「シェリ?」
目を開けても、視界が暗い。
「シェリ!」
慌てて、体育座りの姿勢になって口に手を当てるが、息が出来ない。
「ちょ、ちょっと待ってて!」
エザキがキッチンの方へ走っていくのを、ぼやけた視界で見ながら、床に手を置いた。
シェリがエザキの前で過呼吸になるのは、それが一回目。
二回目はその数日後だった。
また激しい爆発音と振動。
どこかで金属がきしむ音がし、ドアの向こうでカラカラと何かの破片が散るような音がしていた。
現実に戻ったシェリは、体育座りのまま、ドアを見て、小さく貧乏揺すりを始めた。
「あんなのよけられない……」
ベルタはようやくシェリの言葉の意味を理解した。
「自分を狙ってない攻撃は読めないのね」
午前十時四十五分
港湾地区の地下にある地下水路。
島の中央からの排水の役割を果たすコケだらけの薄暗い水路を、エザキとエドは手こぎボートで進んでいた。
水流だけでも進みはするが、オールをもつエドの力で、ボートは勢いよく海へと向かう。
「まさか港湾工学校の研修が役に立つとはなぁ。なぁエザキ?」
エドが懸命に漕ぎながら、どこか励ますような口調で言った。
「ああ……」
エザキはどこか放心したような顔で、頭上の縦長の空を見上げた。
シェリが二度目の過呼吸を起こした後、エザキはシェリをテーブルの前に座らせると言った。
「昼間、ずっと二人で家に居るのが良くないのかも……」
テーブルに両肘を突いてシェリを見つめるが、シェリは目を合わせてくれない。
「俺、日勤になろうと思うんだ。でも日勤だと給料が減っちゃうでしょ?」
シェリは両膝の間に置いた手を握りしめ、少しだけ顔を上げた。だが目は合わせない。
「あたしも働いた方がいいってこと?」
「力を貸してくれないかな……」
「いいけど……」
「お互い、色んな人と関わりながら暮らした方がいいと思うんだ」
「くだらない……」
エザキが黙っていると、シェリの目から涙が落ちた。
「あたし。またひどいこと言った」
「気にしてないよ」
つい少しだけうんざりしそうになるのをこらえて、エザキは優しく返す。
「言った。死んだ方がいい。こんなバカ女」
「シェリ……やめよ?」
「黙って……」
「おい、エザキ? 武器と弾薬は大丈夫だよな?」
エドに言われて我に返ったエザキは、黒いバッグの中を見た。
エザキのワルサーP5自動拳銃と、セミオートのみのAR-15ライフル。
そしてそれぞれのマガジンが3個ずつ。
「エド、そろそろ湾だ。水路を出たら、岸壁に寄せよう」
エザキはワルサーを握って目を細め、見えてきた実験艦を睨んだ。




