第3話 宝飾富のバーナー
バーナー子爵令息からの婚約申し込みの手紙を受け取ったフルーラはこの日、シリウスとキリアン子爵と共にバーナー子爵邸で婚約承諾の顔合わせをしていた。
テーブルにはそれはそれは豪華な食事が並んでおり、フルーラは品よく食事に手をつけた。
「いやあ~美しいとは伺っておりましたが、まるで王女様のような品格と美しさですな~! 義父であるキリアン子爵も鼻が高いでしょう」
「とんでもございません」
「おじ様には感謝しております。身寄りのない私と兄を引き取ってくださって……」
大きな声でワインを飲みながらフルーラを褒めたバーナー子爵に、キリアン子爵はそう返事をする。
それに続いて、フルーラも義父であるキリアン子爵に礼を告げた。
すると、そんな会話を聞いていたバーナー子爵の息子ビルがシリウスをちらりと見て、声をかける。
「その執事が兄上、だったか?」
ビルの発言にシリウスは頭を下げて「その通りです」との意を示した。
「お兄様もこんな私を支えてくださって……」
「幸せ者だな」
「はい。そして、今日こうしてビル様とご婚約できて……私はさらに幸せです」
そう言ってフルーラが「男を落とすほどの威力を持った」女神のような笑みを浮かべた。
彼女の微笑みを見たビルは、目を見開いた後、頬を染めて照れる。
「女神も嫉妬するほどの美しさだ」
「そんな……」
フルーラは遠慮がちに左右に首を振った。
そうして二人で初々しい会話を進めていたところで、バーナー子爵がふんぞり返って言う。
「いやあ~最近は景気がいいんだよ。メイスティア王の時は輸出規制が厳しくてね。こう言っちゃなんだが、前の王が死んでくれてうちは大儲けだよ」
その言葉にキリアン子爵はその言葉に内心怒りを覚えつつも、愛想笑いを浮かべる。
一方、シリウスもバーナー子爵の発言にはらわたが煮えくり返えるようなほど怒りを覚えた。
こんな汚い言葉をフルーラに聞かせてしまった。
彼女はどう思っているのか。
そう思ってフルーラのほうへ視線を送ると、彼女はただ笑っていた。
「そうですか」
しかし、シリウスはわかっていた。
その笑いの奥に今にも相手飛びかかって、苦しませるようにわざと鈍い刃を突きつけて、何度も切り刻みたい気持ちを押さえている事を……。
そんな彼女の想いを自分は最も理解している。
ここへ来る直前に彼女の私室で交わした言葉を思い出したシリウスは、そう思った──。
*****
「お嬢様、バーナー子爵とはあの『宝飾富のバーナー』…」
「ええ、宝石商で莫大な富を得てここ二十年ほどで大きく台頭した子爵。領地は小さいながらもその富で豊かな暮らしをしているわね」
バーナー子爵家は、歴史の浅い子爵家である。
そのため領地は小さいのだが、近年急激に成長を見せており、子爵の中でも五本の指に入るほどの金持ちである。
少々「成金気質」な部分も多く、特にキリアン子爵夫妻、そして一人息子のビルは金遣いが荒い。
屋敷を豪華で煌びやかな家具で揃えたり、動物のはく製や毛皮などを好んで収集するほどだった。
「なぜお嬢様に婚約を……?」
シリウスはフルーラへ尋ねる。
そんな富を得ている彼らがなぜフルーラに近づいてきたのか。
「おじ様曰く、バーナー子爵の一人息子が私を気に入ったらしいの」
「ほお……」
その言葉に彼はフルーラには気づかれないほど、小さく嫌な表情を見せた。
「おじ様も最初は断ってくれたらしいけど、私が承諾したわ」
「では、関わっているのですね、あの日の出来事に」
その言葉を聞いたフルーラはふっと静かになり、あの日の出来事を思い出す。
許せない気持ちと思い出したくないのに思い出される恐怖の記憶に押しつぶされそうになってしまう。
「ええ、あの日の追手の掲げていた旗。以前見たことがあるから一目でわかったわ」
そう言った彼女は一段の低い声で口にする。
「あれは、バーナー子爵のものだった」




