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社畜の俺が猫に生まれ変わった、今度は気ままに生きようと思ったのに世界が許してくれない  作者: LightWell


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9/12

第九話 クリスマス商店街

いつもの巡回だった。


夜は静かな場所だ。

シャッターが下りて、猫の足音だけが響く。

知っているつもりでいた。


昼間のアーケードは別の生き物だった。


屋根の下に人の声が満ちていた。

揚げ物の匂い。

魚の匂い。

どこかから音楽が流れていた。


聞いたことのある曲だった。

三十八年間、子供の頃に聞いた曲だ。


足が止まった。


商店街の中央に、大きなツリーがあった。

白と橙の電飾が瞬いていた。

各店のショーウィンドウに、思い思いの飾り付けがしてある。

金色の星。

赤いリボン。

コットンで作った雪。

商工会が作ったらしい、手書きのポスター。

統一感はない。

でも、なんとなくいい。


(……そうか、街はこういうことになってたのか)


にゃー


誰も聞いていない。

まあいい。


---


肉屋の前を通りがかった。


ふくよかなおっちゃんが店先に立っていた。

エプロンで手を拭きながら、こちらを見た。


「お、にゃー助来たか」


(誰だよ、にゃー助って)にゃ


奥に引っ込んで、小さな肉の切れ端を持って戻ってきた。


「クリスマスだからな、特別だ」


(サンキューおっちゃん)にゃー


受け取った。

温かかった。

脂の甘い匂いがした。


去年のクリスマスは何してたっけ。


---


和菓子屋の前を通りがかった。


若い女の店員がショーウィンドウを拭いていた。

振り返って、目が合った。


「あら、ハチまる」


(誰だよ、ハチまるって)にゃ


小走りで奥に引っ込んで、チュールを持って戻ってきた。


「はい、メリークリスマス」


(おおチュールか、チュールなのか)にゃー


餌付けされた。

美味い。

いつもの味だった。


人間だった頃、こんな風に誰かに『メリークリスマス』って言われたことあったかな。


---


魚屋の前を通りがかった。


優しそうなおばちゃんが値札を付け替えていた。

こちらを見て、顔をほころばせた。


「今日も来たの、寒かったでしょ、八助」


(誰だよ、八助って)にゃ


手を洗って、小魚を一掴み持ってきた。


「持ってきな、ご馳走だよ」


(おばちゃんありがとう)にゃー


受け取った。

磯の匂いがした。

冷たくて、新鮮だった。


俺、こんなにたくさんの人に顔を覚えられてる……。


---


アーケードを出た。


口に小魚をくわえたまま、来た道とは違う方向へ歩いた。


(クリスマスだしな)


母猫のところへ向かった。

それだけだ。


電飾の光がアーケードの奥で瞬いていた。

ジングルベルがまだ流れていた。

冬の空気の中に、揚げ物の匂いが混じっていた。


元社畜、一条大牙いちじょうたいが

タイガーなのに社畜柄猫の日常は続く…。

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