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社畜の俺が猫に生まれ変わった、今度は気ままに生きようと思ったのに世界が許してくれない  作者: LightWell


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第七話 深夜のトメさんとしっぽの道

深夜の住宅街は静かすぎる。

昼間の気配が全部抜けて、街灯だけが白く浮いている。

どこかで虫が鳴いていた。

アスファルトが夜風で冷えていて、肉球に硬く当たった。


なわばりの見回りも終盤だ。


路地の角を曲がったところで、人影があった。

小さい。

背が丸くなっている。

スリッパだ。

寝間着のまま、ゆっくりと、どこかへ向かっている。


(……トメさんまたあんたか)にゃー


トメさんは立ち止まって、宙を見ていた。

どこを見ているのか分からない。

どこへ行くのかも、たぶん本人も分からない。

夜風が寝間着の裾を揺らした。

トメさんが少し震えた。


(仕方ないな)


しっぽをピンと立てた。

トメさんの手に、そっと添わせた。

トメさんが下を見た。

焦点が合うまで少し時間がかかった。

やがて、皺だらけの手がしっぽを握った。

力は弱い。

でも確かに握っていた。


「あら」


それだけ言った。

歩き始めた。


住宅街を二人で歩いた。

トメさんのスリッパが、ぺたぺたとアスファルトを叩く音。

虫の声。

遠くで風が木を揺らす音。


トメさんは何かを呟いていた。

聞き取れない。

たぶん誰かの名前だった。


(どこへ行くつもりだったんだ、トメさん)にゃー


返事はない。

当然だ。


ぺたぺた。 ぺたぺた。


街灯の輪を二つ、三つ越えた。

曲がり角でトメさんが迷った。

しっぽで右へ誘導した。

トメさんがついてきた。

古い一軒家が見えてきた。

玄関の明かりがついていた。


ドアが開いた。


「母さんまた!」


息子だった。 寝間着姿で、顔が青い。


「あれ、猫?」


嫁が顔を出した。


息子がトメさんの肩を抱いた。


「どこ行ってたの、心配したんだよ」


トメさんが息子を見た。

少し間があって、「あら、おかえり」と言った。

息子の顔が、怒りと安堵と悲しさが混ざったまま、くしゃっとなった。


「そういえばこいつ、こないだも……」


挨拶代わりに、しっぽを一度だけ振った。

くるりと背を向けて、夜道を戻った。


街灯の白い光の中を、しっぽをピンと立てたまま歩いた。

虫がまだ鳴いていた。

夜風が少し冷たかった。

なわばりの見回りを続けた。


後日、トメさんちの前を通った。


玄関の横に、綺麗な器が置いてあった。

中にはカリカリが入っていた。

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