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社畜の俺が猫に生まれ変わった、今度は気ままに生きようと思ったのに世界が許してくれない  作者: LightWell


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2/12

第二話 タマさんのご飯と猫まんま問題

秋の午後は日が傾くのが早い。


気づくと影が長くなっている。

空の青が少し深くなっている。

そういう時間帯だった。


路地を歩いていた。


なわばりの中でも古い一角だ。

電柱が古くて、アスファルトにひびが入っていて、どこかの家から煮物の匂いがする。

昼間でも人通りが少ない。

それがいい。


路地の奥に、古い平屋がある。


ペンキの剥げた木の塀。

瓦屋根の端に苔。

午後の日差しがそこだけ切り取ったように落ちていて、なんとなく足が向く場所だった。


塀の上から中を覗いた。


縁側で洗い物を畳んでいた老婆が顔を上げた。

皺の深い、柔らかい表情だった。


(タマさんだ、おーいタマさん)にゃー


(爺さん亡くなってしばらく経つけど、飯はちゃんと食ってんのか?)にゃー


通じるわけがない。

分かっている。

それでも足が止まらない。

三十八年間染み付いた、場の空気を読む何かが、あの顔を見ると勝手に動く。


タマさんがおいでおいでしている。


「ほらみいちゃんおいで」


(いや俺みいちゃんじゃないんだが、まあいいか)にゃー


塀を越えた。


乾いた土の感触。

草の匂い。

縁側の木は日に温められて、肉球にじんわり熱が伝わってきた。


庭は小さかった。

でも手入れがしてあった。

隅に小さな花が咲いていた。

誰かが丁寧に育てた花だった。


「一緒にご飯食べましょ、誰かと食べるご飯はいいわね」


タマさんが台所へ消えた。


縁側に座って待った。


台所から音がした。

包丁の音。

出汁の匂いが漂ってきた。


誰かとご飯なんていつぶりだろう。

デスクで食う冷えたコンビニ飯の記憶しか出てこない。

蛍光灯の下で、画面を見ながら、味も分からないまま食べていたあれは、飯と呼んでいいのか。


タマさんが戻ってきた。

皿を両手で持って、ゆっくりと、丁寧に置いた。


出てきた皿から湯気が上がっていた。

出汁の匂いがした。


(うまいうまいよタマさん)にゃー


「あらあら、泣くほど熱かった?」


(……)


(ねこまんまじゃなければなお良かったが、何故混ぜた)


タマさんは楽しそうに笑っていた。

縁側に腰を下ろして、ぬるくなったお茶を飲んでいる。


庭に風が抜けた。

隅の花が揺れた。

金木犀の匂いがかすかにした。


黙って食べた。

温かかった。


タマさんはずっと笑っていた。

何も聞かなかった。

ただ隣にいた。


それだけでよかった。


---


元社畜、一条大牙いちじょうたいが

タイガーなのに社畜柄猫の日常は続く…。

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