第七二話 番外編 博物館の竜 後編
投稿です。
少年は小学生高学年になり、中学生になり、高校生になった。
日常生活には影響はないと医者は言っていたが、少年は信じていなかった。
時々、体中を走る違和感。
そう、何かが走るのだ。
「パパさんは30過ぎまで頑張ったけど、俺はどうかなぁ」
目の前にはアンキロサウルス。
「俺、明日から修学旅行なんだ、行き先は花の都。母さんを一人置いていくのは心配だけど、なんかあったら皆で助けてくれよな?」
少年にとって最早、太古の化石達は家族であった。
そして感じる視線。
少年は確信している。
こいつらは動かないだけだ、生きている。
骨だけの存在だけど、黙して皆を見守っているんだ。
皆の憧れ、博物館の竜。
そして運命の日が来る。
その日、お母さんは一人博物館を訪れた。
何年振りであろうか?
「あのころから……そう、今もあなたにちょっとだけ嫉妬してるの、アンキロちゃん。あなたまるで彼女なのよ!息子の彼女に嫉妬する母親、変かしら?」
でもこの化石達のどこがいいのかしら?
やはり、怖いだけなのだが。
骨だし。
まったく良さがわからん!
「!?」
激しい目眩に、倒れ込む母親。
……地震か……
……最近多いなぁ……
……停電とかさぁ……
……おい、これは!?……
ドオオオオオオオオオオンッ!
外からもの凄い音が響いてきた。
それはスターダストの落ちる音。
照明が落ち、辺りに悲鳴が響いた。
ゴブリンが館内に雪崩れ込んできたのだ!
……なんだこいつらは!?……
……逃げろ!……
……どこへ!?……
……ぎゃあっ!……
悲鳴が館内に響き渡る!緑色の大小様々なゴブリンどもが、入場者を襲い始めたのだ!
勇敢に戦った者もいるが、ゴブリンどもの数が多すぎである!
怪我をし、倒れていく大人達。
皆、子どもかばい、血を流していく。
……お父さん!……
……どうしよう!……
……わーん……
その母親も、襲われている子どもを抱きしめ、ゴブリンの爪に裂かれた。
薄れゆく意識の中で、アンキロザウルスに願った。
……皆をたすけて……
子ども達は祈った。
……チラノ!彼奴らをやっつけて!……
巨大な龍が動いた!
……祈りの声が聞こえる……
……ああ、あそこに綺麗なフェアリーサークルが見える……
……あの太古の竜達も咆えている……
……悔しそうだなぁ……
……あれにしよう……あれがいい……
……あれこそ我々に相応しく思うぞ!……
化石達がキラキラと銀色に輝き出す!
化石だけではない、粘土や樹脂のレプリカも輝き始めた!
ビキビキ、ゴリゴリと異様な音を立て、骨格標本に血肉が満ち始める!
空洞だった眼窩に血の通った瞳が宿る。
そして、その母親にゴブリンが鋭い爪を突き刺そうとした瞬間!
「がぶ!」
アンキロサウルスがゴブリンの腕に噛みついた!
……ガアアアッ!?……
ゴブリンはその牙だらけの口から、驚きの悲鳴を吐き出す!
アンキロサウルスの黒々とした眼は怒りに満ち、筋肉を脈動させゴブリンを投げ飛ばした!
そして尾のハンマーが唸り、侵入者を粉砕していく!
次々に動き出す太古の竜達!それはもう、骨格の標本ではない!
銀色の光はあらゆる展示物に宿り、太古の生物が蘇る!
博物館の壁を突き破り、町に出て行く恐竜達!
ゴブリン狩りだ!
ザリガニの怪物を軽く踏み潰し、咆哮が響き渡る!
町で人気の博物館は、難攻不落の砦になった。
傷ついた母親に近づいてくるアンモナイト。
ぺたぺたずるずる。
不思議な足音である。
……アンモって陸上歩くんだっけ?……
……あ!……
その触手を伸ばし、怪我人を次々に癒やしていく。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
……何でも聞いた話によると、北極と南極が入れ替わったそうだ。
その影響で、全ての電子機器が壊れ、地球の周りを回っていた衛星やら、スターダストが地上に全て降り注いだらしい。
発電所が止まり、交通機関が世界規模で麻痺した。
異世界からの侵略がはじまり、世界はひっくり返った。
そんな中、蘇った太古の竜達が暴れ周り、ゴブリンどもを食い散らかす町があった。
もはやこの風景は日常である。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
すりすり。
アンキロザウルスが母親に硬い頭を擦り付ける。
「ありがとう、皆をたすけてくれて……」
ここで一つ疑問が湧いた。
いや疑問は一つではないのだが、大事な疑問だ。
彼女は聞いてみることにした。
「ねぇ、アンキロちゃん、あなたはどんな声で鳴くの?」
「アンキロ!アンキロ!」
驚いたのは、彼女に抱きしめられていた男の子である。
「えええっ!?がおーじゃないの!?」
「ないみたいね」
「あ…おば……お姉さん!たすけてくれてありがとうございます!」
あら、私、まだお姉さんで通用するのかしら?とか考えているお母さん。
そこにどしん、どしん、と現われるステゴサウルス。
「お前はなんて鳴くんだい?ステゴザウルス!」
恐怖も何も感じず、ただ大好きな恐竜に話し掛ける男の子。
「ゴザル、ゴザル!」
「「うわぁ、まじかぁ……」」
お母さんは思った。
パパさん、嘘つきではなかったみたい。
そして月日は流れる。
今日もその母親は小高い丘に立っていた。
恐竜博物館の横に設置されている無駄に広い公園だ。
今ではとんでもなく役に立っている。
人々が暮らし始めたのだ。
いつも同じ方向を見て涙する母親。
その先には花の都がある。
大丈夫だろうか、知る術がない。
無事だとは思う、だが。
そしてその足下には、いつもアンキロサウルスがいた。
その日はいつもと違い、アンキロサウルスが勇んでいた。
アンキロサウルスは母親にすりすりすると、振り向かず歩き出した。
ベシベシ。
アンキロサウルスは尾のハンマーで大地を叩いた。
「ああ、会いに行くんだ」
アンキロサウルスはしっかりした足取りで、花の都を目指し歩き始めた。
月日はさらに流れる。
「覚醒しても、心臓病はそのままなの?」
「ああ、だけどもうオヤジの年齢は越えたよ」
少年は立派な大人になっていた。
「トリのヤツ、いい加減に起きろってんだ!いつまで寝てやがる!」
「だよね」
「オトネも!白鳥さんもっ!」
「だよねぇ」
「せめてあいつらが目覚めるまで、死んでたまるか!起きたら、俺達の苦労話、山のように聞かせてやる!」
「だよね!」
ゴブリンを斬り伏せる屈強な男。
だがアンキロサウルスの目には、あの日、あの時の少年にしか見えない!
少年を見つけてアンキロサウルスは、喜び勇んで走って行く!
そして雄叫びをあげた!
……アンキロ、アンキロ!……
番外篇 おわり
以上、番外編でした。
はい、何でも登場します。
世界がひっくり返った話しですから。
そう、なんでもアリです。
では本編は夏再開予定です。
もちろんアンキロちゃんも登場します、楽しみにお待ち下さい。




